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僕は化け物の胃の中  作者: 漣職槍人
第一・五章
9/17

010.世界滅亡は一家団欒の後に

第一章の補足及び第二章へのつなぎ第一・五章となります。

 デジタル時計の秒記がゼロを表示。同時にゼロ以外の数字が時刻表記からすべて消えた。

 続いて刻々と移り変わる時計の秒記に僕はやっと世界が存続したことを認識する。

 途端に息を吐き出して無意識にとめた呼吸を再開。過呼吸症候群患者のように浅く速く呼吸をむさぼった。手に強い圧迫感がして緊張の瞬間に手を握り合っていたことを思い出す。視線が自然と同じソファーで隣に座るパリアンへと移動した。


「大丈夫ですか?ユーゴ」


 心配する声。パリアンの顔を見たらほっとした。


「大丈夫。緊張が勝っただけだから」

 口の端がすっと勝手に持ち上がり自分が笑っているのに気がつく。今朝も見た疲労の色濃く残った顔を思い出し、そんな顔で笑う自分がおかしくて、安堵とおかしさをない交ぜにして笑った。


 パリアンに引っ張られて前のめりになる。

「もう大丈夫です。もう大丈夫なのです」

 パリアンが僕の頭をぎゅっと抱きしめてくれた。パリアンの柔らかい胸の中はあったかくてほっとするけれど。少し息苦しかった。大きすぎてもいいわけじゃないな。適度な大きさも大事だと思う。パリアンにいうと傷つくかもしれないからいわないけど。

ここ三日間生きた心地がしなかった。それだけに精神的に疲れていた僕は少しだけ素直に甘える。普段の自分なら甘えるなんてこんなことない。いまの自分は異常だ。本当に思っていた以上に心労を抱えていたらしい。


 それもこれもパンドラの箱が開けられたにもかかわらず、この日が来るまで回避できたのか確証が得られなかったのが大きい。


 僕は三日前のことを思い出す。


―――パリアンの裏胃さんからパンドラの箱を持ち帰った僕はすぐパリアンに箱を渡した。パンドラの少女と相性のよかったパリアンは予想通り箱を開ける力を持ちあっさりと開けることができた。

 結果何が起きたかというと。開けられたパンドラの箱からまだ出てきていなかった化け物たちが世界に解き放たれた。

 やがて何も出なくなったとき、誰もが箱の底を覗いてみる。箱には何も残っておらず、文字通り箱が空っぽになった。

 世界を救う特別な希望なんて残らなかったわけだ。


 何だこれは?

 世界が救われたどうかもわからず、誰もが混乱に陥った。ただ一人を除いて。


「なるほど。確かに今回の世界滅亡は回避されたな」

 その言葉を口にしたのは四神の玄武。今は人化により人の姿をしている。中国の漢民族の衣装・漢服に似た服、腰まで届く長い髭をはやし、両袖を合わせて手を袖の中にしまうその姿は厳しい顔つきと合わさって中国の歴史ドラマや絵画でみる偉人を髣髴とさせる。

 玄武への信頼を表すようにその一言で周りのざわめきが消えた。


「すみません玄武さん。私には何が起こったのか分かりません。よろしければご説明いただけないでしょうか?」

「実はパンドラの箱に世界滅亡回避の可能性を真っ先に示したのはスパゲッティー・モンスター神でな。かの神は世界創世とともに生まれ出でたる大神にして創世を解き明かす科学者でもあらせられる。その知識と知恵と見識は絶対に起こりえる未来を予見する」

 手紙の内容からは考えられないほどスパモンが高スペックすぎる。

「とまあ、確証はあったのだがどのようにして回避できるのかまでは知らなかったのだ。教えていただくこともできないしな」

彼は鬚を軽く一撫でする。

「それはなぜですか?」

「それは木崎殿ならよく知っているはずだ。かの神の手紙を読んだのだろう」

 スパモンの手紙からたどり着いていた結論の一つを思い出す。

「道筋を辿るためには話さないことが条件にあったからですか」

 頷き返えして肯定をしめされる。

「絶対に起こりえる未来。とはいえども未来とは取捨選択次第で起こりえるもの。つまりは星の数ほどある。それを選びとるにはすべきことをする必要があるというわけだ。箱を開けることでなぜ世界が存続できるのかを知らないことが選び取るための条件だったからにはこのときが来るまで知らなくてもしかたあるまい」

