014.町長との会合とホビットの起源
トントン。トントン。
何度扉を叩けども人は出てこない。
ドンドン。ドンドン。
イネスさんの扉を叩く音が大きくなった。その姿におびえる旦那ゴーザさん。
ドゴーン。
ついに扉を叩く音じゃなくなった。というか拳を打ち込んでいる。足を開き中腰で拳を突き出す姿は空手の正拳突きを髣髴とさせた。何気に扉中央に丸いくぼみができているような・・・
「おいっ!出ておいで!」
キイッ。扉が小さく開いた。同時に隙間からモクモクと煙も出てくる。イネスさんにハンカチを渡される。口に巻くように指示されて巻いた。
「この煙は?」
「タバコの煙さ」
なんだタバコの煙か。人類や世界滅亡のために世界をめぐっていたころは嗜好品としてタバコが配られていた。吸わなかったけど。周りが吸っていたので煙には慣れている。
「ただ興奮作用があってね。ネガティブな気持ちのときに吸うとハイになれる」
前言撤回。ろくな煙じゃない。慣れちゃいけないものだ。
「大丈夫。肉体的な中毒性は無いよ」
不安顔に出てしまっていたようだ。イネスさんの気遣いに頷き返す。
「もっとも弱った心には中毒性があるかもしれないがね」
かすかに聞こえた呟き。聞かせるつもりの無かっただろう聞き逃せない言葉だった。
「なるほど。それを使えばユーゴもパリアンと夜はハッスルですね」
「あはははは。違いない。あたしらも昔は使ったもんさ」
豪快に笑うイネスさん。よそ様の夜の営み事情など聞きたくも無い。何気に旦那であるゴーザさんのほうが照れていたのは見なかったことにする。
扉はそれ以上開かなかった。イネスさんが取っ手を掴み扉を勝手に開ける。開いた扉の先には誰もいなかった。誰が開けてくれたのだろうか?僕の疑問に答えてくれる人はいない。
黙って進むイネスさんの後について中に入る。足元に敷かれた絨毯には緑に囲まれた家と庭の模様。まあるい特徴的な扉。上に芝生。兎のように丘に穴を掘ってできた洞を住処としたような家。指輪物語に出ていたホビットの家だ。のんびりとした雰囲気がとてもいい。風景画のようだ。
景色を目で追ってイネスさんの裸足が目に入る。ホビットは足の裏が堅く、足の裏も含めたくるぶしから下が毛でふわふわの毛で覆われている。外でも裸足なわけだが。家の中でも裸足になる。靴の習慣がないから分からないけど。僕たちのような靴をはく人間は家の中で脱いだほうがいいのだろうか?どっちだ?家では靴を脱ぐ習慣がある日本人の僕にはそれが気になって進むのが躊躇われた。
「どうかしたかい?」
「靴脱いだ方がいいでしょうか?」
「あたしにはよくわからないけれど。人はなぜ靴を履いてるんだい?」
哲学的な質問に聞こえたが履く習慣がない種族からしたら不思議なことだ。
「人間は足の裏が弱く。ホビットと同じように裸足で石畳の道を歩くだけで簡単に腫れたり擦り傷ができてしまいます。だから靴で保護しないといけないんですよ」
「そうなのです。足の裏は敏感で感覚神経も多いのです。つまりユーゴの性感帯なのです。デリケートなのです。パリアンにとっても大事なところなので保護が必要なのです」
「そうなのかい?あたしらは使ったことないからねぇ」
思わずそっぽを向いてしまう。生々しい会話にはやめてほしい。ゴーザさんと目が合ったらなんか生暖かい視線を向けられたぞ。近づいてきて手で恒を作って囁いてくる。
「恥ずかしいのはわかるけど。男の君がリードしなきゃダメだよ」
イラ、とした。余計なお世話だよ。にらみつけるとわかってるよ、てまた生暖かい目で見られた。うぶな子だなあ、とかでも思われているのかもしれない。もうこの時点で俺は旦那さんに無意識で嫌悪感を抱くようになっていた。
「事情は分かったよユーゴさん。家の中は石畳もあるし。町長の家は歴史があるから古いものが溢れてるからね。うっかり変なものを踏んでしまう可能性もある。あたしは靴は履いておいたほうがいいと思うよ」
「わかりました」
やっとほしかった答えがイネスさんから返ってきた。とりあえず土足文化と思うことにする。
「さあこっちだよ」
