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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第4章 森川厘 ~ローレライ討伐録~
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第75話 怒りと絶望の狭間で

 愛さんがゲートに消えていく直前、黒い塊が飛び出してきた。


 その正体は言うまでもない。

 殲滅戦であるはずなのに、こちらへ来れるのは…………


「ふふ……やってるやってる。これが見たかったのよ」


 ローレライが、邪悪な笑みを浮かべている。

 視線の先は、露草先輩と森川先輩の一騎打ち。

 その状況は、誰が見ても露草先輩が劣勢だった。


 容赦の無い攻撃を繰り広げる森川先輩に対し、露草先輩は心情的にも全力で攻撃しづらい。

 それだけでも大きなハンデとなるはずなのに、剣技という面でも、最初から森川先輩の方が上。


 心、技、体のいずれにおいても勝る点が無い以上、露草先輩が追い込まれるのは必然だった。


「厘ちゃん、いい顔になってる。弟さんも治ったし、良かったわね」


 ローレライのその言葉。


 聞き逃す訳には行かなかった。




 弟さんが治った?




 難病で、医者も匙を投げたという、あの病気を?


 そんな病気が「治った」と断言出来るということは……


 ローレライが持って行った「願い」は……!


「…………ローレライッ!」


 今更ながらに思い出した、森川先輩の言葉。


 「私が医者になるそれより早く治って欲しい」


 そうこぼしてしまった、その言葉。


 そんな、呟きにも似た言葉を願いと捉え、強制的に叶えるなんて……!




 許せなかった。


 目の前にいる、分身のような存在を、許すことが出来なかった。


「やぁぁぁぁぁああああああっっ!!」


 剣を構え、吶喊する。

 目の前に迫るローレライだが、攻撃しても全て弾かれてしまう。

 激昂し、無駄な攻撃を続ける私を楽しそうな目で見つめる。

 そして、何か面白いことを思い出した、子供のような顔をする。


「そうそう。何で私たちが執拗にキーパーを狙うか知ってる?」


「そんなもの知らないっ!」


「じゃあ教えてあげる」


 一呼吸置いて、口許を歪めながら。


「キーパーが、限界までカルマを汚されるとね……なんと悪魔になっちゃうんだよ」


「……っ!?」


 私の反応を見て、お気に入りの玩具を見る子供のような顔をする。

 その一挙手一投足が、私の怒りを更に掻き立てる。


「しかも、最初からディアボロスになるんだ。どう? すごいでしょ」


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁああああああっ!!」


 力の限り、剣を振る。


 許せない。

 許すことが出来ない。


 もし、こいつの言うことが正しいのなら。

 森川先輩が悪魔になってしまったのなら。

 こいつのせいで、森川先輩がディアボロスになったのなら。


 誰がこいつを許せるだろう。


 許せない。

 絶対に許せない。


 殺してやる。

 殺してやる。

 殺してやる殺してやる!

 殺す。

 殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!








「ぁぁぁぁぁああああああっっ!!!」


 何度となく切りつけるも、全てバリアに弾かれている。

 そんな状況に、より苛立ちが募る。

 怒りに任せて剣を叩きつける。

 闇雲な攻撃だと、頭では分かっていても、止めることなんて出来やしない。

 ひたすらに、憎しみをぶつける。


 そんな私を見て、ローレライは憐れみの顔を見せる。


「ダメだよ。そんな人真似しかしてないような人間が、私に攻撃なんて当てられるはずがない。この状況を何とかしたいなら、もっと自分を持ってみなよ。全てを覆す、お姉ちゃんの願いをさ。ほらほら……持てるものなら持ってみろぉぉぉぉおおおお!!」


 気迫で圧され、一瞬躊躇している間に、身体が吹き飛ばされた。

 衝撃波を放ったようだった。


「私は、この光景を見ていたいだけなの。邪魔しないでよ、お姉ちゃん」


 地面に叩きつけられる直前に体勢を立て直し、再び向かおうと思った、その時。


「待って、いっちゃんっ! 千ちゃんが危ないっ!」


 その言葉に、ようやく我に返った気がした。

 京さんの叫び。


 それに従って千里のほうを見ると、最後に残った悪魔たちが千里に向かって突っ込んでいた。


「ゲートが閉まったから、奴らは捨て身で攻撃に来てるんだ。千ちゃんを助けてあげて!」


 京さんも身動きが取れない状態だが、千里はそれ以上に動ける状態にない。

 助けなければ、下手をすれば命まで奪われかねない。


 気づけば、私は千里をかばうように立っていた。

 さっきの感覚に怯えながらも、シングメシアの力を溜める。


 やはり本能が危険を知らせに来る。

 思わず止めてしまいたくなる衝動。

 意志で逆らうことは出来るかもしれないけれど、それ以上に止めることに重きを置いている。


 でも、ここで撃たないわけにはいかない。


 最後の一撃だ。


 本能が危険を悟ったとしても、今ここで撃たないわけにはいかないっ!


「やぁぁぁぁぁああああああ!!」


 剣に力を込める。


 それが、命を削る…………

 いや、捨てる行為であったとしても。



 限界が来ているのが分かる。


 でも、シングメシアを撃つにはもう少しだけ足りない。


 頑張って……

 保って…………

 お願い………………



 私の身体!

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