オープニング
40000字程度で終わる予定です
完結したので訂正しますが上記は大嘘です(^^;
10万以上あります
水晶歴1192年、終焉の時を司る女神に導かれし魔王リルラ=トゥール=メディシスが自ら采配を握り軍を率いて、人類の希望であるオーギュスト家の令嬢パルム=トゥス=オーギュストを討たんがため、世界の最果てと噂される星の砂漠シルバーランドから一路テカモニカ皇国をめざした。
オーギュスト家の女性には代々神秘の力が受け継がれており、それは始まりの時を司る女神の祝福であり、勇者を召喚する力だった。
魔物が世界に現われて幾星霜、オーギュスト家の正しき血統を継ぐ女性達は彼女達の力の許すかぎり勇者を召喚し魔物が人類を脅かすのを悉く防いできた。
勇者の子孫達はまた勇者や優秀な戦士になり、彼等が使った武具には女神の祝福が施されて不思議な力が宿った。
このように人類と魔物は長きに渡って争ってきたのだが、水晶歴1199年、魔王軍は各地に根を張る勇者一派を薙ぎ倒し、さらにテカモニカ皇国の堅牢な防壁をも乗り越え、ついにオーギュスト家に魔の手を伸ばそうとしていた。
オーギュスト家、朝。
古くから国の神事を司ってきたオーギュスト家の中庭には町の人々も頻繁に訪れる大聖堂があった。真っ白な美しい壁には陽を受けて輝くステンドグラスの鮮やかな窓。丁番をギイっと軋ませつつ厳めしい扉を開くと、石畳の広間があり、来訪者はまずその広間の暗がりに投げ掛けられたステンドグラスの色彩豊かな光に息を飲む。奥の方を見やれば礼拝堂があり、その頭上は吹き抜けの採光塔になっているため日が昇ると円状の光が降り注ぐ。まさにそこに神が降り立つのではないかと思わせる神秘的な空間だった。一国の王ですらこの場ではただの人になる。王は神託により任命される世であったから、王の上に教会が存在し、教会こそ権威の象徴だった。つまりなにが言いたいかというと、オーギュスト家は偉いのだ。凄いのだ。
そんな大聖堂の片隅に起居する少女がいた。
少女の名はパルム=トゥス=オーギュスト。
今年13歳になったばかりのパルムにはまだ色気もなければ見栄もない。ダークブラウン色の長い髪には櫛こそ通すもののそれ以上に手を加えず、着物も飾り気のない白色のワンピース。そんな姿で1日中、プラプラしてばかりというのがパルムの日常で、彼女の周りにはいつもオーギュスト家の使用人であるキキ=ラティス=ぺル二シモが付き添っていた。キキはパルムの3歳上のお姉さんで、パルムの小さなころにオーギュスト家の使用人としてやってきた。以来、ずっとパルムの世話を焼いてきたから、2人きりのときは主従の垣根が自然となくなり、本当の姉妹のように接っしていた。
「パルム、朝よ、起きなさい!」
大聖堂の片隅にある天蓋ベッドのカーテンから顔を覗かせて、いつもと同じように今朝もキキがパルムを起こす。
「くぁ、おはよ、キキ」
「おはよ、じゃないよ。今日は何日?」
「ん~、何日だっけ?」
「4月1日よ!」
「わお、エイプリルフ~ル・・・だね!」
「なにアホなこと言ってるの? 今日がなんの日か忘れたの? 魔王が来る日よ!」
「ほら、エイプリルフ~ル・・・じゃん!」
「こんなこと冗談で言う訳ないでしょぉ? ほら、さっさと起きて、バナナを食べて、勇者を召喚して!」
「なんでバナナ?」
「腹が減っては戦はできぬって言うでしょ!」
「戦? 魔王と?」
「そう、魔王と。もう一刻の猶予もないんだから」
どこか呆けているパルムを強引にベッドから引っ張り出して、寝癖の付いた髪に櫛を通してやるキキ。それから素早くパルムの身支度を整えてやり、次にサービスワゴンに載せていた紅茶とバナナを与えて、彼女を礼拝堂に連れ出した。そこで勇者を召喚させようというのだ。本来なら、いまは亡き母から神秘の力を受け継いだときから勇者の召喚を繰り返していなくてはならなかったのだが、のんびり屋さんのパルムはいままで一度も召喚を試してみたことすらない。そんな彼女だったが、彼女自身の意向で召喚の儀を行なう礼拝堂の片隅に天蓋ベッドを設置し、そこを自分の部屋のように使っていた。彼女曰く、「私はいつも女神様とお話してるんだ。神様に一番近い場所でね」と。そんなことを言う変わった少女だったが、彼女は確かにオーギュスト家の中でも類稀な才能の持ち主だった。ただ、勇者召喚の実績がないだけで・・・・・・。
パルムがそんなふうにのんびりしていたから、キキは魔王がやってくる今日こそ勇者を召喚してもらわなくてはと思っていた。自分が魔王に殺される場面を目撃すれば、さすがのパルムも召喚の儀をしようと思ってくれるだろうかと、パルムの世話役であるキキはそこまで思い詰めていた。
ギイ・・・・・・っと扉が開いたかと思うと、「お手紙来てま~す」という声が大聖堂に反響する。配達員がキキに手紙を持ってきたのだ。礼を言って手紙を受け取ったキキはその手紙に目を通して立ち眩みを起こした。