先導するイネスさんの後をついていく。玄関ロビーは左右に分かれており、ぼくたちは右側へと進む。若干煙濃くなった事からもこの先に町長がいるのだろう。というか煙で奥が見えづらい。煙で周囲が見えなくなってくる。煙たさに涙が出てきた目を開いてイネスさんの背を見失わないように必死に追った。足元にも何があるかもわからない。これは確かに靴を履いておく必要があるな。
やがて眼前の背中が止まった。ぶつかりそうになるのを踏ん張って堪える。
「町長。お客さんだよ」
煙の中でイネスさんが町長に話しかける。煙で見えないがいるらしい。
「まったく。煙いったらありゃしない」
勝手知ったる我が家のように迷いなく煙の中を歩くイネスさん。ガチャリと窓を開ける音がした。途端に煙が薄くなる。煙の気流を目で追って窓の位置を確認するとイネスさんの人影が見えた。今度は逆に窓から気流の元を探して目を走らせると煙の塊に行き着いた。間違いない。あそこに町長がいる。
徐々に薄くなっていく煙の中からついに町長が姿を現した。
イネスさんたちよりも服の質がいい。刺繍の装飾がある。ボタンも多い。権力者の証だ。左手に持つパイプ。煙を上げる火皿の中が町長の吸引に合わせて赤く色づく。細長い棒の柄をもつそれは名探偵シャーロックホームズが使う手のひらに収まるパイプとはほど遠い形をしている。どちらかというと日本の浮世絵でみたキセルに近い。
キセルの先をひっくり返して灰皿に叩きつけた。コン。火種が灰皿に落ちる。
「イネス。何のようだ?」
低いかすれた声。タバコによるものか声がかれている。小太りで見た目中年男性の町長は窓へと目を向ける。目の下にある染み付いたクマ。細められた目は中々鋭く目力がある。
「だから客だって」
「客?」
「異世界から来たんだってさ」
イネスさんが視線で僕たちを指し示す。町長はそれを追って僕らにはじめて気がついた。
「ホビットじゃ・・・ないな」
「大昔の物語に出てくる人。人族だってさ」
「人?異世界にはまだ人が存在しているのか?」
一瞬だけ信じられないものを見るように目が開いたがすぐに鋭く細まった。
「存在しているも何も目の前にいるんだ。存在しているに決まっているだろ」
値踏みするような視線を長老から向けられる。
「あれ?でもパリアンちゃんは人ではなくてエンシェントスライムだっけ?」
「はい。エンシェントスライムの木崎パリアンです。苗字呼びだと旦那様と被るのでパリアンと呼んでください」
「エンシェントスライム・・・?」
長老は唖然としたまま僕とパリアンをみて固まっていた。まるで僕らの世界でパンドラの箱が開かれたとき、解き放たれた化け物たちとはじめて向き合った人のように。
いつまでも止まったままの町長に僕は時間を動かそうと挨拶をする。
「はじめまして私は異世界からやってきました木崎悠悟といいます。気軽にユーゴと呼んでください。イメリと呼ばれる異世界の組織に所属していまして、遠い昔に我々の世界から異世界へ旅立った同胞を探して我々の世界へ帰郷いただけないか交渉する仕事をしているものです。今回はあなたがたホビット族殿に我々の世界へと戻っていただけないか交渉するためにきました」
「え、あ、俺。いや私はホビット族の長であり、この町の町長をしているホビッチョ・バギンズです。気軽にホビッチョとお呼びください」
「ホビット町長だからホビッチョですか。なるほどなのです」
「・・・パリアン黙ってて」
まったくパリアンはいらないことを口にしてくれる。僕も密かに親父ギャグみたいだと思いつつ流していたのに。
「我々をあなた方の世界に・・・ですか」
戸惑いを含んだ声はどこか上の空だった。まだ僕の話を飲み込めていないような印象を受ける。確かに世界を渡っての移住は夢物語のように聞こえるな。視線も困惑で幾度となく彷徨う。
とりあえずパリアンの言葉を気にした様子がなくてよかった。吐息と共に肩の力が少し抜ける。
「もう少し・・・」
胸を撫で下ろした隙を突いた言葉にうっかり聞き逃してしまった。申し訳ないと思いつつも聞き返す。
