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魔王との決戦 ⑫

「能面ライダー!!」


 キキが召喚された正義の味方の名前を叫ぶ。ここまではお約束だが、問題はその正義の味方の実力と性格だな。


「当りなの? 外れなの?」

「大当たりに入るだろうけど、能面ライダーは無口だから意志疎通が難しいかも」

「・・・・・・(あっちにいる黒服のオジサマと周りの怪物達を倒せばいいのね。任せて!)」

「あ、能面ライダーの面の形状がみるみる変わってゆく!」

「そう、能面ライダーは面を変化させることで戦い方を変えるんだ。ちなみに登場時は【若女】だったけどいまは【般若】になってる。最初からエンジン全開ってわけね」

「ふわぁ、でも正義の味方って感じの面じゃないね」

「般若は怨霊に分類されてるからね。面だけで見れば確かに正義の味方とは程遠い外見。だけど、そんな能面ライダーも紛うことなき正義の味方だよ!」

「・・・・・・(正義の力を見せてあげる!)」


 背後から相変わらず楽しそうな会話が聞こえてくるが、その間、僕は ≪カード≫ を用いて虎を止めるのに必死。正直、能面ライダーさっさとしろ! と叫びたいくらいだった。


 突如、虎が後方へ吹っ飛んだ。能面ライダーが飛び蹴りを放ったのだ。バイクから降りて戦うライダー・・・・・・ふつうだ! だけどその強さに関しては前々回のウルトラにゃんにもあてはまるがやっぱり人外レベルだな。能面ライダーは流れるような動きで弱った虎を連打で倒すと、そのまま魔王達の方へと駆けていった。


 能面ライダーが魔王達との戦線に加わったのを確認して、DCOとMJKがみんなに逃げるように合図を送ると、みんなは緊張の面持ちでそろそろと出入り口の扉の方へ向かう。そんな中、近くでエンジンが駆動するブルルン、ドッドッドッ、という音に続き、グオオン、グオオンと空吹かしする音が鳴り響いた。振り返ればそこにはバイクに跨りハンドルを握るCCOの姿が。


「おい、このバイク動きそうだぜ? へっへっへ、オレはこれで逃げるからよ、先に外で待ってるぜ! みんなも無事に脱出しろよな!?」


 ちょっとカチンときた。CCOが跨っているのは能面ライダーのバイクだし、エンジンを吹かされるとその音のせいで魔王が僕達の方に目を向けてしまう恐れもあったし。


「む! 逃げるつもりか!? そうはいかんぞ!!」


 ほらな。魔王がそう吠えたかと思うと、僕達の行く手を阻むかのように、水晶を嵌めた杖を持つ魔法使い×2が現われた。


「じゃあな!」


 CCOがいち早くみんなに別れを告げた。


「ちょい待ち! ウチも乗せたってや!」

「おう早く乗れよ!」


 KKKが素早い身のこなしでCCOの後ろに飛び乗ると、バイクは勢い良く発進。初速からロケットエンジンでも搭載しているんじゃないかと勘繰ってしまいそうになるほどの急加速を見せたかと思うと、バイクは魔法使い×1を道連れに大聖堂の壁に追突。バイクはそのまま外へと走り去って行ったが、運転手であるCCOと同乗者のKKK、前輪のタイヤカバーの上に載せられた魔法使い×1はトマトになった。


ああ、どれくらいの期間か分からないが、とりあえずお別れだな、CCO。


「≪ダークファンタジー≫・・・・・・」


 残された魔法使い×1は仲間の死を悼む素振りさえ見せず、呪文らしい言葉を口にする。すると数人の前に不気味な渦を巻く闇が出現し、その闇は音も無く破裂した。弾ける闇の黒の背後に鮮血の赤が飛び散る。魔法を受けた同級生のことは諦めざるを得ない。彼等のことまで気に掛けていてはこの大聖堂から脱出するなんて不可能。


 だが、パニックに陥った同級生達の中にどうしてもMHKを探してしまう。いまの彼女は僕に無関心だというのに。もう2度と訪れることのない未来の中にいた彼女のことを恋しく思ったって仕方ないし、いつか ≪リセット≫ してまたここに戻ってくることを思えば、僕にとってのいまという時間にさえ意味を見い出せない。なにしろ次に ≪リセット≫ するのは僕じゃないからな。僕の職業は博徒だ。博徒が魔王を倒す力を手に入れられるとは思っていない。じゃあ、彼女の職業はなんだ? 彼女が優秀な戦闘職であれば、次に ≪リセット≫ をするのが彼女である可能性もある。もしも彼女がいまの記憶を引き継ぐのなら、いま僕ががんばることも無意味じゃないだろ? ま、といっても僕のとりあえずの推しはDCOなんだがな。


