001.世界滅亡と回帰
異世界胃世界ファンタジーをコンセプトに書いています。
第一章は胃世界がらみだけの話になりますが、第二章からは異世界も入ります。
ギャグ要素も入れていきますので読んでいただければ幸いです。
『管制から各隊へ。本時刻を持って調査完了とする。各調査隊は帰還せよ』
通信機越しに聞こえた帰還命令。その意味に周りの誰もが言葉だけでなく希望を失った。
今日。この日をもって世界滅亡が確定した。
『木崎隊長。どうします?』
部隊用の近隣通信反応。調査員の一人が問いかける。マスク一体型のヘルメット内に声が響いた。 僕は首を左右に振った。調査隊は選ばれた精鋭で組織されている。帰還命令があったからにはこの場所に探し物は本当にないということだ。
『これ以上ここにいても無意味だ』
『しかし・・・・・』
それでもなお食い下がるものがいた。きっと他の隊でも同じやり取りがされていることだろう。だからこそ。隊長として正しい選択をしなければいけない。特に僕。木崎悠悟は二十六歳と若くして隊長となった身だ。一つの間違いほど揚げ足を取られやすい。もっとも。世界の滅亡が決まったいまじゃ。それも無駄なことだろうけど。
『世界滅亡までに残された時間くらい自分と家族のために使え』
通信範囲を部隊から管制へと切り替える。
『こちらE調査隊木崎。いまから帰還行動に入る』
『管制からE調査隊へ。了解』
E調査隊はクラーケンの胃世界から外の世界へと帰還した。
ヘリの中で疲労に身を任せて椅子に背を預けて眼を瞑る。
眠れなくて自然と考え事ばかりしてしまい。意識が思考の渦に沈んだ。
なぜこんな結末になってしまったのだろうか?
答えが出るはずもない無駄な問答でさらに疲れが募る。
せめて繰り返しのないようにここに到るまでを原点回帰してみる。
思えば八年前から世界の変化は壮絶だった。
そもそもの始まりは二〇三四年。
二〇三四年。人類滅亡の危機が訪れた。
止まぬ中東紛争。その戦火に巻き込まれて絶望した少女がある箱を見つけて開いたのが始まりだった。
それはギリシャ神話に出てくるあらゆる災いを閉じ込めたパンドラの箱。
後で知った話だが神話の時代の終わりにこの世界から神話を切り離すために様々な化け物を閉じ込めたものだった。
箱が開けられた日。世界に様々な神話上の化け物が飛び出した。
世界は化け物に蹂躙され。人類は一時滅亡の危機に瀕した。しかし、後に箱からパンドラ事件と呼ばれたこの出来事は人類を滅亡させるまでには到らなかった。
人類がこれまで培った科学力とパンドラの箱存在の確証から探し出された神話の遺物により、人類滅亡の危機を回避することに成功。化け物と一進一退の争いを続けて順調に巻き返していった。
つまりパンドラの箱の開封で人類滅亡の危機はあったものの。
世界滅亡の危機までには到らなかった。
ならばなぜこの話が始まりとしてあるのか?
それは世界滅亡の危機にこの話が関係してくるからだ。
パンドラ事件から約三年が経った二〇三七年。世界滅亡の危機が訪れる。
人類が持ち直し。人類滅亡の危機で更なる発展を遂げたときだった。
とある化け物が人類に話しかけてきた。
中国神話に出てくる四神の玄武という蛇の絡みついた亀の化け物は四神と神を関するだけあって人類が戦ってきたほかの化け物とは違い、人の言葉で話、とても理知的な化け物だった。
いままでなぜで会わなかったのかと思ったら。彼曰く、箱から出てきた化け物がすべて本能のみに生きるものにあらずとのこと。神話に寄り添う内容どおりの賢者もいるのだという。理知的なものたちはみな人と争うことに意味を見出さず、人とは不干渉とし、この世界でひっそりと生きているとのことだった。
新しい事実に驚きながらも人類は疑問を口にした。
ではなぜそのような存在がいまさらになって話しかけて来たのか?
このままひっそりと暮らすこともできただろうに。
やむ終えぬ事情ができたのだという。
ただならぬ様子に人類は化け物の賢者の言葉を聞くことにした。
それはこの世界があと五年ほどで終わるというものだった。
どういうことかと事情を詳しく聞くと世界は世界樹の一本の枝であるという。
枝が伸び続ける限り世界は持続する。しかし残念なことに。今この世界の枝が終わりを迎えようとしているのだという。
もちろん最初。玄武も密かに世界を救うための方法がないか模索した。
他の化け物たちに会いに行き、意見を求めた。
その結果ある結論に辿り着く。
パンドラの箱からはまだ災いのみしか出ていない。
中に希望が残っている。
パンドラの箱は何処に?
玄武は再び他の化け物たちの力も借りてパンドラの箱を探した。
そして、ある情報を掴む。箱から出てきた際、理知的な化け物も意識が覚醒するまでおぼろげな状態にあったのだが、そんな中で少女を見かけた記憶のあるものがいたのだ。
彼曰く、パンドラの箱が開いたとき、少女は箱をまた閉じた。そして、閉じると同時に少女は何れかの化け物に箱ごと一口で食われたのだという。
少女を一口で食えるだけの大きな化け物。該当する化け物は限られるが多いのも事実。何よりも世界中に散っている。中には攻撃的な化け物、非協力的な化け物もいることだろう。何よりもすべての胃の中を調べるには時間が足りない。
数は減れども人はまだまだ多い。そして、話し合える。
玄武が代表となり、人の協力を仰ぐことにしたのだという。
こうして人類は世界滅亡までに残された五年間でパンドラの箱を探すことになった。
皮肉にも人類滅亡に追いやったパンドラの箱を。
これまた人類を滅亡に追いやった化け物と共に。
人と化け物の胃世界調査が始まった。