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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第3章 露草五十鈴 ~ケルベロス討伐録~
47/88

47話 私の理由

挿絵(By みてみん)

 私と露草先輩は、緊張感の張りつめた部室の中にいる。


 下手に動くと、ピンと張った空気が一気に壊れてしまう一触即発という状況。

 私は、息を呑み、ただ沈黙することしか出来なかった。



 宿敵であるディアボロス、ケルベロスを前にして。






 放課後。


 私は、たまたま生徒会室から出てくる露草先輩を見つけた。


 退魔部の部室の隣にある生徒会室。

 間違って入ってしまったのかと思ったが、そんなことは無いと、すぐに頭で否定する。


「あら、朝生さん。今日、退魔部の活動は無いわよ?」


「えっ? そうなんですか」


「ウ・ソ♪」


「だと思いました」


「あらら、残念。朝生さんの反応は楽しかったのに、もう楽しめなさそうね」


「残念ですが、千里とは違いますよ」


「あらら。その台詞、樫木さんに告げ口しないとダメね」


「えっ?」


「ウ・ソ♪」


「……だと思いました」


 少しだけ焦ったのは内緒。

 それはともかくとして、ちょっとした疑問をぶつけてみる。


「そういえば、どうして生徒会室から出てきたんですか?」


「あら、知らなかった? 私、生徒会書記なのよ」


「えっ……?」


 僅かな沈黙。

 それから、いつもの台詞が来ると思って待っていたのに、全く来る気配がない。


「……あれ、いつもの嘘?」


「ホ・ン・ト♪」


「そ、そうなんですか」


 ウ・ソ♪ が出るかと思っていた私。

 ちょっと調子が狂ってしまった。


 微妙な空気かと思ったが、露草先輩は気にしている様子は無い。


「あら、意外だった?」


「意外と言えば意外ですけど、ぴったりな気がします」


「うーん、褒めてる?」


「そのつもりです」


 お互い笑いあう。


 まぁ、意外に思ったのは、単純に退魔部のことがあるからだ。

 

 私の中で、露草先輩は退魔部以外に掛け持ちするようなイメージが無かった。

 退魔部は、人類全体の重荷を背負って行う部活だ。

 それに専念しているイメージのほうが強かったというだけで、生徒会に入っている露草先輩の姿は、やはり想像するに難いものではない。


「でも、どうして生徒会に?」


「ウチの学校は、生徒会のメンバーを決めるのには選挙があるんだけど、みんな消極的でね。立候補者ってあんまり出ないのよ」


「あっ……なるほど。想像がつきました」


「まぁ、そういうこと。それで、私が推薦されたのよ」


 露草先輩を推薦する気持ちは分かる気がする。


 才色兼備という言葉がぴったりハマり、運動神経も良い。

 性格だって良いし、ちょっぴりお茶目なところもある。

 誰もが認める優等生と言ったところだろう。

 それはよく分かる。


 ただ、退魔部との掛け持ちというのはいかがなものだろう。


「ふふ、朝生さんは顔に出やすいわね。最初はね、生徒会長に推薦されてたのよ。でも、そこは退魔部の立場もあったからね。書記で勘弁してもらったわけ」


 読心術のごとく、私の質問を受けずに答える先輩。


 正直、寿命が縮まってるかもしれない。

 見えないように深呼吸をしてから話を続ける。


「でも、推薦って、何だか卑怯な気もしますよね。自分はやらないで、他の人を槍玉に挙げるって、どうなんでしょう」


「うーん、そうね。そういう考え方もあるかな?」


 ポンと軽く肩を叩かれる。

 思わずビクついてしまうが、その手から伝わる暖かさと、送られる視線の柔らかさに安心する。


「でも、それはちょっと悪意のある捉え方だわ。私の場合はちょっと違うの。推薦っていうのは、推薦した人が責任を持って、ちゃんとした人を紹介しますってことだと思う。そのうちの1人に、私が挙げられたのだとしたら、私はその期待に応えるべきだと思ってる。とはいえ、生徒会長となると多忙で、退魔部に支障を来す場合があるかもしれない。だから私は、生徒会書記になったの」


「なるほど……」


「どう? そう思うと、推薦も悪いものじゃないでしょう?」


 そう言われると、その通りかもしれない。


 今まで、推薦というと、押しつけ合いのイメージが強かった。

 というか、そういう場面しか見てこなかった。


 でも、本来であれば、推薦する人にも責任はあるはずなのだ。

 無責任に人に押しつけるのは、推薦ではない。


「まぁ、私は良い経験をさせてもらってると思うわ。きっと、自発的に生徒会に入ることは無かったでしょうからね。そういう機会を与えてくれたことに、むしろ感謝すらしているわ」


 つらつらと、言葉を連ねる先輩。

 その1つ1つの言葉は、私の胸に染み渡っていく。


 何でこうも……

 この人は、素敵な考え方をするのだろう。


 私も、一度だけ、学級委員長を推薦でやらされたことがあった。

 それこそ堪らないほど嫌で、嫌々やっていた仕事は、自分の身になっていたのか怪しい。

 でも、こういった考え方が出来れば、もっと違った過ごし方が出来たのかもしれない。


 そう思うと、何だかとても悔しく、自分に怒りすら覚えてしまう。


「ま、過ぎたことは誰も変えることなんて出来ないわ。悪魔でもない限りね」


「あはは、そうですね」


 そう言いながら、部室の扉を開けたその瞬間。


「そう、我等なら変えることが出来るやもしれぬぞ」


 部室の奥から、不躾な声が聞こえた。

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