「申し訳ありません。聞き取れなったのでもう一度お願いします」
「もう少し詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
その言葉にホビット族を連れ帰る未来を感じて、はい、と返事を返して僕は説明を始めた。
説明している間イネスさんたちは帰らず部屋にいて僕とホビッチョさんの会話を聞きつつお茶を入れてくれたり、ときたまパリアンと談笑したりしていた。
時たま返される質問に答えながら無事説明を終えるとホビッチョさんは口を閉じたまま黙り込んでしまった。こちらの話が終わった僕はただ口が開くのを待つ。真剣に話を聞いてくれていたし、時折こちらの世界の受け入れ態勢の話を細かく聞いていたことを考えても移住には乗り気なように思えた。
しかし返ってきた言葉は、少し考えさせて欲しい、というものだった。
一応ホビットの有力者には会えた。こちらの意図も伝えた。思い起こせば着いたばかりでかなり早いペースでことが進んでいた。回答を待つくらいの余裕は十分にある。それに転移先の調査もできていない。ホビットのことやなぜ巨人の胃の中にすんでいるのかなどまだまだ調査すべきことは残っていて僕にはまだ時間が必要だ。ホビッチョさんが時間が欲しいというなら焦る必要もない。僕はその希望を受け入れることにする。
何より移住を了承して貰えてもまだ肝心の帰還方法を確立できていない。下手したら帰れないこともありえる。
「ゆっくり考えていただいて問題ありません。先ほど説明しましたとおり移住の話を持ちかけておきながらまだ移動方法が確保できていません。これから探すところです」
「分かりました。そうなればここにいる間の滞在場所が必要になりますね。空家はたくさんありますが・・・・・」
どうしようかと頭を撫でる。天然パーマのもじゃもじゃに指が強固に絡めとられて手が止まる。
「ほこりをかぶった場所に滞在いただくわけにも。ましてや掃除いただくわけにもいきません。それに不慣れな地で客人を放置しておくわけにもいきませんから誰か付き人も必要ですね」
視線の先でイネスさんが自分に任せて欲しいと拳で胸を叩く。イネスさんであれば俺たちも安心できる。ホビッチョさんが乗り気のイネスさんを一瞥する。
「この街に滞在中はこの家に部屋を用意します。また私の娘を付き人としてつけましょう」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
お礼を言う。しかし今のイネスさんとの視線のやり取りは何だったのか?そしてホビッチョさんの提案がよほど気に食わなかったのだろう。ホビッチョッさんの横ではどこぞのヤンキーのごとく眉間にしわを寄せて睨みを利かせたイネスさんが立っていた。その顔の距離は吐息がかかるほどかなり近い三センチメートル。ゴーザさんは何かトラウマが刺激されたのか眼球はぐるりと上を向いて足ががくがく震えて・・・あれ?ズボンに黒いシミが・・・・・え?他人の家で?この人どれだけ駄目な大人なの!ちょっとまってパリアン。ゴーザさんに近づいて何するつもりだ!パリアンが後ろからゴーザさんの腕を持ち上げる。ピースサインの両手が顔の高さにくる。
「こうすればそういう性癖の人に見えるのです!」
パリアンがとんでもないことをしてくれた!
イネスさんは顔を赤らめてあらあらってあなたの旦那さんですよね。それでいいの?というかなんでうれしそうに顔を赤らめてるんですか?あなたはまともな人だと思ってたのに・・・
見なかったことにしよう。視線を逸らそうとしたとき、ゴーザさんの鼻の下が伸びていることに気がつく。ああ。そういうことか・・・後ろから腕を持ち上げるパリアンのおっぱいがゴーザさんの背中に押付けられている。
「ひいぃいいい」
突然パリアンが悲鳴を上げて後ずさった。よほど恐ろしいことがあったのか。恐怖のあまりに腕振り上げてゴーザさんを天井に放り投げてしまったくらいだ。ゴンッと鈍い音とゴキャッと鳴ってはいけない音が聞こえたのはまあいいとして、何をそんなに怖がったのだろうか?
