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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第4章 森川厘 ~ローレライ討伐録~
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第65話 森川先輩流勉強する理由

「ここは、少し視点を変えろ。こう考えるんだ」


「おぉー、なるほどっ! これは知らなかったっ!」


「知らないはずは無いんだがな」


「じゃあ、忘れちゃいましたー!」


「まったく、調子がいいな」


 京さんが、笑顔で叱られている。

 言葉をかける森川先輩のほうも、半分呆れつつも、口元を弛めていた。


 それにしても、前評判通りというか……

 森川先輩の説明はとても分かりやすかった。


 数学のみならず、国語や歴史においても隙がなく、事細かに、それでいて理解しやすいように教えてくれる。

 本当に、普段の授業がいらなくなりそうだ。


「ところで、何で私達も呼ばれたでーす?」


 千里が突然、そんなことを言い出す。


 でも、それは当然の疑問だった。

 愛さんは成績に問題は無さそうだし、千里は免罪符を貰っているようなもの。

 ここにいる理由は無さそうだった。


「愛に来て貰ったのは、京のお目付役だ。あんまり暴走しはじめると、私でも止められないからな。大事な役割だ」


「えぇー、そんなこと無いですよ!」


「以前、家に来たときのことを忘れてはおるまい?」


「あはは……な、なんかありましたっけ?」


 完全にすっとぼけている様子の京さん。

 何があったかすごく気になるところだけれど、あえて触れないでおこう。


「じゃあ、私は何で呼ばれたでーす?」


「千里も一緒に勉強したほうが良いと思ったのもあるが……実は、私は英語が苦手でな。分からない部分は、補完してもらいたかったんだ」


「なるほど、了解でーす! 一子、英語で分からないところは何でも聞いてくださいでーす」


 前半部分は聞かないフリでもしているのか。

 私に後ろから抱きついて、そんなことを言う。

 でも、どこか憎めない自分がいる。


 一方の京さんは、またも頭を抱えており、すぐに森川先輩がサポートに入る。


 広げている教科書は数学Ⅱだった。


「京、お前は本当に数学が苦手だな」


「うーん。苦手っていうか、やる意味がよく分かんないんですよねー」


 手を頭の後ろに組み、苦いものでも食べたような顔をする。


「京ちゃん、授業でやることに無駄は無いと思うよ」


「そうかなぁ。じゃあさ、愛ちゃん。数学って何のためにやるの?」


「えっ……そ、それは……」


「ほらー、愛ちゃんだって分かんないんじゃーん」


 言い返せなかったのが相当悔しいのか。

 愛さんは顔を真っ赤にして涙目で京さんを見る。

 何というか、怖いというより可愛い。


「こら、そう愛を苛めるな」


「はーい、ごめんなしあ」


 謝る気が無さそうな返事をする京さんに、森川先輩は苦笑で応える。


「ただ、京の言うことももっともだな。こと、教育の現場において、何故この教科を学ぶのか、という根本を教えない。だから、京のような疑問が出てもおかしくない」


「そうでしょ、そうでしょー?」


 森川先輩に乗っかるように言う京さん。

 それを見越していたのか、森川先輩は、小悪魔のような笑みを浮かべる。


「そうだな。だから、私の持論で良ければ教えてやろう」


 思わず京さんの動きが止まる。

 どうやら、嫌な予感しかしないようだった。


「さて、京……何から知りたい?」


「そ、そこはやっぱり数学からっ!」


「分かりやすいやつだ。そうくると思ったぞ」


 精一杯に手を挙げて、元気に言う京さん。それに小さく笑みを浮かべながら、森川先輩は応える。


「さて、まずは数学。これは、物の考え方を勉強するものだ」


「えぇ……何で数学でそんなことを勉強できるの?!」


 京さんの疑問と驚きに満ちた声が響きわたる。


「その驚きは無理もない。これは潜在的なものでな。あまり実感が湧かないため、軽視されがちになる。だが、多数の公式を頭に入れ、1つの問題に対して様々な解き方をアプローチすることは、ある物を様々な視点から見れるようになる。それが、数学の目的だ」


「そうなんだ……」


 京さんの顔は、正に目から鱗という顔だった。

 かくいう私も……

 いや、千里に愛さんも、人のことは言えない状態だろう。

 数学がそんな科目だなんて、今まで意識したことが無かった。


「じゃ、じゃあ歴史は? あんなの暗記だしっ!」


「テストとして覚えることは確かにそうだな。だから、その勉強法は、本来間違っていると言う他ない。歴史というのは、先人の成功と失敗を見て、己に昇華させるための科目だ。人間の本質など、そう変わるものではないからな」


 サラサラと答えられ、焦燥感に駆られていく京さん。


「……こ、古文って意味あるの?」


「歴史に似るところだが、人間の本質はそう変わるものじゃない。違う点は、歴史は「出来事」に対し、古文は「心情や情緒」を学ぶということだな。昔の人がどう考えていたか、どんな思いを持っていたかを知ることは、自分自身の感性を豊かに出来るというものだ」


 既にグロッキー気味な京さん。

 それでも負けじと、次の教科を出す。


「……か、化学は?」


「世の中に起きていること全ての根元を知ることだ。ある物体がどんな構造になっているのか、どんな仕組みで発生しているのか。それを知ることで、自分自身の周囲の出来事について、見方が変わってくるはずだ。ケルベロスとの戦いで、雷の仕組みを知っていたことで勝ったことは忘れないほうがいいぞ?」


「ぶ、物理は……」


「世に起きている様々な物事を、数字に置き換えているものだ。物作りをする際に、基準となる数字があると無しでどれだけ違うかは……想像に難くあるまい?」


「え、英語……」


「残念ながら、これだけは無駄が多いと言う他無いな」


 京さんの顔が一転して明るくなる。

 しかし、それに対して、森川先輩はここぞとばかりにほくそ笑む。


「もちろん、今の日本における英語教育では、話すことが出来ないし書くことも煩雑す

ぎて本末転倒だ。しかし、それだけ文体を理解していれば、どんなに難しい英語の公文書も理解出来るようになる。無駄だ、不要だと切り捨てていいものじゃないぞ?」


「うぅ~ん…………」


 参った、と言わんばかりに後ろに倒れ込む京さん。

 万歳したまま、泡を吹いている。


「京ちゃん、こてんぱんにされちゃったね……」


 シャープペンシルの後ろで京さんの頬をつつく愛さん。


 その京さんは、全く気づく気配も無く、しばらく卒倒していたのだった。

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