 ふん、と威張り散らしたように言った。


「さて。それでなにが起きたのかについてだが。なぜ我らがパンドラの箱に閉じ込められたのか。話したことを木崎殿は覚えているだろうか?」

「はい。世界から急に消える種族により、世界が崩壊しないように各種族は一個体ずつパンドラの箱に閉じ込める生贄となるものたちを残した。という話ですね」

「世界は確かに個別に存在する。しかし世界は世界だけでは成り立たない。世界があるためには世界を観測し、世界を彩るものたちが必要なのだ」

「世界を観測するものがいて世界は構成維持されるということですか?」

「うむ。そして世界の大きさも世界を彩る種族によって決まる。言い換えれば世界を支える枝の太さも種族で決まる。それゆえこの世界の枝が少なくなる種族にやせ細り折れないように我らはパンドラの箱に閉じ込めたられたのだ。我々の彩りが過去のものとなりこの世界から薄れるまで」

 ここではないどこか。眼差しは箱に閉じ込められた昔を思い出しているように見えた。

「さて。話を戻すとだな。箱から解き放たれたことによって我々は再び世界を観測し、やせ細っていた我々の枝が太くなり始めた。予告の日に枝が折れることはなくなったというわけだ」

「つまりはパンドラの箱の化け物がすべて解き放たれることで世界を支える枝は太くなり、世界滅亡が回避された?」

「そういうことだ」


 そうか。やったんだ。おれたちはやったんだ。ざわめきと共に周囲で歓喜の声が上がる。

世界滅亡が回避されたことに喜びあい騒ぎ始めた。


 喧騒の中で玄武が呟く。

「しかし。我々の考えも甘かったようだ。人が世界にこれほど増えるとは思わなかった」

 その言葉が気になって僕は玄武に尋ねる。

「予想していなかったということですか?」

 む。バツが悪そうな顔をしながらも玄武がしぶしぶ答える。

「人は世界を彩ることはできても、人以外の種族を増やすことはできない。世界の枝の幹は人だけではその太さに限界がある。世界を支えられぬほどに増えた人で支えられぬほどに世界が重くなるとは思わなかったのだ。我々が解き放たれることもないと」

「人の繁栄が予想外だったわけですか?」

 素直に思った疑問を口にしてある真実に気がつく。

「あれ?でもそうなると。今回の世界の滅亡の理由は――」

 肩をつかまれてぐっと力強く引き寄せられる。喜び合う周りに溶け込むように玄武が首の後ろに腕を回して肩を組み笑う。

「木崎殿。それ以上は言わぬほうが言い」

 おでこが引っ付きそうなくらい近くで玄武にたしなめられた。

「でもその話が本当なら世界を存続させるためにはこの世界には人はじゃまだったように聞こえます」

 周りに配慮しつつも我慢できずに口にする。

しかたがない、とため息をつきつつ玄武が話にのってくれる。

「パンドラの箱が開けられたのは偶然ではなく、世界を存続させるために世界が促したのかもしれん」

 僕は確かめたくもない大きな真実を聞く。

「世界は世界から人を消そうとしていたということですか?」

「そこまではわからん。わしよりも高位存在である世界に答えも求めるすべをわしも持ってはいないのだ。いいか。あくまでもすべては憶測でしかない」


 僕は怖くなる。人はまだ生きている。

 世界はこの先も人を滅ぼそうとするのではないだろうか?


「もし気になるのであれば一つだけ確かなことを教えよう。世界が望むのは世界の維持だ。無事平穏に世界滅亡とされた日が過ぎ去ったなら、世界はいまの現状を受け入れたことになる」

 救いのある言葉に少しだけ気が楽になる。

「だがそれで安心するな。今度はその先で次の戦いが待ち構えることになる」

「次の戦い?」

「まだ終わりではないということだ」

「まだ終わりじゃない?」

「回避されたのは今回の世界滅亡だ。これ以上は話せない」

 抱きしめられてばんばんと背中を叩かれる。

「無事に世界が存続したとき、その先の話をしよう」

 玄武は颯爽と人ごみの中に去っていった。


 視界の端で四股を踏む前の相撲取りのごとく腰割のポーズで僕を待つパリアンの姿が目に入る。次はパリアンの番です、と必死に訴える血走った目にじゃっかんドン引きしながらも見なかったことにして無視を決め込んだ。


