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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第4章 森川厘 ~ローレライ討伐録~
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第73話 悪夢

 ローレライが願いを持って行ってしまった。

 その現実を受け入れることが出来ず、呆気に取られてしまう。


 だが、目の前に迫る悪魔たちを見て、そんなことをしている時間は無いことに気づく。

 周囲を見れば、皆はまだ戦える状態にはない。


 露草先輩は這いつくばったままだ。

 まるで死んでいるようにすら思える。


 森川先輩は辛うじて立っているようだが、全身を震わせていることから、戦闘には参加出来そうにない。


 千里は、剣を杖代わりに何とか立ち上がったところ。


 愛さんもゆっくりと起き上がっているが、生まれたての子鹿のような状態。


 京さんも中腰で、全身を震わせて姿勢を保つのがやっとのようだ。


「……私がやるんだ!」


 まず何とかしないといけないのは、目の前に迫りつつある悪魔たちだ。

 さっき放ったシングメシアの余波で、数こそ減っているものの、まだ数は多い。


 それならば。


「煌めけ……シングメシアッ!」


 雑魚相手ならこれで充分だ。

 事実、加減したシングメシアは、見事に悪魔たちを飲み込んでいった。


「そしてすぐっ……!」


 後ろを振り向き、扉に手を掛け、そして押す。


 森川先輩ほどに強いシングメシアじゃないけれど。

 京さんほどに力強く押せないけれど。


 全ての役割を、中途半端にこなすことが出来ることを、今日ほど嬉しく思ったことは無い。


「よし……もうちょっとっ!」


 自分に気合いを入れる意味で、大きな声を出す。


 次の悪魔たちが押し寄せるまでに、きっと閉めることが出来る。

 少なくとも、これで状況が更に悪くなることは無い。


 ゲートの隙間はあと僅か。


 これならば、次の悪魔たちが来る前に、充分間に合う。

 ふと、周囲に目を向けたその時。


 ようやく立ち上がった京さんの後ろに、何かが飛んでいくのが見えた。


 あまりのスピードに、正体を掴むことが出来ず、影のようにしか見えない。

 その影を、何とか目を凝らして見ていた。




 次の瞬間。




「…………えっ?」



 私と京さん。

 距離が離れた2人が、同時に発した言葉。


 目の前で起きた事象が、全く飲み込めないでいる私達。


 無理もない。


 あの一瞬の間に、京さんの上半身と下半身が真っ二つ分かれているなんて。


 そんなこと……

 現実として受け入れることなんて、出来やしない。


「あ、あれ…………」


 胴体は、斬り飛ばされた勢いで宙を舞う。

 脚はしばらく立っていたものの、統制を失いバランスが取れなくなったせいか、倒れてしまう。


 そんな京さんを尻目に、私の視線は、その何かを追い続ける。


 瞬きをした途端に、見失ってしまうも、その影にも似た何かは、千里の後ろにいることに気づいた。


「千里っ!」


「ぇ…………何です? 一子」


 重病人のような声を出す千里。


 私の声が聞こえる後ろを向いた。




 刹那。




 右腕が飛ぶ。


 左腕が飛ぶ。


 そして胴体が飛んだ。



 1秒なんて掛かってもいない。


 千里の身体は、それこそ瞬きをした後に、バラバラにされてしまっていた。


 千里もまた、自分の身体が分解されたなどと思っていないようだ。表情は辛そうな顔のまま、何事も無かったように空を見つめている。


「千里……! …………っ?!」


 影は、私の方へ飛んで来た。


 あと少しで閉まるゲート。

 でも、その閉門作業は中断せざるを得なかった。


 シングメシアを手に取り、迎撃に備える。


 ……いや、待っていてはダメだ。

 自分から攻めに行かなければ。


 攻撃は最大の防御……

 というわけではないが、こちらも攻めることで、相手の攻め手を狭めることも出来る。


 あの影のように早く動くことが出来なくても、多少は動くことで撹乱は出来る。


 今は動くんだ…………!



 私が走り出した瞬間。


 目の前に迫り来る影。


 剣を前に構え、とにかく相手の動きを止めることを考える。

 突然現れた謎の影。

 まずはその憎き正体を突き止めたい。


 怖がるな。

 精一杯の力でなら、きっと止められる。


 いや、止めてみせる!


「やぁぁぁぁぁあああああっ!」


 衝撃音。


 響いた瞬間。


 腕に。

 身体に。

 脚に。

 そして、内蔵にまで響いたように、全身が小刻みに震える。


 しかして私は、今は感じることの無い、全身への尋常でないダメージと引き替えに、影との鍔迫り合いに漕ぎ着けることが出来た。



 だが……


 それはあまりに残酷な事実を突きつけられてしまうことになる。

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