43話 樫木・ランバ・千里
「バルティナの歪み」が終わった後の私たちは、それはもう大変なことになっていた。
まず、まともに動ける人がいないこと。
辛うじて動けたのは京さんだけ。
それ以外は、指一本動かせなかった。
特に重傷なのは千里。
状態を見るや否や、京さんは病院の手配をした。
部活中に突然倒れた、というのは、なかなか面白い言い方だったけど、他に言いようもない。
足下がふらつく中、京さんは優しく介抱してくれた。
なお、私はというと。
「あと一歩で千ちゃんと一緒に病院送りだったね」
とのこと。
何とかその日も、霊柩車に乗せられて帰った私。
京さんと一緒に乗ってたから良かったけど、お母さんには、寿命を縮める思いを2回もさせて、申し訳ないと思っている。
次の日。
千里は、学校には来ていなかった。
放課後になり、退魔部の部室を見ても、やはり千里の姿は無い。
「やっぱり学校には来れなかったのね。相当衰弱してたみたい。やっぱり無理をさせすぎちゃったわね……」
「仕方ないだろう。あの聖剣エクスカリバーを具現化させたんだ。千里でなければ、死んでいたかもしれない」
「本当にね……」
先輩2人が、心配そうに話しをする。
狩野姉妹も、見つめ合い、俯いていると。
「こんにちはーです!」
いつもの声が響いた。
「なっ……千里?!」
「あら、樫木さん?」
「千ちゃんっ!」
「樫木……さん?」
「千里っ!」
それぞれがそれぞれの驚きを露わにし、私は嬉しさのあまり、千里に抱きついた。
私も小柄なほうなのに、その私よりも華奢で小さい身体。
強く抱きしめると壊れそうな身体を、優しく抱き留める。
「おかげで元気になれたですっ! 明日でもいいかとも思ったですが、パパが、まずは元気な姿を見せてこいって言ってくれたです。みなさん、ありがとうでした!」
私に抱きつかれたまま、小さくお辞儀をする。
「お礼を言うのは私たちのほうよ、樫木さん。本当にありがとう。あなたのおかげで、ユニコーンを倒せたわ」
「それについては、礼には及ばないでーす。あいつを倒すのは私の悲願でもあったです。そして、退魔部のみなさんの願いでもあったはずでーす。みんなの、大安ジョージでーす!」
「それを言うなら大願成就、でしょ」
「あ、それでしたー」
みんな、思わず笑いがこぼれる。
ひとしきり笑った後、京さんがおずおずと言う。
「あ、あのさ、千ちゃん。教会も家も燃えちゃって大変だろうからさ。何か困ったことがあったら、いつでも言ってよね」
「あ…………」
その言葉に、千里の目から涙がこぼれた。
驚きの反応に、珍しく京さんが大慌てでフォローに入る。
「あ、あ、ご、ごめんね! 泣かすつもりじゃ!」
「ううん、違うです。みんな、本当に優しいなって……」
涙を拭い、笑顔になる千里。
「実はね、京先輩。同じように言ってくれる人達が、いっぱいいたです。いつも教会に顔を出してくれる人達が、大変だねって、ご飯や、いらなくなったお洋服、お布団とかも分けてくれたです。それに、寄付までしてくれたです。教会を建て直す資金にしてくれって。それを思い出したらつい……」
「そうなんだ……」
千里の教会に来る人たちは、こんなにもいい人ばかりだった。
それはきっと、千里たちが、そういう人だからなのだろう。
カルマが汚れていないから……
というわけではないだろうけれど、やはり類は友を呼ぶものだ。
「私、今回お世話になった人達に報いるためにも、絶対にパパの教会を継ぐです。そして、もっともっと、素晴らしい教会にするでーす!」
「そうだね。きっと……きっと千里なら出来るよ!」
「一子、ありがとでーす!」
千里の、いつもの明るい声が部室に響く。
それを聞いて、みんながつられて笑顔になっていた。
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