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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第3章 露草五十鈴 ~ケルベロス討伐録~
52/88

第52話 勝ち取ること

 放課後になり、周囲が夕焼け色に染まる頃。


 私と露草先輩は、部室で2人きりだった。

 今、この時間は、ケルベロスを待つ時間だった。


 昨日と同じように、私と露草先輩、千里以外は、みんな討伐に出ている。


 私が立ち会うのは、露草先輩の希望だった。

 緊張が張りつめる空間。

 そんな時間に耐えられなくなった私は、こんな質問をしてみる。


「露草先輩……何でこんなに、ケルベロスの討伐にこだわったんですか?」


「あら、聞いてなかった? 私は、これが絶好の機会だと思ったからよ」


「それだけですか? 何だか、鬼気迫る感じもしたので」


「そうかしら。至って普通だと思ったんだけど」


 一区切り置いてから、ふと思い当たったのか、私の方へ向き直る。

 ちょっと意外な行動に、思わず身体が反応してしまう。


「そう驚かないでいいわよ。私はね、今回絶対にケルベロスを討伐すべきだと思った。だから、それが出来るように、ひたすら手を尽くしただけなのよ」


「はぁ……つまり、自分がやりたいことをやり遂げるために、っていうことなんですか?」


「ズバリ、その通りね!」


 人差し指をこちらに向け、ウインクする。


「私は、自分の希望を通すために、全力を尽くすわ。それは何も、強引に人を押し退けたりするものじゃないの。例えば朝生さんが、とても欲しい物があるとするわ。でも、自分にお金が無くて、親からお金を出して貰うとする。そうしたら、頑張って親を口説き落とすでしょう? 今回、私がやったことは、それと全く同じよ」


 そんな身近な例を出されると、確かにその通りだ。


 ケルベロスを倒すという目的のために、みんなを説得した。

 ただ、それだけのことだ。


「私は結局、ワガママなだけよ。自分がやりたいことに、皆を巻き込んだだけなの」


「そ、そうなんですか?」


「極論を言えばそういうことよ。私自身は、それが当たり前だと思うし、そうするべきだと思うわ。自分が、本当にやり遂げたいと思うことは、勝ち取っていかないといけないのよ」


「やり遂げたいことを勝ち取る……?」


「えぇ、そう。今回の私みたいにね」


 違和感を覚えるその言葉。

 でも、その隻語は、まるで私の心を抉るかのように食い込んでくる。


「私達は、自分一人で生きてるわけじゃない。自分一人で生きているように思えて、大事な人たちが周りに必ずいるわ。自分が何かを決めて行動する、ということは、その大事な人たちを巻き込む、ということでもある。だから、きちんと話をして、納得してもらわないといけない。そうじゃないと、そこで無理を通しても、最終的には上手く行かないわ。だからこうして、ちゃんと話をして、それ相応に準備をして、それでみんなを納得させる。それが、勝ち取るということよ」


 私の脳に刻まれていく先輩の言葉。


 そうだ。

 それこそが、自分で道を選択するということなんだ。


 自分で感じて。

 自分で考えて。

 自分で学び。

 自分で努力する。


 その成果を見せて。

 表して。

 認めてもらい。

 そして、己の道として確固たるものにしていく。


 それが、自分で決めるということなんだ。



 今までの自分はどうだっただろう?


 親の薦められるままに進路を決めて。

 親が薦めた部活に入り。

 相応にこなしてきて、相応に結果を出してきた。


 それなりにやってはきたけれど。

 それは、やっぱり自分で決めたことじゃない。


 自分で決めて。

 結果を出して。

 それを認めてもらう。


 そうやって勝ち得ていかないといけないんだ。



 そう思うと、途端に今までの自分が恥ずかしく思えた。


 何も考えていなかった自分に、腹が立った。

 でも、これからは、もっと自分で選択しようと。

 そう思えた。


「何か良い顔してるわね。人生でも悟った?」


「えっ?」


「ウ・ソ♪」


 ふと、視線を逸らして、宙を見る先輩。


「ま、その良い顔もそこまでね。目の前にいる敵に集中しましょうか」


 その視線の先。

 そこには、いつの間にか。


 今回の宿敵が立っていたのだった。

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