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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第3章 露草五十鈴 ~ケルベロス討伐録~
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第49話 交渉対部員

「あまり分の良い取引ではないな」


 森川先輩が、話を全て聞いた後に放った言葉だった。


「そうですね。仮に朝生さんがキーパーになった理由が分かったとしても、あまりこちらには利が無いです」


「ボクもそう思うなー」


「私も反対でーす」


 狩野姉妹の否定的な意見。

 ついには千里まで反対票を入れる。

 かく言う私も、あれから頭をしっかり整理した上で、反対に投じるしかない。


 理由はといえば…………


「あら、厘さん。どうして?」


「まず、一子がキーパーになった理由が分かったところで、私達にはどうしようもないということだ。仮に、私達の仮説が正しく、どの悪魔が一子と死別した兄弟なのかが分かったところで、魔界にいる悪魔本体を叩くことなど出来ない。そもそも、一子には兄弟はいなかったという。それなら、なおさら聞くまでもないだろう」


 うんうん、と全員が頷く。

 私も同意見のため、思わず首を縦に振る。


「なるほど、他にあるかしら」


「もちろんだ。その、五十鈴の父の願いを持っているというならば、素直に捨てさせるべきだ。五十鈴自身が願っていたとしても、それは父親のカルマを代償としてでも叶えるべきものなのか……キーパーであれば、そんな愚問を改めて聞く必要はあるまい?」


「そうね。他には?」


「ケルベロスとはいえ、ディアボロスが本当に約束を守るかどうかは、不確定要素となる。どちらにせよ、五十鈴の父の願いを持っているというなら、今回も今まで同様に、討伐なり閉門してしまえば良い。そんな取引は不要だ」


 森川先輩がおおよそ皆の理由を述べてしまったようで、首を縦に振るばかりだった。


「なるほど、だいたいみんな同じ意見ね。違うところがあれば聞くけど」


 そこで、おずおずと手をあげる私。


「じゃあ私から一つ希望といいますか……」


「はい、朝生さん」


 指されたので、何となく席から立ち上がった。


「私は、キーパーになったことを、悲観的には思っていません。むしろ、こうして退魔部に入れたことは、嬉しく思います。それなのに、私がキーパーになれたことの根元を断たれるのは、むしろ反対です」


「それは……」


「私はな、一子、お前がここにいることそのものが不自然だと思っている」


 露草先輩の言葉を遮るように、森川先輩が口にした。


「えっ、でも……」


「お前は、知らなくても良いことまで知りすぎてしまったに過ぎない。それに、お前が戦えるようにしているのは、単純に戦力不足という観点からのものではない」


「残念ながら、そういうことなのよ」


 今度は、森川先輩を制するように露草先輩が口を挟む。


「私達は、本当にリスキーな仕事をしていると思う。悪魔と対峙するというのは、命を危険に晒す仕事であるのに、相応の報酬も貰えないお仕事なのよ。その危険な仕事を、本来、宿命を背負うべきでない普通の人に押しつけたくはないの。あなたの力を育てた一番の理由は、自分1人で戦えるようになって欲しかったから。実は、ただそれだけなの」