――約束どおりまだ戦いが終わっていない意味を玄武に教えてもらいに行こう。

 パリアンから身を起こそうとすると、

「ユーゴ。時間ですし行きましょうか?」

 とパリアンがいって寄りかかっていた僕を押し出して起した。

「行くってどこに?」

 わけが分からなくて突然の戸惑いながらも聞き返す。

「へ?どこに行くのかって決まってるじゃないですか」

 パリアンはにこやかに笑って言う。

「新組織発足の式典です」

「はい?」

「みんな待っているのです」


 立ち上がるパリアン。早く早くと急かす子供のように僕も腕を引っ張られて立ち上がる。そのまま引っ張られて居住エリアのリビングから出て行った。

 通路を進む中で徐々に向かう先がどこなのかを理解する。

 組織の人間がすべて収容できる講堂。日本人的な説明であれば野球球場くらいの大きさとでも言えばいいだろうか。一部には人化できない化け物のためのスペースも用意されている。

 講堂に入ると各地へと散っていた仲間たちが戻ってきていた。パンドラの箱の残りの開放と共にここ数日間調査で散っていたものもいたはずだが人すべては把握できなくとも朱雀、ケンタウロス、ガルーダと各隊に所属する化け物は個々にしかいないので把握できる。魚の体に人の手足の生えた魚人族で海戦部隊のヌンサや見た目に反して職人気質で気の優しい鍛冶職人のサイクロップスもいる。

 最前列の座席に案内されて席に座る。隣に座るのかと思ったらパリアンはそそくさとどこかへ行ってしまった。

 増えていく人と共に騒がしくなり、講堂の中は話し声で埋まったころ。

 壇上に人が現れる。本組織長・神無(かんな)修一(しゅういち)。化け物たちの総括局長・玄武。世界の各支部局長。そして・・・・パリアン?なぜそこにいる。お偉いさん混じって並ぶパリアンにいやな予感しかしない。

 玄武と目があうとウィンクを返された。つまりここであのときの続きを教えてもらえるわけだ。


 神無本組織長が中央の講演台の前に立つと講堂全体のざわめきが消えて静かになる。

 色素が薄くて焦げ茶色の髪。一房垂れた先の眉間には相変わらず深いしわが刻まれている。銀物メガネとあいまってただ出さえ気難しい顔に獲物を狙う鷹のような鋭利さがある。まるで本部長に睨まれて静かになったように感じられた。


「まずはこの場に集まったすべてのものに礼を述べたい。貴君らの働きにより人類滅亡の阻止に続き、此度の世界滅亡も回避されるに到った。八年前に人類滅亡阻止を目的としてノペリッシュが、その三年後に世界滅亡回避を目的としていまのヌルネルが組織されてからはや八年が経ったが、すべてを成し遂げられたのは諸君らの功績によるものが大きい。しかしそのことを祝うべきこの場において私は貴君らに残念なことを伝えなければならない。なぜなら世界滅亡の脅威はまだ去っていないからだ。この世界を支える枝はまだ細い。このままではいずれ平穏と共に世界に再び増える生命の量にいつ世界の枝が崩れ落ちるか分からないままである」

 一呼吸の間をおいて表をあげてこの講堂に集まった全員を見渡すように視線を動かす。

「我々は次の戦へと挑まなければならない」

 意を決した力強い声で、よって、と高らかに宣言する。

「私は世界維持を目的とした新組織イメリの発足をここに宣言する」


 宣言を皮切りに次々と新組織について説明されていく。

 例えばいままでは監視の意味もこめて人大多数に化け物一の構成を守ってきたが、新に化け物だけの神代団(ミソロ)を設立するとのこと。団長は玄武でしかも組織の参謀長も兼任にするらしい。

中でも大きく変わったところの一つは化け物の呼称改善だろうか。

 世界滅亡回避が彼らの協力もあって成し遂げられたことからも今回の件ですべての化け物が人類の敵ではないと分かったからだろう。仲良くなった人間から抗議の声もあって化け物という呼び方は侮蔑にあたるとして新にウェレーという呼称が設けられることになった。そして逆に協力的でない化け物についても区別のためにギーグという呼称が設けられた。まあ、実際には化け(ウェレー)たちには気にしていないものも多く。どちらかというと人の都合の方が大きい。化け(ウェレー)たちはふ~んと聞き流していた。


「新組織についての説明はこんなところでいいだろう。後の詳細は配属後に各配属先の上司へ聞いて貰いたい。静聴ありがとう。次に我々の根本となす仕事の説明に移りたい。そちらについては本組織参謀長にして化け(ウェレー)を率いる最高責任者神代団(ミソロ)団長玄武殿より本作戦概要を説明いただく」

