011.初めてのい世界
ついに第二章開始です。
ここから異世界胃世界ファンタジーよろしくお願いします。
「・・・ここが異世界・・・・・・・」
コスモゲートを潜ったばかり。
渡り着いたばかりの異世界。視界の情報に焦る僕は自身に落ち着けと言い聞かせる。
思考すると最初に脳裏を過ぎったのは一時間前に聞いた四神玄武の言葉だった。
――一時間前
円形で真ん中に穴の開いたコスモゲート。驚いたことに石のみで作られたその機械は神話時代の産物らしい。時楔という時間を止める特殊処置をギリシア神話のクロノスに施されたそれは朽ちること及び壊すことが不可能なのだという。ちなみに八年前の戦いで発見されたオーパーツの一つでもある。コスモゲートは形は違えども世界中の神話舞台から発見されており、玄武たち当事者の言もあって神話時代の終わりと共に各所で使用されたことが分かっている。
あと一時間で僕はここを通り異世界へと旅立つ。
僕が隊長のE調査隊メンバーで行くのだと当初は思っていたが、各メンバーは他の編成部隊に連れて行かれてしまい。変わりになぜなのかパリアン一人があてがわれ、部隊は隊長の僕とパリアン副隊長の二人となってしまった。もちろん反論はした。前回裏方で調査に参加していなかったパリアンに何ができるのかと。しかし世界から直接創造されたエンシェントスライムで副団長を任せられるほど神代団の中でも最強の一角に当たるパリアン。むしろ僕のほうが戦力外だということを知らされてしまい、ぐうの音も出なくなってしまった。しかも他の人員が増えると足手まといが増えることにもなるとも言われたわけで。つまり二人部隊というのは理に適っていた僕は受け入れざるを得なかった。
パリアンは僕の気など知らず、陽気に新婚旅行は異世界だと浮かれている。そもそも結婚も婚約もまだしていないんだけど。でも。プロポーズはしたんだよな。頭を抱えたくなる。
「木崎隊長。準備はできたかな」
コスモゲートの前で思案していた僕に玄武が声をかけてきた。
「準備万端です。パリアンの裏胃さんのおかげで荷物も少なく済みましたしね」
パリアンの胃袋・裏胃さんの唯一の欠点は消化不良を起すもの―神遺物と一緒にしないと中にいれたものが消化される危険があることだろう。幸い便利収納ボックスのパンドラの箱があるのだから問題は無い。
「ふむ。問題が無いことはいいことだ。とはいえ、ゲートの先がどんな場所でいかような危険が待ち構えているかわからない。日本のことわざに適した言葉があったな。確か――」
「――一寸先は闇」
まさしくその言葉が合う気がした。なぜならゲートを潜ったその先にあったのは一点の光もない暗闇だったからだ。
いつまでもつだろうか。人間は七十二時間以上全く光のない場所にいると発狂するというけど。僕はどれぐらい持つのだろうか?知らなかったな。何も見えないことが。真っ暗闇がこれほど怖いことだなんて。無駄に思考して精神を保とうとしたのが悪かった。ゲートを潜った瞬間自分が別のものになってしまったのではないかという不安に刈られた。もしくは死んでしまったんじゃないかとも。気づけば無意識に自身を触っていた。
体はある。でも本当に自分は存在しているのだろうか?自分自身を疑い始めていた。
観測できない。自己認識がうまく成り立たないことに慌ててパニックになる。
ぎゅっ。自分以外の誰か。第三者が僕を抱きしめたのが分かった。
「ユーゴ。大丈夫ですよ。ユーゴはここにいるのです。パリアンもまた然りなのです」
「パリアン・・・・・ありがとう」
正常な思考に戻ったのが自分でもわかる。パリアンに感謝した。
「待っててください。今光ますから」
「ん?聞き間違いかな?いま光るって」
「パ~リアン。ライトニグ!」
僕の背後が激しい光を発した。あまりのまぶしさに一度目を閉じる。瞼越しに徐々に慣れてくると今度は目を開けてみる。