「ユーゴ。パリアンが悪かったのです。そんなに怒らないでほしいのです」
「怒るって何を?」
おかしいなやつだな。思わず笑ってしまう。
「ひぃいいいい。ごめんなさいなのです。もうふざけないなのです」
膝を突いてパリアンが見捨てないでと僕にすがって懇願する。僕は腰の高さにあるパリアンの頭をポンポンと優しく叩いて撫でた。
白目を剥いて舌をべろんと出しながら泡を吹いて横たわるゴーザをイネスさんが踏みつけているのを横目にしながら僕はずっと気になっていたことを確認する。
「それと一つ確認したいのですが」
「確認ですか?」
「なぜ巨人の胃の中に住んでいるのですか?」
「何でだと思います?」
質問に質問で返された!?
こちらを試すようにホビッチョさんの視線が僕の顔をなぞる。特殊な状況に何も思わなかったわけじゃない。でも推測の域で適当なことを言ってもしょうがない。
「僕らがこの世界に着いたのはつい数時間前になります。そしてたまたま居合わせたイネスさんにはこの街にいる種族がホビット族でここが巨人の胃の中であることは教えてもらいましたが。あとはこちらの事情。つまりは異世界から来たこと。移住のお話をするのに時間を要したため、聞けたのはそれだけでした。なぜ巨人の胃の中で暮らしているのか?ホビット以外に移住した種族は居なかったのか?と疑問に思ったことまでは聞けていないのが実情です」
ホビッチョさんがイネスさんへ顔を向けるとイネスさんが頷き返す。
「結局その結果ホビット族全体に関わる移住について判断できるのも、現在の事情に関わる古い昔話とか歴史を詳しく説明できるのも、ホビット族の長であるホビッチョさんだけということで町長宅への案内の提案を受けました。そしてイネスさんのお言葉に甘えさせていただいてここへ来た次第です」
「つまり何も聞いていないので分からないから説明して欲しいということですか?」
ふう、と息を吐く。がっかりした様子にこの先の友好関係を考えてもこのままではよくないかと思いなおす。ここに来るまでの間に僕が考えていたことを口にする。
「そういうことになります。もっとも推測だけでいいのでしたら思うところはあります」
「というと?」
「この世界に移住したのはホビット族だけではなく巨人族もなのではないですか?」
「なぜ?」
「意思の疎通も取れない存在の胃に住むには危険がありすぎます。例えば胃の持ち主が死んだ場合この街はどうなるのか?別の巨人に街ごと移すにしても胃の中に住むくらいです。この世界。つまりは外の世界は頑強な巨人でなければ生きぬけないほど危険な世界なのではないですか?そんな世界に一時でも出て街を移すことはホビット族だけではできないのでは?つまり巨人の力を借りなければいけない。そうなると巨人は意思疎通が取れる存在になります。それもこの世界への移住前から(・・・・・・・・・・・)ホビット族のことを理解し、外の世界の危険さから胃への居住を応じてくれるだけの理解もあるだけの」
「正解です。この世界へ移住したのはホビット族と巨人族になります。ただし、一部の、ということになりますがね」
一部の、とわざわざつけ加えられた言葉が気になる。
「一部の巨人族ということですか?」
世界には巨人の話が多い。タイタン、ヘカントケイル、サイクロプス。日本でもダイダラボッチ、大入道。未確認生物(UMA)でもニンゲン、ヒトガタがいる。確かに巨人一つで種族が多い。
「はい。巨人族は種族も多く、体も大きいことからいくつかに分かれて移住したそうです。共に移住した巨人族はその一部ということになります。なんでもひ弱なホビット族が未知の異世界へ向かうことを憂慮した心優しい巨人族が同伴してくれたそうです。胃に住まわせていただけているのもそのおかげでしょうね」
なるほど。ホビッチョさんの説明に聞き入っていると次に気になる一言が飛び出す。
「それと一部というのはホビットもになります」
「ホビットも?」
それはどういうことだろうか?