 DCOとMJKの2人は僕の傍にいた。この2人には絶対に生きてここから脱出してもらう必要があった。現時点で ≪リセット≫ と ≪セーブ≫ の効果を実感しているのは僕を除けばこの2人しかいないのだから。となれば、未練を引き摺っている場合じゃないな。


「足を止めるな! 言い方は悪いが人のことより自分が生き残ることを考えてくれ!」


 目の前の惨劇に足を止めたDCOを叱咤する。


「ちくしょう!」


 DCOは悪態を吐きながらも動こうとしたが、隣のMJKに動く気配がない。


「おいMJK、しっかりしろ! 逃げないと死ぬぞ!」


 そう呼び掛けたが、相変わらず反応なし。目は開いてるのに、焦点は同級生の死体に釘付けになったままだ。もしかすると、いまの彼女の頭の中は真っ白になっているのかもしれない。


「しゃあねえなぁ、MJK、オレが担いでってやるから暴れんなよ?」


 困り果てたDCOがついにMJKをその背に乗せて走り出した。本当にDCOは頼りになる男だと思う。だが、ほっとしたのも束の間、不意に目の端にMHKの姿が映り込んだ。しかも彼女の方に向けて、いまにも魔法使い×1が呪文を唱えそうな雰囲気。


「男なら呪文とか使ってねえで素手で勝負しやがれ!」


 気が付いたときには僕はそう叫んで ≪カード≫ を投げていた。カードは魔法使い×1の頭と杖の柄に当ったが、刺さりもしなければ掠り傷さえも付けられなかった。だが、魔法使い×1は僕の方を向いた。矛先を変えてくれた。


「≪イービルワーニン≫」


 魔法使い×1がそう言うと、急に背筋が凍り付くような恐怖に襲われ、僕はただの一歩も動けなくなってしまった。


「≪ラストエンジェル≫」


 魔法使い×1が続け様にそう言ったときだった。腰の辺りに強い衝撃を受けて僕はいささか吹き飛ばされ、大聖堂の固い床面の上を転がることになった。少々痛かったが、その衝撃のおかげで先程までの恐怖感が夢のように消えて正気を取り戻せた。一体、何が起きたのかと自分のいた場所を見ると、そこにはHEOがいた。彼は膝を折り身を屈めた体勢で自分の頭を両手で抱えていた。その手には力が入り、まるで頭を指でぐりぐりと圧迫しているように見えた。


「おい、HEO。どうした!? 大丈夫か!」


 まさか、まさかそんなはずはないよな? HEOが僕を庇って敵の魔法を受けてしまったなんてことは・・・・・・。


「人のことはどうでもいいからさっさと逃げろよ!」


 伏せていた顔を上げてそう苦しそうに叫んだHEOの顔からは滝のように大量の汗が流れていた。どう見てもふつうじゃない。魔法使い×1が僕に向けて放った魔法を代わりに受けたに違いなかった。


「な、なんで・・・・・HEOこそ、人のことなんか放っておいて逃げりゃよかったじゃないか」

「何を勘違いしてんだ? 僕はGLOのことがムカついたから突き飛ばしただけだ。分かったらさっさと行けよ!」

「なんでムカつかれないといけねえんだよ? いまはムカつかれるようなことしてねえだろ?」

「バカ、お前さっき魔法使い×1の注意を自分に向けるために攻撃を仕掛けてたろ!? それが気に喰わねえんだよ! レベル20のお前がここで死んでどうするんだ? お前は生き延びて、ここから脱出したあとのみんなを守らないといけないだろ!」

「ああ、それは言えてるかもな」

「だから早く行けって! 僕は敵の ≪ラストエンジェル≫ を喰らったから、じきに悪魔に魂を売った堕天使になってしまう。そうなると僕までGLOを攻撃してしまうかもしれない。そうなる前に、僕が僕でいられるうちに早くこの場を離れてくれ! うわああ!!」

「・・・・・・」


 再び何かの発作に苦しみ始めたHEOを置き去りに、僕は黙って踵を返した。


 ありがとうHEO。手は合わせないぞ。必ず誰かが戻ってきてくれるんだから。

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