僕の体に絡みついたパリアンの腕が青白く光っていた。
まるで幽霊に抱かれていみたいだといったらパリアンは怒るだろうか?でも日本では幽霊は美人しかなれない。醜ければお化けになる。といえば許してもらえるかな。
思いのほかパリアンの光は強い。けれども青白い光は足元の床や周囲はかすかに見える。床は整備された石畳。明らかな人の手による加工が見られた。壁も同じ。つまりここはどこかの部屋になる。イメージとしては石造りの部屋。ヨーロッパの古城やピラミッドの一室。
「むふふふふふなのです」
「パリアン。もう大丈夫だから腕を解いてくれるかな」
ここぞとばかりに背中にすりすりしてくるパリアン。甘えてくる子供のようなしぐさに好きにさせてあげたいところだが、意識した瞬間に押付けられたパリアンのおっぱいの感触に気づいてしまった。いまはそれが気になってしまいどうにも落ちつかない。
どうしようか?ふと出発前に思い出す。
お局の一人。エレナ女史が僕に一冊の手帳をくれたのだ。もしパリアンが調子に乗るときがあったらここにある言葉を使いなさいと。ええっとたしか。
「あんまり束縛されるのはちょっと」
僕の言葉にパリアンの動きがぴたりと止まる。効いている?
「・・・・・重い」
パリアンがすごい勢いで離れたと同時にズザザザーと地面と何かがこすれる音が響いた。振り返ると青白く発行したパリアンがいて・・・・・・土下座していた。
さっきのことを考えるとバックステップジャンピング土下座を実行したらしい。
「・・・・なぜに土下座?」
「ご、ごめんなさいなのです。これからは気をつけるのです。だから嫌わないで欲しいのです」
パリアンが震えながら嘆願する。
僕はこのときまだ知らなかった。新組織発足時の挨拶でやらかしたパリアン。それは相手がいながらも結局結婚できなかったお局女史たちを刺激した。浮かれていたパリアンは彼女たちに呼び出され、その後自身の体験談を聞かされる拷問を受けていた。パリアンの脳裏に焼き付けられたそれらの話の数々はNGワードの発令と共にパリアンを恐怖に陥れることになるまでのトラウマを植えつけていたのだ。
まったく僕のどこが良いんだか?と思いながらもうれしいのだから始末に負えない。
「大丈夫。怒ってないから。ほら、立って。はやくここを調べよう」
手を差し伸べる。パリアンはにへらっと笑って両手で大事そうに僕の手を掴む。引き上げるように引っ張るのにあわせて立ち上がる。
「しかしパリアン光ることができるんだね」
「クリオネやホタルイカが光るのです。やつらにできてパリアンにできないことはありません」
「何で軟体動物と張り合おうとするかな。それともパリアンは貝の仲間なの?」
「ノンノン。パリアンはスライムなのです。スイスイスラスラスライムなのです」
「は~。いまの最期のくだり必要だった?まあ、別にいいけど。ところでもっと広範囲を照らすことできるかな。青白い光のせいか細かいところも見づらいし」
パリアンの青白い光は可視光線では波長の短い色になる。だからだろうか。照らされた足元をみても薄暗く。反射して目に入る光が少ないからか細かく視認ができなかった。
僕の不満の声にむ~とパリアンがむくれる。頬を膨らませている姿がかわいい。
というところで突然パリアンの頭の上で豆電球が光ってすぐに消えた。前もそうだったけどどこから出した。きっとあれはあのときのLEDに違いない。
「そういえばユーゴは支給されている装備の懐中電灯はどうしたのですか?」
体が硬直したようにぴたりと止まる。ギギギ・・・という擬音が聞こえる動きでパリアンへと首から上が動く。
「忘れてた・・・」
まいったな。思いのほか僕はそんなことにさえ気づけないくらい混乱していたらしい。さすがに閉所恐怖症にはならないと思うが。かえったらカウンセリングでも受けてみるか?
