表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たいまぶ!  作者: 司条 圭
第4章 森川厘 ~ローレライ討伐録~
PR
67/88

第67話 森川先輩の秘密

 幸せだったおやつタイムも終わり、その後も勉強に集中していた。

 さすがの京さんも懲りたのか、熱心に筆を進めている。


 勉強する時間が楽しいと思ったのは随分と久しぶりな気がした。

 分からない部分が出てくると、森川先輩と愛さんが教えてくれる。

 千里は後ろで応援してくれている。


 あなたも勉強しなさい……

 という突っ込みはともかくとして、その気持ちはとても嬉しい。


 レースのカーテンから差し込んでいた日差しも、いつの間にか無くなっており、森川先輩が遮光カーテンをしめる。

 時計が6時30分を指し示すと、愛さんと京さんの鞄からけたたましい音が鳴り響いた。

 思わず私の心臓が小躍りしてしまう。


「あ、もうこんな時間ですか……」


「ホントだ。はやいねー」


 時計を見て、昂然としてしまう狩野姉妹。


「門限か。箱入り娘も大変だな」


「もう、森川先輩までそんな扱いして」


「ふふ……冗談だ。迎えはもう来ているのか?」


「連絡していますから、もう来ていると思います」


「そうか、じゃあすぐそこまで送ろう。千里、お前も乗っていくのだろう?」


「猪八戒になるでーすっ!」


 森川先輩の頭にハテナマークが浮かび、かなりの時間を要した後。


「………………ご厄介、か」


「あ、それでしたー」


 いつものやりとりをして、千里も鞄を持ってドアの前まで来る。


「一子はどうするでーす?」


「あ、うん。みんな帰るなら帰ろうかな?」


 そう言いながらも、なお勉強を続ける私。

 そんな様子を見た森川先輩が言う。


「どうせこの家は私しかいない。まだ居たいというなら、泊まっていっても良いくらいだぞ?」


「えっ、でも泊まってまでは……」


「そこは冗談ということくらい察しろ」


 笑いながら言う森川先輩に、私はつい赤面してしまう。

 森川先輩の冗談をあまり聞いたことがないが故だろうか。

 冗談だと半分は理解しつつも、半分は真に受けてしまった。


「じゃあ、もう少しお邪魔します」


「分かった。じゃあみんなを送ってくるから、そのまま続けててくれ」


「あ、じゃあ私も玄関まで……」


 私が玄関まで来た時には、既にみんな靴を履き終わっていた。


「朝生さんはまだ残っていくのですか?」


「はい。赤点だから追試もあるし、しっかりやっておきたいなと思って」


「そっかーっ! 赤点同士、頑張ろうね、いっちゃーん!」


 京さんもやっぱり赤点だったのか。

 人のこと言えないじゃないか。

 とも思ったが、考えてみると、京さんはテストの点なんて気にするな、としか言ってないことを思い出す。

 本当に全く気にしてなかったんだなぁと思うと、京さんの度胸が少し羨ましくもなった。


 …………が、それは違うと、自分の考えをすぐに否定する。


「それじゃあ一子、また明日でーす!」


「うん、千里。またね」


 ちなみに千里はというと、留学生ということで特別扱い。

 赤点を取っても追試は無いらしい。

 ちょっと羨ましい気もするが、日本語から勉強しなければならないのだから、やはり大変な立場にあると思う。


「じゃあ、エントランスまで送ってくる。一子は戻っていてくれ」


「はい、分かりました」


「またねー」


 最後のまたね、は愛さん、京さん、千里の3人同時だった。

 それぞれの、それぞれらしい声で再会を誓う。

 ドアがみんなを飲み込み、私も部屋に戻る。


 入ってすぐ横にある本棚にふと目が行く。

 図鑑や辞書が並んでおり、それだけで知識欲が満たされる気がする。

 こういう本棚と向き合うと、何だか圧巻されてしまう。


 その本棚の中で、最も分厚い本を取り出す。

 大きな辞書を手に取り、ちょっと調べ物をしようと思った。

 今、私が思った「圧巻」という言葉は、こういう使い方で良かったのか、ふと気になったからだった。


 その辞書を引く前に、気になるものを発見する。

 辞書があったその更に奥。

 そこに、何かが光っていた。


 思わず手に取って、私は驚愕する。


「……アニメ?」


 ボックスにいくつも入っているディスクパッケージ。

 数字が1から8まで並んでいるあたり、全部揃っているのだろう。

 そのタイトルは、とても懐かしいもの。


 「魔法騎士プリティーマリー」。


 魔法騎士と書いて「マジカルナイト」と読ませる。

 私が5才くらいの頃に、朝8時くらいからやっていたアニメだ。


 ただ、そんなことはどうでもいいこと。

 驚いたのは、その表紙にある主人公マリーの格好。


「……森川先輩?」


 そう、その格好は、正に幽体離脱した際の森川先輩そのものだったのだ。

 どこか既視感のある格好だと思っていたのだけれど……


 まさかアニメだとは思わなかった。


 小さい頃に見ていたから、あまり覚えていなかったというのもあるけれど。


「戻ったぞ。一子、勉強は進ん……で………………」


 部屋に入ってきて、目の前に映る光景。


 それはきっと、森川先輩にとって、あってはならないことだろうということは、想像に難くない。


 わざわざ辞書の裏側に隠したアニメ。

 それをわざわざ取り出し、手に取っている私。

 先輩がいない間に、家捜ししていたとしか思えないだろう。


 そう思うと、途端に冷や汗が止まらなくなった。





 何も言えない私。

 口を開け、右手を半端に上げて、赤面する先輩。


 やっぱり何も言えない私。

 左手をふるわせる先輩。


 どうあっても何も言えない私。

 赤面する顔を伏せる先輩。


 喉まで声が出て、結局出せない私。

 両手を力なく下げるも、両肩には力が入る先輩。


 何とか振り絞ろうにも、何を言えばいいか分からない私。

 全身が震える先輩。


 それには思わず恐怖で震える私。


 何というか……

 故意、過失は関係ない。

 私に非があることなのだから、それは森川先輩の沙汰を受けるしかない。


 次の瞬間を、固唾を飲んで待つしかないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