魔王との決戦 ⑩
「し、素面ライダー!!」
「素面ライダーって、強いの?」
「う~ん、確かに素面ライダーも正義の味方ではあるんだけど、どちらかといえばラーメンライダー達と敵対関係にあってね。ラーメンライダーがバイクで怪人をやっつけようとするのを道交法違反だとか難癖を付けて逮捕しようとしているライダーなんだ」
「ってことは敵を召喚しちゃったってこと?」
「一応、正義の味方だから敵ってことはないと思うの」
「でも素面ライダーはラーメンライダーのやり方が気に入らないんだよね?」
「うん、怪人を倒すのにバイクを利用してるのがダメみたいだよ? とにかく素面ライダーは法律にうるさいんだ」
なんだか背後から不穏な会話が。もしかして召喚に失敗した? 振り返れば、そこには白バイに跨った白バイ隊員風のおっさんがいた。
「自動車はそうと自覚していなくとも凶器であることに違いなく、その運転に際しては技術よりも気持ちが大事。これ、フォード・モーターが自動車の大量生産を開始したころから今日まで伝えられてる真理だから」
場違い感半端ねえなこれ。
「む、あれに見えるは我が宿敵、ラーメンライダーではないか。ここで会ったが100年目、今日こそ引導を渡してくれる!」
こちらに真っすぐ向かってくる虎は無視ですかそうですか。
「あ~ん、最後の1人が大外れだよお!」
「オーギュスト家、いえ、人類の命運もここまでだね。だって素面ライダーったらラーメンライダーを邪魔する気満々なんだもの」
「うう、ごめんなさいごめんなさい」
「ううん、パルムが悪いんじゃないんだよ。元々パルムの小さな肩にこの世界の命運を乗っけた大人達全員の責任なんだから」
後ろの2人はもう世界崩壊エンドに向かって突っ走ってるし。
「おいあれどうやって相手するんだ?」
「無理でしょ?」
みんなは虎の魔物に対して動揺してるな。よし、もうこのターンでの ≪リセット≫ は確定として、ここは僕があの虎とどこまで渡り合えるか試すとするか。
まずは ≪ダイス≫!
1回の戦闘につき1度しか使えないが、2個の賽を振って出た目によって選択されたステータス上昇!
カラカラコロン・・・・・・4と4。
素早さを4割アップ!
24が34に!
そして、≪カード≫!
【特技】で ≪カード≫ を選択してカードを手元に出現させる。いままで ≪カード≫ にMPを使用したことはなかったが、今回はMPをカードに込めるようにイメージ。そう、ステータス画面をよく確認すると、≪カード≫ の説明にMP3~10消費という文言があったんだよな。ようするに、MPの消費量次第で威力の調整ができるってことだろう。
MPを10消費して虎に投げるから虎を真っ二つにしろマジで!
てい!
勢いよく飛んでいったカードは虎の前足の付け根に刺さった。虎は一瞬怯んだものの、刺さったカードのことなど意に介さず僕達の方へ突っ込んでくる。
「ひゃぁ、カード投げて攻撃やなんてゲーム好きもここまで極めたらもう一丁前やんな。誇ってええんとちゃうん?」
「格ゲーのボスっぽい」
「カードで戦えるんだったらもうただのゲーマーじゃなくてプロだよ!」
「すっげえ、マジすっげえ」
「クッソアホだわ、良い意味で!」
まだ誰も死んでいないからかみんなの反応が軽いな。こっちは必死だってのに好き勝手言いやがって。
「ねえパルム、最期は外で迎えない? 魔王も言ってたけど、今日は良い天気なんだ。大聖堂も素敵だけど、ちょっと薄暗いから」
「うん、キキの言うとおりだよ。このまま部屋からも出ずに2度寝なんて御免だ」
召喚師とメイドは死に場所の話までし始めた。召喚が失敗するとこうなるのか。恐るべし、素面ライダー。
さて、虎の方だがいまは次々に飛んでくるカードを警戒しているのか、足を止めて僕の方を睨んでいた。ここまで投げたカードは10枚。不足分のMPは ≪交換≫ でHPをMPに換えて補填した。虎の顔面はもう真っ赤に染まっていた。複数枚を当てるべき箇所に当てられさえすれば虎をも足止めできることは分かった。ただ、仕留められるかどうかとなると、まだ定かじゃない。なにしろ虎の目はまだ獰猛な光を失っていないのだ。いまはこちらの様子を窺っているだけ。だから油断はできない。
とはいえ肉弾も試しておきたかった。ふつうのRPGだと武器とか設定されてるんだろうから素手で戦うということにやや不安はあるが、試してみないと始まらないしな。
「キキ、ここももう闇に沈む。行こう」
「そうだね。でも、魔物があんなにウジャウジャいて無事にここから出られるかしら?」
「ラーメンライダーに頼もう」
「ああ、そだね。きっとラーメンライダーなら簡単にここを抜け出せるよ」
おいおい、まさかラーメンライダーを戦線離脱させるつもりか? そんなことしたらあっという間に戦線が崩壊するぞ。チッ、こっちも急ぐか。魔物の群れが押し寄せてくる前に試さなくてはと思い、僕は思い切って虎へと駆け寄った。
「ラーメンライダー!! カモーン!」
後方からパルムの大声が響く。場の空気が混沌としてきたが、構っていられない。どうせまた≪リセット≫するわけだし、次のためにも僕の力を試しておかなくては。とは思っても、いざ虎と間近で対峙するとビビってしまう。みんなの命を一瞬で奪っていった強烈な一撃を持つ相手。しかも僕は攻撃を受けることに関しては素人だ。そんな僕にとって、遠くから攻撃するのと近くから攻撃するのとでは危険度に雲泥の差があった。いくらレベル20でHP満タンだからといって、虎の攻撃を受け切れるとはかぎらない。
改めて見る虎は現実世界の虎よりも3~4倍の大きさはあろうかと思われた。しかもその重量がスピードの枷になっている様子もなく、身軽な小動物や昆虫のように敏捷に動くのだ。
この虎に正面から挑むなんて無謀。後の先を取られて終わり。みんなの身体が風船人形のように容易く引き千切られてゆく光景を目にしたのが余計だったかもしれない。くそ、恐怖心で身体が言うことを聞かなくなってんな。
そのとき、凄まじい轟音と共に虎の巨体があらぬ方向へ吹っ飛んだ。虎と入れ替わりに現われたのはラーメンライダーで、彼は速度をキープしたまま僕の方へ真っすぐ向かってきていたから慌ててバイクの走行線上から身をかわす。彼が僕の横を通過した直後、身体を持っていかれそうになるほどの突風が駆け抜けた。
ふう、危うく正義の味方に殺されるところだったな。