「おかしなユーゴですね。ユーゴが調査に入ったドラゴンの胃の中だって真っ暗闇なのです」
「それは回りに仲間がいたし。入るときにはライトを点けていたからね」
何より行き先が目前の化け物の胃の中と分かっていた。ある程度心構えもできていた。ゲートの先はどこにつながっているか分からない。下手したら潜った瞬間に宇宙に放り出されて死んでいた可能性だってある。もっとも玄武いわくパリアンがいればそんな心配さえ要らないそうだ。宇宙に出てもすぐにパリアンが僕を裏胃さんに取り込むことで助かるだろうとのこと。余計な人間がいない限り、僕一人くらいならパリアン一人で十分に助けられるらしい。
はははは。空笑いで誤魔化す。パリアンはそんな僕を思いのほかうれしそうに見ている。
「ユーゴと一緒にこうしていられて楽しいのです」
まるで僕の心を読んだかのような言葉にどきりとする。
「前回はユーゴが頑なにパリアンが調査に加わるのを嫌がっていましたし、玄武からも参加しないように言われていたのです」
玄武が?たぶん決められた未来を選択する条件の一つだったのだろう。
「今はこうやって一緒に冒険できてうれしいのです」
「前回のように胃の中を回る旅なら僕は遠慮したいがね」
「二人で手をつないで歩めるのならパリアンは分からない未来と行き先でもかまわないのです。例えその無謀をモラリストやニヒリスト、リアリストたちが騒ぎ嗤い無理だと喚こうが」
「それは大変で困りそうだ。マイナス思考で心配性の僕はうまく冒険できる気がしない」
「そのときはすべてをエスケープしてしまうのです」
事象の先にあることを考えない無責任ないたずらを楽しむ子供の笑みを浮かべる。
「きっとそれは素敵なはじまりの日になるのです」
これ以上は現実に打ちのめされた大人の荒んだ心には辛過ぎた。僕は話題を区切る。
「雑談はここまでにしよう。仕事をしなきゃね」
ライトをつけて足元を照らす。パリアンの光では先ほどは気づけなかったつながった文様が石畳に見える。ライトの照射範囲と距離を変える。広い範囲を照らすと魔方陣のようなものが描かれていることが分かった。
「どうやらルーン的なものでかかれた魔方陣のようなのです。神話時代は事象を読み解いて文字という形にする研究をしているものもいました。ただどんな種族でも視覚にはフィルターがかかるものなのです。作られる文字はルーン以外にも複数存在するのです。パリアンにはこの文字はよく分かりません」
「これはどこかで見たことがあるな」
魔方陣を形作るふちの線は文様に近い。
「これは。縄痕。青森の三内丸山遺跡で見た縄文土器にあった縄目模様みたいだ」
「パリアン知ってるのです。県の運動公園を拡張しようとしたら縄文土器が出てきて工事は中止。遺跡の発掘・整備で工事費以外にも金を消費されて県知事が頭を抱えた遺跡ですね。工事関係ではこういった貴重な遺跡が発見された場合、文化財保護法から遺跡保存や発掘手続き、工事遅延、延期や遅延の従業員の給料の件などめんどくさいことが多すぎて工事責任者や民間会社は見なかったことにして遺跡を破壊して埋めることが多いのです。ちゃんと発掘調査して無駄に金食い虫の遺跡を維持する青森県は立派なのです。しかも三内丸山遺跡は入場料無料とそのすばらしさはバイプッシュなのです」
「何でパリアンが三内丸山遺跡にそんなに詳しいのか分からない。バイプッシュする意味も」
「夫の生まれた国の勉強をすることは大事なことなのです。ちなみに青森県は日本三大霊山の恐山もある場所なのです。恐山はあの世の異世界にもつながっているのです。きっとあの県は異世界につながっている違いありません」
「・・・・・・」
もう何も言わないことにした。