「ユーゴ殿はホビットの起源。生まれた経緯をご存知ですか?」
「経緯ですか?」
確か指輪物語ではホビット族の起源は書かれていない。ただ明らかに人間と関係があり、人族の支脈にあるような記述があった気がする。どちらにしても明確な答えはない。
「すみませんが・・・」
「なるほど。どうやらそちらの世界で我々に関する伝承は廃れてしまったようですね」
肩が少し落ちる。落胆した様子に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そんなに申し訳なさそうな顔をしないでください。それでは私が虐めているみたいじゃないですか。といいますか。イネスが本気で殺意を飛ばしてきているので許していただけると助か・・・げふぅ。あ、こら頭を掴む・・・いえすみませんでした。あなたを試すようなことをした私が全面的に悪かったです。許してください」
途中からイネスさんが参戦して謝罪が始まり拳骨一発。頭を捕まれて前に押し出される。イネスさんのすさまじい握力にミシミシと音が聞こえたけど大丈夫だろうか?最終的にホビッチョは土下座姿勢になっていた。
どうしてこうなった。
「気にしていませんので顔を上げてください」
これ以上悪化したら止めるために近くまでいって伝える。
イネスさんが舌打ちして手を放す。わき腹に一蹴り入れて離れる。わき腹を押さえながらホビッチョさんがよろよろと身を起こすのを手伝う。わきの下に腕を入れて引き上げた。ホビット族で小柄なだけにホビッチョさんは軽い。そのまま椅子まで誘導して座らせた。
「ありがとう。お見苦しいところをお見せしました」
ちらりと横目でイネスさんを見てぼそりと小声で呟く。
「イネスとゴーザとは幼馴染というやつでしてね。ほんと俺はゴーザみたいなドMじゃなくてノーマルだっつってんのによ。あのドSが・・・」
後半は愚痴だった。あれを見ていただけに同情してしまう。
さて、と仕切りなおすように咳を一つ。
「現地の種族について調査もあなた方の仕事にありましたね。私がホビットの起源についてお教えしましょう。まずホビットがどういった経緯で生まれたのかについてですが。そうですね。ユーゴ殿は人族の生まれた起源ならご存知ですか?」
一瞬アウストラロピテクス(猿人)からの進化論を考えたが、パンドラの箱の券もある。神々が存在するのであれば聞いているのは神族による人類創造ということになる。一応確認する。
「それは神々に創造されたという意味でしょうか?」
「そうです」
「代表的なものでは人は土もしくは泥か粘土から神々が形を作り創造されたと言われています」
頷くホビッチョさん。どうやら正解だったらしい。
「そうです。あるとき人に似た姿をしたとある神が人を作りました。そして、面白がった世界中の神々がまねして人を作り始めました。あなたならわかるはずです。人族も肌や目、髪の色、体格と差異があったはずです。それこそ特徴で人種の分類ができるほどに」
「土地ごとの神々が個別に人を創造したから?」
「正解です。そして実はホビット族にも肌や目、髪の色、体格の差異があり人種があります」
「ハーフット族、ファロハイド族、ストゥア族・・・・・」
関連のありそうな指輪物語にあった支族の区分けを思い出して口にしてみる。あれも考えようによっては特徴ごとに分けたホビット族の人種の分類だ。
「よくご存知で」
「こちらの世界の文献学者が書いた物語に記載のあった支族です。作者はあちらの世界でアフリカやヨーロッパと呼ばれる場所で育ったという人でした。もしかしたら現地で何か伝承を聞いていたのかもしれません」
「なるほど。ホビット族の存在自体の伝承は一応残っていたのですね」
うれしそうに目じりが下がる。
「さて。では本題に入りましょう。わざわざ人族の人種の話をしたのは我々ホビット族にも関係する話だからです。世界中の神々が人族を作ろうとしたとき、神々の中には又聞きの情報だけで人を見ずに人族を作ろうとする者たちがいました。もちろん最初からうまくいくわけがありません。結果、何度も試行錯誤で生まれた人族もどきが世界中に生まれました。・・・・・ホビット族は神々が人族を生み出す際の練習で生まれた種族。ホビットとはその総称なのです」
僕は聞かされた真実に唖然としていた。その意味を何度も噛み砕いて頭の中で反芻する。
つまり神々の中にもコミュニケーションがうまく取れない一人ぼっちならぬ一神ぼっちの神がいて、彼らは人族創造という流行に乗ろうとした結果、現物の人を知らずに百聞だけで人を作ろうとした。ホビッチョさんはもどきなんていったけれど。ホビット族はその結果生まれた人族ということになる。もしそうならホビット族が人族の支流の一つという説も頷ける話だ。そして人類と同じように創造した神々の数だけ人族と同じ数の人種がいる。
「それがホビットの起源になります」