 神無本組織長の話が終わり、講壇から身を引くと背後から入れ替わるように玄武が出てくる。おっほん、と咳払いを一つ。

「難しい話をしても仕方が無いだろうから簡潔に言おう。世界存続のために世界の枝を太くする。具体的に言うと枝を太くするために他種族を。神代の終わりと共に他世界へと旅立ったものたちをこの世界へと連れ戻す。そのために諸君らには異世界へと旅立ちって貰う。彼らを探し出し、交渉し、この世界へと戻ってきてほしい。移動には星間を移動するスターゲート(星門)より上の宇宙(世界)間を移動するコスモゲート(宇宙門)を用意した。しかし実働部隊を担うものに関してはいままで以上に過酷な任務となることを理解しておいてもらいたい。行き先はどんな場所かはわからない。移動も行きはいい。ただ帰りはここのゲート座標は教えるが各自で帰還方法の確保を行う必要があるのだ」

 なるほど。行った先での主な任務は

 ①この世界出身の化け(ウェレー)の捜索及び帰還交渉

 ②帰還方法の確保と帰還

 といったところか。

「もちろんこの世界に残すものの事もあるだろう。今回の任務は辞退することもできるようにした。さてあとのことはまた後ほどとしよう。年寄りの長話ほどよくないものは無いからな。最期にこれをもって解散としたいところだが、新設される神代団(ミソロ)のパリアン副団長から挨拶があるそうだ。もう少しだけお付き合い願いたい。ではパリアン副団長前へ」

 パリアンの挨拶。悪い予感ばかりがしてならない。

「先日ついに婚約を果たして女の幸せを掴んだパリアンです」

 それこの件と関係ないよね。ああ、もう背後から僕への視線をすっごく感じる。視線が痛い。

「婚姻届はまだのため苗字はついていないのです。もちろん旦那様はみんなもご存知の木から始まるかたなのです。パリアンを狙っていた方々に関してはごめんなさいなのです。そして応援してくださったお姉様がたありがとうなのです。お局様方お先しま~す。パリアンは幸せになるのです」

 だめだ。パリアンを今すぐ引き摺り下ろしたい。誰かやつを止めてくれ!

「ひいっ!」

 パリアンが短い悲鳴を上げた。どうやらお局たちの殺意を受けたらしい。自業自得だ。助けを求めてこっちを見るんじゃない。ノロケかよって俺にも殺意向けられるじゃないか。

 パリアンが目に涙を浮かべておろおろしていると、おっほん、と神無と玄武ガわざとらしい大きな咳払いをした。おかげであたりの空気が一掃される。

 玄武が振り返るパリアンに次は無いぞと視線を送る。パリアンはロックミュージシャンのヘッドバンキングのごとく頭を上下に振った。

「大変失礼しましたなのです。世界滅亡回避とともどもの喜びにて舞い上がりすぎていたのです」

 ぺこりと頭を下げて謝罪した。

「パリアンがこの場を設けていただいたのは決して逃げられないように旦那様を追い詰めるためではないのです」

 それが本当だったとして俺はどうすればいいんだろうな。


 面を上げて真剣な眼差しをした顔を会場全体へと向ける。


「世界滅亡は一家団欒の後に、なのです」


 珍妙な言葉に周りが、はあ?、と疑問の声を出す。先ほどの発言と言い。パリアンの神妙発言は今に始まったことではない。もはや組織内でも周知の事実である。みなあきらめているだけに罵詈雑言が飛ぶことも無い。それでもこのような公的な場で許容できるものではない。

「我々は組織という名のもとに集った家族なのです」

 その言葉にざわめきが止み。だれもが押し黙り口をきつく閉じた。

「我々の仕事は世界の滅亡回避です。家族である我々が一家団欒を過ごすヒマさえない間は世界が存続します。我々が一家団欒を過ごすときこそ世界が滅亡するときなのです。だからそうであってほしいとわがままを言わせてください」

「ちなみにパリアン副団長には本人の希望もあってE調査隊木崎殿とともに他の隊とは違って二人一組で本作戦に参加してもらう」

 いつの間にかマイクを手にしていた玄武が補足するように言う。そんな話は聞いてない。というか本人の確認無にいま言いますか?

「世界滅亡は一家団欒の後に、の言葉を胸に一緒に頑張りましょう」


 パリアンと二人で異世界か。この先のことを考えたとき、何よりもそのことに疲れを感じた。




第二章は異世界胃世界ファンタジーです。

ただいま大まかなものはあるのですが、細かいところのプロット作成中となります。

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