44話 お見舞いからの
「みなさん、今日はありがとでしたー!」
千里の見送りで、退魔部全員が退室した。
今、千里のアパートの前にいる。
千里が来た放課後、お見舞いということで一度は訪ねようと話をしたところ、じゃあ今日にでも、と即座に決まってしまったのだった。
「みんなで歩いて行きましょうー!」
と提案した千里だったが、露草先輩の、
「バスで行きましょう。何キロ先か知らないとでも思って?」
には適わなかったようで、その後は口を噤んだ。
「大丈夫、樫木さんのバス代くらいは持ちますよ」
との言葉に、少しばかり安心したのだろう。
……まぁ、千里は今、少しでも節約しなければならないから、仕方ないのかもしれない。
千里の教会は、まだ建て直しは出来そうにないようだった。
教会からの補助金も出るようだし、火災保険もそのうちに降りてくるようだけれど、やっぱりまだ少し足りないらしい。
まぁ、そこは千里らしく。
「大丈夫、そのうち何とかなりまーす!」
という前向きな言葉が返ってきた。
お見舞いが終わったのが先程のこと。
周囲はまだ明るい。
以前に私がお邪魔した時のように、徒歩による遠征でなければ、時間にはかなり余裕が出来るようだった。
「これから帰って討伐……っていうのも何だな。今日は解散するか」
「そうね。今日くらいは羽を伸ばしましょう」
「そうか。じゃあ、これで失礼する。みんな、また明日」
「はい、いってらっしゃい」
「さも、私がどこかへ行きそうな言いぐさだな」
「あら違うの?」
「……お疲れ」
「はい、お疲れ様」
先輩2人のやりとり。
森川先輩は別の方向に行くのか、学校方面へ戻るためのバス停から離れていった。
「さて、私達はどうしましょうか」
露草先輩の言葉に、京さんが大きく手を挙げる。
「あ、ごめんなさい。ボクたちは帰りますっ!」
「そうですね。ちょっと家の用事があるもので……こちらはお迎えをお願いしています」
「さすがは令嬢さんね。言うことが違うわ」
「もう、そんなこと言わないでくださいよ」
「くださいよー!」
本当に嫌がってる愛さんと、ハイテンションで返答する京さん。
いつも思うけれど、容姿がそっくりでなければ、とても双子とは思えない。
「方向一緒ですし、露草先輩と朝生さんも乗って行かれますか?」
「うーん、有り難いお話だけど、私はパスかな。ちょっとブラブラしていきたいかも」
「そうですか。朝生さんはどうします?」
「うーん」
しばし考えていると。
「朝生さんは、私と一緒に行くのよね?」
「えっ?」
「ウ・ソ♪」
ずっこけてしまう私だけど、妙案だとも思った。
考えてみると、露草先輩とゆっくり話をしたことがない。
これはこれで、良い機会かもしれない。
「そのウソ、ホントにさせていただきます♪」
「あら、そう来たのね」
何となく調子も合わせてみる。
露草先輩も満更でもなさそうで、ちょっと安心した。
「そうね。それじゃ、朝生さんと一緒にお散歩しましょうか。ちょうど、朝生さんには重要な話があったことですし」
「えっ、そうなんですか?」
「ウ・ソ♪」
またもしてやられた。
露草先輩の場合、本当にありそうなことをお茶目なウソで返してくるから難しい。
それも、私に対しては私なりの、千里に対しては千里なりの、という、相手のレベルに合わせたウソを言ってくるあたりが策士だ。
「さて、とりあえずバスに乗って帰りましょうか」
「あ、はい」
「バスに乗っていくならお送りしましょうか?」
「大丈夫よ。朝生さんとのデートを邪魔しないでちょうだい♪」
「ふふ、了解しました」
笑顔の狩野姉妹に見送られ、私と露草先輩はバスに乗り、学校の方角へ戻ることとなった。
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