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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第4章 森川厘 ~ローレライ討伐録~
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第80話 逃げ行く先は

「両親に確認したところ……私には、妹がいたみたいです」


「そう……」


 病院に入院したのは2日ほど。

 露草先輩は1日で退院し、相変わらず部室のいつもの席に座っていた。


 しかし…………

 今日はもう、これ以上人が増えることはない。


 京さんは依然、意識不明。

 千里は、意識こそ回復したものの、全身麻痺状態。


 そして、愛さんと森川先輩は…………


 もう、戻ることはない。




 露草先輩も、生気が無く、どこか呆けている。

 私の言葉も、半分届いていないように思える。


「妹さん……やっぱり、あのローレライなのよね」


「おそらく……いえ、間違いなくそうですね……」


 私が入院している間に聞いた、母からの話。


 私は…………

 いや、私達は、双子で生まれるはずだった。


 しかし、生まれる直前に、母が体調を崩し、急遽帝王切開することになる。

 結果、片方を取り上げることが出来たが、片方は死んでしまった。


 生きていたのが私。

 死んでしまったのは、私の妹。


 零華と名付けられるはずだった、私の妹だった。

 そして今は、ローレライと呼ばれる悪魔として私達の前に現れている。

 退魔部を、壊滅と言って過言でない程に追いつめたディアボロス。


 それが、私の妹。


 顔がそっくりという、状況証拠だけの状態から、決定づける証拠を突き付けられ、私自身もどうしていいか分からなくなる。


 私のせいではない。

 私のせいで、退魔部はここまで追い込まれたわけではない。

 それは、論理的にも、感情的にも分かっているはずなのに。


 どこか自分を責めている。


「……私、どうしたらいいんでしょう」


「…………そうね」


 露草先輩の言葉は、これから何か発言する、というよりも、ただ反射的に出た相槌。

 頬杖をつきながら、どこか遠い目をしている。


 絶望的な状況に打ちひしがれているのは、露草先輩も同じだった。

 不用意な言葉を警戒しているようにも思える。

 それとなく呟いた言葉が、思わず願いの言葉になりかねないと。




 次の「バルティナの歪み」は、どう足掻いても私と露草先輩の2人だけだ。

 迎撃戦ではあるけれど、あの数の悪魔を果たして処理しきれるのか。


 愛さん、京さん。

 千里。

 そして、森川先輩。


 みんないない。

 その残酷な現実が、私の感情を蝕む。


 考えれば考えるほど押し寄せる負の感情。

 考えないようにしようとしても、徒労に終わる。

 むしろ、余計に考えが広がっては、私の心を闇に沈めようとしてくる。


 ただただ、不安だけが私を襲ってくる。

 ただただ、恐怖が私を支配する。


 そして、ひたすらに。



 逃げたくなる。




 気づけば、部室を出ていた。


 フラフラと外に出て、どこに行くでもなく歩いている。


 そうしてたどり着いた場所。


 そこは病院だった。


 誰に会おうというのだろう。

 こんな時に、私は誰に救いを求めようというのだろう。


 こんな時に……

 私は、誰に甘えようというのだろう。


 そんなことは、言うまでも無かった。

 言われるまでも無かった。


 私は、無意識のうちに、誰かに救いを求めている。

 足の向いている先も、分かり切っている。


 入院している病室は記憶していたから、たどり着くのは難しいことではない。


 個室のドアを、ノックも無しに開く。

 中から聞こえた談笑が、一時的に途絶える。


 私の耳に届いた第一声は、私が求めていた人のものだった。


「あっ、一子っ! お見舞いに来てくれたですか?」


 今の私には、その片言の日本語が、とても耳に優しい。

 フラフラとベッドに近寄り、千里の身体に縋る。

 そのとき、ようやく側にいる人に気づいた。


「朝生さん、お見舞いに来てくれてありがとう。この通り、千里も喜んでいるよ」


 1人は知っている人。

 千里のお父さんだ。


 だが、隣にもう1人いる。


 椅子に腰掛ける姿は、中学生くらいのように見える。


「樫木さん、この人は?」


「同じ退魔部の朝生一子。私の親友でーす!」


「あっ……は、初めまして」


 席を立ち、深くお辞儀をする。


「僕は、森川奈由多です。姉の厘のことは……聞いています。本当に、どう言えばいいのか…………」


 この子が、森川先輩の弟さん。

 首から下が麻痺していたという弟さん。


 今、こうして動いているということは……

 森川先輩の願いは、聞き届けられたということだ。


「千里…………」


「一子、私は大丈夫です。この通り、元気ですよ。身体が動かないのは不便ですけどねー。でも、みんながお世話してくれるから、そこはちょっといいかもでーす」


 強がっている風など微塵も見せない千里。

 その姿を見ていると、不思議と涙が目尻に溜まってきた。


 見せつけたいわけじゃないのに。

 そんなことをしたいわけじゃないのに。

 泣いているところをこれ見よがしに見せつけてしまっている。


「一子…………」


 その様子を見た千里が、ゆっくりと目を閉じた。


 そして、笑いながら言う。


「ごめん、パパ。それに奈由多君。ちょっと2人で美味しいプリンを買ってきて欲しいでーす」


「えっ、美味しいプリンって?」


 奈由多君の当然の疑問に、千里のお父さんが答える。


「あぁ、分かっているよ。いつも千里が食べているものだね? でも、ちょっと遠出しないといけないな。少し時間をくれるかい?」


「もちろんでーす。私は寝ているだけですから、時間はたっぷりあるですよ。いっぱい買ってきてください」


「分かった、じゃあ行ってくるよ。車なんて無いから、随分時間が掛かりそうだ」


 お父さんは、奈由多君を連れて外へ出て行く。

 その間際、こちらに振り返る。


「…………千里」


「うん。じゃあね、パパ」


 手を振るお父さんの顔は、どこか寂しげだった。

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