 何か言いたげな森川先輩だったが、引っ込むように椅子に座る。


「もし、朝生さんが普通の生活に戻れる方法があるというなら……私は、貴女の意思に関わらず、元に戻すでしょうね」


「そ、そんなっ!」


「ウ・ソ♪」


 思わずずっこける。

 そこでそう来たか。


「ま、仮の話はここまでよ。ケルベロスも、朝生さんがキーパーになった理由を話すだけで、朝生さんを普通の人に戻す方法を教えるわけじゃないしね」


 まぁ、それもそうだ。

 ちょっと話が飛躍してたかもしれない。

 胸をなで下ろしていると、露草先輩は総括するように口にする。


「とりあえず、今回の、ケルベロスの提案は断る。これがみんなの意見ということね」


「そうなるな」


 露草先輩の言葉に、森川先輩だけでなく、他のみんなも同意する。

 そんなみんなに同調するように、露草先輩も頷きながら。


「そう……それじゃあ、私の意見とは真っ向から対立することになるわね」


「……なんだと?」


 そう言い放った。


 予想もしない言葉に、眉をひそめる森川先輩。

 私も。

 そしてみんなも。


 驚きを隠せない。


「これほどの好機は無いわ。この機会に、ケルベロスを倒すのよ」


 言い切る先輩に、全員が言葉を返すことが出来ない。

 そんな私達に説明するように、ゆっくりと口を開く。


「先輩たちの記録を見ていると、ローレライが出てきたのは、実はここ最近のこと。それまでは、ケルベロスが最強と言われていたわ。その理由は2つ。1つは、あまりに速すぎる故に、攻撃すら当てられないこと。2つ目は、雷の攻撃が強力であるが故、簡易的な障壁を持ってしても貫かれてしまうこと」


 ふと思い出すのは、ケルベロスが出てきたときだ。


 露草先輩の護方結界は、ケルベロスの雷によって、いとも簡単に破られていた。

 つまり、護方結界ですらも「簡易的な」障壁に該当してしまうということ。


 もう一つ思い出すのは、愛さんがケルベロスの雷を何度も弾いたこと。


 かなり集中させていたようだけど、それでもつらそうだった。

 つまり、ケルベロスの雷を防ぐには、愛さんの防御壁しかないということだ。


 素早い動きについては、今更確認するまでも無い。

 あの動きは、文字通り、目にも止まらない早さだった。


「今のところ、ケルベロスを相手にした時のゲート通過率は100パーセント。ティターンやユニコーンは、撃破こそ出来ていなかったものの、阻止をしたことは何度もあるわ」


「つまり、一番の厄介者であるケルベロスを、この機会に倒してしまおうと。そういうことか」


「その通りよ」


 しばしの沈黙。

 重苦しい雰囲気の中、重々しく森川先輩が口を開く。


「それが、お前の答えか、五十鈴」


「えぇ、そうよ」


「もし失敗すれば、お前はどこの誰とも知らぬ男と結婚するのかもしれない。女が何歳から結婚出来るか、知らないわけでもあるまい?」


「えぇ、分かっているわ」


 私も知っている。

 女性が結婚出来るのは、16才からだ。


 ということは、ケルベロスが願いを叶えた場合、法律的にも問題無く、露草先輩は結婚してしまうということになる。


「それでもいいんだな? 父親のカルマを汚され、お前の将来が閉ざされてでも、この戦いをするべきだと。そういうことなんだな?」


 まっすぐ見つめる……


 いや、静かに睨み合う先輩たち。

 しばらく視線を合わせていると、露草先輩が口許を緩めた。


「さっきから負けた時のことばかりね、厘さん。そんなことじゃ勝てないわよ?」


 その言葉には少々カチンと来たのか、森川先輩の声にも怒気がこもる。


「あのケルベロス相手だ。慎重にもなるだろう。それとも、五十鈴……お前には策でもあるというのか? お前も知っているはずだ。視線では追えないスピードと雷による攻撃。あれをどう防ぐというんだ」


「策ならあるわよ」


「なにっ……」


 一瞬、森川先輩がたじろぐ。

 その様子を見た露草先輩は口許を緩めていた。


「……そうなのか?」


「もちろんよ。その証拠に、私は数分間、ケルベロスと1対1で戦えたわ。それも、私が以前から考案していた対ケルベロス戦術があったからよ。1人では限界があったけど、皆と一緒ならもっと上手く出来る。まぁ、皆でやる作戦は、まだ完成に少し時間が必要なんだけどね」


「それなら……」


「でも、だからこそよ」


 森川先輩の視線を弾くように見返す露草先輩。

 そして、


「これは絶好の機会……ケルベロスを倒すわよ」

そう言い切った。

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