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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第3章 露草五十鈴 ~ケルベロス討伐録~
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第60話 β作戦

「よし、行くぞっ! 門番大作戦βだっ!」


「はいっ!」


 森川先輩の作戦を全員が聞くまで、露草先輩の護方符で凌いだ。

 稼いだ時間は、それこそ僅かな時間だったが、森川先輩の作戦を全会一致で決めるには充分な時間だった。


 即座に動いたのは露草先輩。

 壊された護方符を再び展開し、森川先輩を除く人たちが入った。


「ソードダンス・プレティシモ!」


 一瞬のうちに森川先輩は姿を消す。


 私達は、すぐさま準備に取りかかる。


「さて、何かするつもりかな。これが、貴様等の戦う工夫であるとすれば……欣喜雀躍というものだ!」


 響きわたるケルベロスの声。

 どこから聞こえてくるのかは分からないが、かなり遠い場所からのように思えた。


「そこだっ!」


 切りつける森川先輩の姿は、私達の後ろに一瞬現れたと思うと、すぐに消えてしまう。


「なるほど、その技で俺の動きを見切っているのか。だが、その速度。確かに速いが、俺に追いつくほどではないぞ」


 それは事実なのだろう。

 そうでなければ、森川先輩の斬撃は避けられないはずだ。


 ケルベロスの動態視力が自身の動きに追いついていない。

 そうは言っても、雷という、亜光速に対して追いついていないだけで、そのスピードに相応するだけのものはある。

 故に、生半可な動きでは、やはり簡単に避けられてしまうのだ。


「ソードダンス中は、私の動態視力は格段に跳ね上がる。そうすると、私は少なくともお前の動きを見ることが出来る。さっきのような幻影に惑わされるようなことは、少なくとも無くなるわけだ」


「なるほどなるほど。だが、それだけでは、攻撃は当たるまい」


「そうだな。それをどうするか悩んでいるぞ」


「嘘をつくな。それも出来ないまま行動する貴様等ではあるまい……森川先輩の娘ぇ!」


「分かっているならば、楽しみにとっておくと良い……!」


 スピードだけは、確かにケルベロスの方が勝っているように見える。

 だが、森川先輩が指摘した弱点を体現するように、ある地点に足を止めて再び移動という、インターバルによる移動が見て取れた。


 つまり、移動先を確認しての移動を繰り返しているのだ。


 対して森川先輩は、ずっと同じ速度で猛追している。


 この差は大きいようで、目には見えないながらに、森川先輩はケルベロスとの距離は着かず離れずという状況のようだ。

 ケルベロスが立ち止まった時に、時折剣を振り回す森川先輩が見え隠れするのが、それを物語っている。


 そうこうしているうちに、京さんが準備を終えたようだ。


「よし、準備おっけー。あとは愛ちゃんの合図待ちっと」


「正確には、森川先輩の合図待ちだけどね。まぁ、私の方向に来る確率が高いって言ってたけど」


 力なく口を開くのは愛さん。

 愛さんは、体育座りをして、上を見上げている。

 京さんは、その愛さんと背中にして座った。


「情けないなー……守らないといけない私が、今はみんなに守られてる」


「何言ってるのさ。愛ちゃんがいなかったら、ボクら最初から黒こげだよ? 今はゆっくり休むのが愛ちゃんの仕事なんだよ」


「うん……ありがと、京ちゃん」


 護方符の外では、常人には見えない壮絶な戦いが繰り広げられている。

 何度か雷を放ったようだけれど、全て的外れな場所に落ちていた。


 きちんと狙いをつけることが出来ない……

 というより、森川先輩がさせていないのだ。


 それも作戦の1つであり、見事に成功している。


「京ちゃんっ!」


「あいよっ!」


 愛さんが京さんを呼ぶ。


 森川先輩の合図は、一瞬のうちに繰り出されたシングメシアの、残り火のような煌めき。

 全方位のどこからか出される合図に対し、愛さんと京さんが2人で注視していた。


 その合図に反応したのは京さんだけでなく、露草先輩もだった。


 私達を守る護方符を解除し、七支刀を取り出す。


「破っ!!」


 京さんが準備したのは、巨大な数珠。


 これは、私の中では記憶に新しいものだ。

 私が討伐を体験した、その初日。

 京さんと2人、ティターンと遭遇したあの日に、雷を落としたあの数珠。

 これがどうなるのかと言えば。


「な、何だとっ!?」


 雷が落ちる。

 正にその速度で、数珠に引き寄せられるケルベロス。

 動態視力は当然追いつかず、自分が今立っている場所が、どこなのかも認識出来ていない。

 混乱は増すばかりだろう。


 その機会を、逃すわけには行かない。


「はぁっ!」


 私は、合図と同時に巨大な手を具現化させていた。

 本来であれば、扉を締めるための巨大な手。


 でも今は、ケルベロスを拘束するための手となる。


 ケルベロスは、何か行動をする間もなく、捕まった。

 私の手は、見事にケルベロスを捕獲して見せたのだ。


 予め、そこに落ちると知っていた私と、知らなかったケルベロス。


 その差を、ケルベロスのスピードと判断力で埋めることは適わなかったということだ。

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