45話 露草先輩とデート
私達は、またもマロンドにいる。
どこに行こうか、という話になるも……
学校に戻る、というのもどうかということで、ゆっくり出来る場所としてマロンドが挙がった。
もとより露草先輩にとってゲームのホームタウンであるし、それ以上に、私がここのケーキの味に魅入られたが故だった。
今も、ケーキセットを目の前にして、幸せ一杯だった。
「そんなに食べると太りますよ?」
「大丈夫です。ケーキは別腹ですから!」
「それ、全然大丈夫じゃないですよ」
どうにもミステリアスなイメージの露草先輩だったが、話してみると、何とも普通の女子高生だった。
むしろ、狩野姉妹のような特殊な家庭でもないし、千里みたいな貧乏な家庭じゃない。
いわゆる、極普通の家庭のようだった。
お父さんはサラリーマンで、よくある家族。
露草先輩は一人娘らしい。
ただ、その上品な雰囲気というのは、やはり家庭の教育なのだろう。
世間話をしている中でも、そう感じていた。
「それにしても、今年は朝生さんが来てくれて本当に良かったわ。おかげで、今まで倒せなかったディアボロスを2体も倒してる。これは、退魔部始まって以来の快挙かもね」
「そう言って貰えると嬉しいです」
「本当に、感謝してもし足りないくらいよ。それにしても、朝生さんには本当に御兄弟はいなかったのかしら」
「いえ、いないですよ。前にも聞かれましたけど、もしも兄弟がいたらどうなるんですか?」
よく聞かれるので、つい気になってしまう。
露草先輩は、少しの間を空けてから言葉を続ける。
「うーん……実は、キーパーになれる条件は2つあるの。1つは血筋」
「あ、はい。露草先輩は、確か神社のお家の方とか」
「あら、誰かに聞いてたのね。まぁ、そういうこと。特殊な血筋の人間は、キーパーになることが多いわ」
「みなさんそうなんですよね。じゃあ、あとの1つは?」
「あとの1つは……」
沈黙が続く。
その次の句を、固唾を飲んで待つ。
「あとの1つは……おっぱいの小さい子よ!」
「えぇっ?」
「ウ・ソ♪」
思わず崩れ落ちてしまう。本当にこの人は……
それに、私、千里、京さんと、いちいち当てはまるから冗談とも判別しづらい。
「冗談冗談。朝生さんも樫木さんも、からかい甲斐があっていいわ」
「もう、本当に勘弁してください」
「ごめんごめん♪」
紅茶を一口飲んでから、さらに続ける。
「本当はね、遺族……というより、血を分けた兄弟の中に、悪魔になってしまった人がいる場合なのよ」
「えっ……!?」
思わず絶句してしまう。
それは、あまりに衝撃的なことだ。
その言葉が意味することというのは……
つまり、人が悪魔になってしまう可能性があるということではないか。
「人の死後、魂が抜けて輪廻の渦に入る前に、悪魔が囁くことがあるの。まだ生きていたいか、ってね。それに応えてしまうと、悪魔として転生し、魔界に封じられてしまうわ」
「封じられる……」
「そう。まだ話してなかったかもしれないけど、あの悪魔たちは、ただの思念体。魔界にいる本体が飛ばしている、実体を持たない幽霊のような存在なのよ。だから、幽体離脱をした状態で、初めて攻撃することが出来るわけ。例外はディアボロスで、悪魔の実体がそのままこちらに現れているわ。まぁ、だからその分、力も強いんでしょうけれど」
要は、魔界から、小さな自分をラジコンで操ってるようなイメージだろう。
ディアボロスは、そのまま自分が飛び出ていっているということか。
「つまり、魔界では、あの悪魔の数だけ、数多の悪魔が存在しているわけ」
「……そうなんですか? 1体の悪魔から、複数の悪魔が出せる奴もいるのでは?」
「実はそういうわけじゃないみたいなの。あくまでも1体につき、1体の悪魔が出てきているそうよ」
何ということだろう。
それだけの数の悪魔が、魔界にはひしめき合っているということなのだ。
想像するだけで寒気を覚える。
「元は人間の彼らの願いは、もしかしたら、魔界から抜け出したいのかもしれない。そのために、カルマを集めているのかもしれないわね」
「それって……あんまり想像したくないですね」
「そうね。もしかしたら、人が死んだ数だけ悪魔がいるんじゃないかと思うと、ぞっとするわ」
思わず背筋に寒気が走った。
そんな空気を断ち切るように、露草先輩は咳払いをしてから続ける。
「まぁ、ちょっと話は逸れたけど、そうやって悪魔に転生した兄弟がいると、残った兄弟はキーパーになったっていう例があるみたいなの。ただ、今まででも、本当に2例くらいしか無いみたい。そうだったとしても、きちんと根拠を示した例はない」
「えっ、そうなんですか?」
「そうよ。だって、あの悪魔が、自分の兄弟だ、なんて認識出来る?」
うーん、それもそうだ。
となると、別の理由があるということだけれど……
露草先輩はその理由を説いた。
「実は、朝生さんも遠縁では、私達の誰かと繋がってるのかもしれない。むしろ、こっちのほうが可能性としては高いのかも。実際、早露の家にしても、本当に全ての家を網羅してるわけじゃないだろうしね」
確かにその通りだ。
それこそ、全てを網羅していたら、家系図も大変なことになるだろう。
曾お祖父さんが作った家系図を見せてもらったことがあるけれど、僅か6代くらい見ただけでも頭が混乱しそうだった。