再び魔方陣を眺めてみる。
「少なくともコスモゲートを潜った僕らはこの上にいたんだ。これが起動してゲートとつながったのかもしれないな。つまりはこれも移動関連の魔方陣なんだろうね」
文字を眺めていると昔教科書で見た黄河文明の甲骨文字にも見えてくる。古代文明の文字というキーワードでふと思い出す。
「そういえば三内丸山遺跡は縄文時代の遺跡だったね。縄文で思い出したけど。縄文文字というものがあるらしいよ。実際には江戸時代に捜索された神代文字でオシテと呼ばれる文字らしいから縄文と関係ないみたいだけどね。もしかしてこれはそれだったりして」
冗談がてらにしょうもない知識をひけらかす。
「パリアンも知ってるのです。縄文時代に使われていたという根拠も無い学説で縄文文字と呼ばれている文字なのです。一説では蘇我氏などの過去の偉人が自分たちの都合の悪い記録と一緒に抹消した文字であるとも言われているのです。少なくとも弥生時代には中国と国交があったので甲骨文字由来の文字文化はあったので、2種類も文字が要らないことを考えると縄文文字自体あったのか怪しいのです。それこそ文字のついた土器でも見つかれば別なのですが」
「だから何でそんなこと知ってるんだよ・・・・・・」
日本人の僕よりも日本のことに詳しい気がする。まるで外国人留学生が自分よりも日本について詳しかったときのような感じだ。
「この話はもうやめよう。どうせ僕らじゃこれを見ても詳細な分析はできない。それよりも出口をさがそう」
「出口ですか?」
パリアンがはむっと自分の指を咥える。僕の向けたライトの光に反射して出された指と口を結ぶ糸が光る。魅入った僕の視線にパリアンの口元が満足そうに笑った。どの女性時職員に教わったのやら。パリアンの何気なく仕掛けてきたいたずらから視線をそらした。
「風の流れはつかめそう?」
呼吸できるからには空気がある。密閉された空間というわけでもない。つまりはどこからか空気が流れてきている道があるはず。パリアンは手袋をつけた僕の変わりに濡らした指先でそれを探していた。
「こっちなのです」
光源パリアンが壁に行き着く。ライトで壁を照らすとつながった一枚岩の扉。さてどうやって開けようかと思っていると。
「愛する二人の前に立ちはだかる障害物とかパリアン許せないのです。スライム流拳法・二重の共振なのです」
パリアンが両拳で扉を殴った。
「両拳で二重の衝撃を与え、共振増幅させることで鉱物を粉砕する技なのです」
両拳で殴られた扉が粉砕。さらさらと崩れ去る。なんという破壊力。
はあ。言いたいことは多々あったがもうさすがに疲れたので無視する。僕の反応の薄さにパリアンがしょんぼりしたけれども気にしない。ありがとう、とだけお礼をいって頭をなでたらすぐ機嫌も直ったしいいだろう。
粉砕された扉の先に見える通路を先に進み。奥にある階段を上がる。再び石の扉を目の前にしてどうしようかと考える。僕にはパリアンのようなことはできない。
「ユーゴ」
「なに?」
呼ばれて振り返る。
「階段の先に怪談のような世界が広がっていたらどうしましょう」
パリアンの冗談を聞き流した。
そう何度も粉砕してられない。とりあえず、押してみるか。体全体で体重をかけて押してみた。扉は重い音を立てながらあっさりと押し出されて前方に倒れる。足元で巻き上がる砂埃が晴れたころ。
「ここが異世界?」
目の前に広がった光景に僕は思わず呟いた。
初めての異世界はどこか故郷の地球を髣髴とさせる場所だった。
次は異世界の町並みと異世界にわたった渡航者たちとの交流です。
はたして第一異世界の旅でであうのはどんな種族で今回はどこの胃世界に行くことになるのでしょうか?