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魔王との決戦 ⑪

 虎が吹っ飛んでいった方を見れば、そこには大聖堂の分厚い壁面に叩き付けられてボロボロになった身体を横たえ、眠りに就いている虎がいた。壁面には激しい亀裂が走り、惨たらしい流血の痕があった。


「待て~い! ラーメンライダ~、逃げるな~!」


 そんな野太い声がしたかと思うと、また僕の横を突風が駆け抜ける。今度は素面ライダーが通過したようだった。


「ラーメンライダー! 急がないと素面ライダーが来るよ!」

「ふん、追いかけっこでオレに勝とうなんざ100年早いんだよ。一生オレのケツを拝んでるがいいさ」

「今日こそお縄にしてやる~!」

「ラーメンライダー! 早く!」

「おうよ、しっかり掴まってなよ、譲ちゃん達」


 ラーメンライダーがパルムとキキをバイクに乗せて走り始めた。全員ノーヘルで3ケツか。


「パルム嬢を逃がすなー!! あのバイクをなんとかしろー!!」


 魔王である牧師姿のオジサマが魔物達に向けて叫ぶと、魔物達がぞろぞろと出入り口の方へ移動を開始。俊敏に動きまわるラーメンライダーを追いかけ回すよりも退路を断つ作戦に出たようだ。かといって大聖堂内では素面ライダーがラーメンライダーを追いかけ回してるから、ラーメンライダーには息つく暇もないといった感じ。本当になにがなにやら、だな。


「伸びろ、ラーメン! 空架けるラーメンロード!」


 突然、ラーメンライダーが彼に似つかわしくない言葉を叫んだ。すると、彼の手から1本の太麺が真っすぐ上に向かって伸びてゆく。そして次の瞬間、僕は信じられない光景をまのあたりにした。


 なんとバイクがその太麺の上を走行しているのだ。太麺は真っすぐ採光塔の頂点まで伸びていた。真っすぐ、上に向かって、地平に対して垂直に、だ。切り立った断崖絶壁をバイクで上向きに走行するのならまだ分かるが、太麺を路面代わりにするとかもう訳が分からないな。


「うえええええ!? 天に向かって伸びたラーメンの麺の上を走っているだとおおぉぉ!?」

「これがホンマのラーメン道やでぇ!」


 みんなも呆れながらその様子を見ている。


「説明しよう!」


 突然、HEOが力強く言った。


「いや、説明しなくていいから」


 呆れ顔のMHKがHEOの説明を拒絶した。おそらく根が真面目な彼女にはこのふざけた事態を許容できないのだと思う。


「待て~い!」


 続いて素面ライダーまでその細麺をバイクで登り始めた。


「説明しよう!」

「だから説明しなくていいってば!」


 どうしても説明したいHEOとどうしても説明されたくないMHKのやりとりが繰り返される。


「リルラ=トゥール=メディシス! この1たびだけ貴様に天下をくれてやろう! せいぜい束の間の栄華を愉しんでいるがいい! そう遠くない未来に貴様の寝首を掻いてやるから首を洗って待っておれ!」


 採光塔の頂点へ向かうバイクに跨ったキキが捨て台詞を吐くと、


「おお!? キキかっこいい! どこでそんな口上覚えたの!?」


 と今度はパルムの声が響いた。


「ふ、これもオーギュスト家の使用人の嗜みですわ。おーほほほ・・・・・・」


 ガシャン!


 まもなく採光塔上部のガラスが割れる音がした。キラキラとガラスの破片が舞い落ちてくる。そのガラスの破片を避けるようにジグザグに動きながら、1つの光る球体がやはり採光塔の頂点に向かって上昇していった。なんとなく、あの球体は3分以上経過して戦えなくなったウニュトラマンなんだろうな、と思った。


 騒がしい2人のライダーがいなくなったことで俄かに静かになった大聖堂。


 あの様子だとパルムとキキは窮地を脱することに成功したに違いない。ま、すぐに ≪リセット≫ して「おかえり」って言ってやるわけだが。それにしても、当初はどうせ死ぬなら外でとか潮らしく言っていたくせに、逃亡に成功しそうになった途端に復讐する気満々なことを言ってたからな。あの2人は逃亡後も行き当たりばったりで色々やらかすんだろうな。


 ん? 逃亡、逃亡後・・・・・・これだ!!




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 いまだに自分の力の全容を把握しきれていなかったが、素晴らしい作戦を思い付いたので取り急ぎ ≪リセット≫ して ≪セーブ≫ した。それから急いでパルムに召喚をお願いする。彼女がまた渋々召喚を了承してくれたところで、今度はDCOとMJKに声を掛ける。情けない話だが、頼りになるのはDCOとMJKだけだったし、僕が頼れるのもDCOとMJKしかいなかった。もちろん頼りになる人はDCOとMJKの他にもいるが、その人達は僕が頼っても色好い返事をしてくれないからな。


 というわけで、僕はDCOとMJKに作戦を話した。


「え? 逃げるだって?」

「逃げるのはいいとして、魔王達が素直に逃がしてくれるかなぁ?」

「僕達が出てゆくのは扉からだからな。ウニュトラマンとラーメンライダーががんばってくれてはいるが、それでも何匹かの魔物が僕達の行く手を阻むだろう」

「じゃあ、誰かが殺されちゃうかもしれないじゃん!? そうでしょ!?」

「そうだよ」

「ダメじゃん!?」

「大丈夫だ。≪リセット≫ で生き返れる」

「どういうこと?」

「手短に話すからよく聞いてな」


 作戦はこうだ。1、この窮地を脱する。2、旅する。3、レベル上がる。4、強くなった人が ≪リセット≫ してここに戻ってくる。5、魔王を倒す!


「分かった?」

「何人犠牲になっても1人が ≪リセット≫ で生還できればOKってことね?」

「ああ。あと、問題は ≪セーブ≫ だ。強くなるための旅がいつまで続くか分からないが、途中で ≪セーブ≫ を誰かに使われるとその時点で終わりだ。あと、仮に逃亡後にパルム達が魔王に勝利したことを知り得ても、僕達の誰かが死んでいれば構わず ≪リセット≫ だ。よく覚えておいてくれ。僕達の最終目標は全員無事に揃って元の世界に帰ることだからな」

「でも、GLOはこういう世界って好きなのかと思ってたけど、そういうわけでもないんだな?」

「当然だ。この世界に現代的なゲームはないだろうし、なにより不便なことだらけだろうし」

「はは、違いねえや」

「衛生面も問題ありそうだし、私も早く帰りたいよ」

「そのためにもDCOとMJKがこの作戦をみんなに伝えてくれ。僕が言ったんじゃ誰も聞く耳を持たないからな」

「そんなこと言うなよGLO」

「え、でもそれ分かるぅ」

「うるさい、あとこれも忘れるな。いずれ、強くなった誰かが ≪リセット≫ を使う日が来るだろう。そのときそいつに伝えておけ。≪リセット≫ したらすぐ ≪セーブ≫ しろってな」


 こんなふうに大体話を終えたときだった。


「おーい! 1匹そっちへ行ったぞ!」


 ラーメンライダーがいつもどおり警告を発する。やはりパルムの召喚より虎の離脱のタイミングの方が早いようだ。


「出たぁ!」


 続いてパルムの声。今回は当りなら良いのだが。

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