『おおよその到着時間が読めましたのでお報せ致します。4月1日の明け方にはそちらに着くかと思いますので、よろしくどーぞ!』 【リルラ=トゥール=メディシス】
手紙にはそう書かれていた。消印は3月30日。いまから2日前。
「ん、4月1日の明け方って・・・・・・いまじゃん!?」
「いまだよ!」
「ヤバいじゃん!」
「そうだよ!」
「どうするの!?」
「それはパルムが一番分かってるでしょ?」
う・・・と一瞬たじろぐパルム。そう、彼女も自分に課せられた役割くらい分かっているのだ。
「「勇者を召喚する!(のよ!)」」
息がピッタリ合ったことにくすりと笑みを零すパルムとキキ。それも束の間、再び大聖堂の扉が開くと、そこにスラリとした長身の男の影。男は無遠慮に礼拝堂の方へ向けて歩いてくる。男は黒の外套をまとい、首には十字架の首飾りを提げていたから、一見、牧師のようにも見えるが、男の顔に見覚えのないキキは男を警戒して、パルムを庇うように半歩前に出る。キキのその動きを見て、パルムも動く。
「パルム=トゥス=オーギュストさんだね?」
男が不躾に尋ねる。
「そうだよ、なにか御用でも?」
咄嗟にキキが答える。パルムを庇おうと自分がパルムであるかのように振舞ったのだ。
「ふ、キミはただの召使だろう。背後に庇っている小さなお嬢さんがパルム嬢だね?」
キキの使用人御用達の衣服のせいで、せっかくの彼女の強がりも水の泡。
「だったらなに? っていうか、あんた誰よ?」
キキの背後からパルムがぶっきら棒に尋ねる。
「これは失礼。私は魔王、名はリルラ=トゥール=メディシス」
「「やっぱりね(泣)!!」」
「オーギュストの血統を断ちに来た。まずはパルム嬢、キミからだ」
「チッ」
パルムが男を睨み舌打ちした瞬間、男とキキの間に目の眩むような光が瞬く。そのとき、まばゆい光の中になにかの影が現われた。
「ニュワッチ!」
「ぐはッ」
登場と同時に男の顎に頭突きをかましたのは召喚された何者かだった。
「あれは・・・・・・ウニュトラマン!」
召喚により現われた者の姿を見てキキが叫ぶ。
「知ってるの?」
「ええ、ウニュトラマンはM123銀河に端を発する一族の末裔で、日々宇宙怪獣と戦っている正義の味方だよ」
「ほえ~」
「ニュワ!(あいたたた)・・・・・・ニュニュ!(むむ、振り返ればうら若き乙女が2人、そして目の前には厳つい顔をしたオ・ジ・サ・マ。ということは、私はこのオジサマを倒せばよいのだな?)」
「キャー、さすが正義の味方は理解力が半端ないね! 話が早くて助かるとはこのことだ」
「おお、アタシってもしかしていきなり大当たり引いた!?」
「ぐぬぬ、何奴」
「ニュニュワ!(私はウニュトラマン。この世に悪が栄えた試しはない! 勝負だ!)」
「おおっとぉ! 正義のヒーローと魔王という異色のマッチングが実現。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのかぁ!?」
「キキって格闘技とか好きなんだっけ?」
「好き好き大好き」
「そんなキキさんには悪いけど、勝利を決定的なものにするためにまだまだ召喚するよ」
「お、いいね。召喚してみて」
ドロン・・・・・・。
「呼んだかい?」
ドッドッドッと排気音を唸らせながら登場したのはおかしな恰好をしたライダーだった。
「ラーメンライダー!!」
その姿を見てキキが再び目を輝かせる。
「知ってるの?」
「ええ、彼の名はラーメンライダー。その名のとおり、メットの代わりにドンブリを被ってて、ほっぺにはナルトをくっ付けてるの。いつもバイクで体当たりして悪い怪人なんかをやっつけてるんだ」
「つまり、当り? 外れ?」
「大当たりでしょぉ? この2大ヒーローが共闘して倒せない奴なんていないんだから」
「やれやれ、さすが私ってとこなのかな」
「そうだよ! さすがだよパルム」
「獲物はあいつだな? さあれ、オレの相棒のスパイクタイヤでミンチにしてやるぜ」
こうして新たな正義の味方が参戦し、対魔王戦は新たな局面を迎える。
「く、1対4とは卑怯な。そちらがその気ならこちらも増援を頼むだけだ」
魔王が口笛を鳴らすと、どこからともなく魔王の配下が現われた。配下にもピンキリありそうだが、その頭数だけなら30を越える。
「ニュ~・・・・・・(こう数が増えちゃ敵わねえな)」
「マズイな、このままじゃオレの99戦99勝の戦績に傷が付いちまう」
2人の正義の味方も苦戦気味。
「ヤバいよヤバいよ、負けちゃいけない2人が負けちゃうよぉ」
「数には数をぶっつけるしかないね。奥義【クラス転移】を使ってみる」
「ええ!? 【クラス転移】って勇者をまとめて30人前後一挙に召喚できるっていう・・・・・・、確か、歴史の長いオーギュスト家の中でも15代当主の妃様であらせられたパメラ=トゥス=オーギュスト様しか使いこなせなかったとされる伝説の召喚術。それをパルムが!?」
「なに驚いてんの? 私、天才だから」
次の瞬間、これまでにないほどの強い光が辺りを白く染め上げた。