42話 終わりからの始まり
「千里、後は任せたよっ!」
「えっ…………い、一子っ?!」
私が森川先輩の真似をしてから、ずっと狙っていた。
ずっと、剣がバリアを通せなかったわけじゃない。
そういう振りをしてきたんだ。
ただの真似事だと、そう油断させるために……
力を温存し、この瞬間に放つために!
「やぁぁぁぁぁぁああああっ!!」
力を込めろ。
このために、ずっと耐えてきた。
これが当たらなかったら、ユニコーンは倒せない。
力が足りなかったら、ユニコーンは倒せない。
剣に纏うのは眩い光。
いつも、見ていただけの力。
圧倒的に敵を倒す、絶対的とも言える力。
その力を、今……
私が顕現させるっ!
「まさか……まさか! ありえない!」
既にかなりの勢いをつけ、止まることが出来ないユニコーン。
それを見越して、私は剣を構え、そして放つ。
「唸れ……シングメシアァァァァアアアッ!!」
迫り来るユニコーン全てを巻き込む白く輝く波。
それが過ぎ去った後は、あれだけたくさんいたユニコーンは1体になっていた。
それだけじゃない。
あれほど堅固だったユニコーンのバリア。
それが無いことが、直感ながらに分かる。
あれだけ余裕だった表情はどこへ行ったのか。
憤怒、焦燥、そして何よりも大半が恐怖によって支配された顔をしている。
「ね、ねぇ。見逃してよ。そうだ、そうだよ。教会を建て直すにはお金がいるんでしょ? 僕なら、その願いは叶えられる。僕なら、それをカルマの代償無しにやってあげるよ。ねぇ、いいでしょ?」
「我に七難八苦を与えよ」
「……は?」
千里のつぶやきに、肩をびくつかせて反応する。
千里は、ユニコーンを見据えながら、言葉で圧していく。
「苦労ならいくらでもするです。それが、私の夢を叶えるための関門だと言うなら、甘んじて受け入れるです。お前に助けられないと叶えられない夢なら、私は捨てるです!」
剣を両手で構え、気合いを入れる千里。
すると、金色の光が剣を覆う。
シングメシアとは異なるも、その光は、さながら英雄の放つオーラに等しかった。
「や、やめろ……!」
「永い眠りにつくがいいです。そして食らうがいいです。ランバートの秘宝……」
剣を真上に構え、そして。
「聖剣…………エクスカリバーァァァアアアアアア!!!」
「うわあああああああああああああああああ!!」
剣に纏う光を一気に解き放つ。
それに飲み込まれたユニコーン。
その姿は、光が晴れたその中には、もうどこにも見えなくなっていた。
「あら。あの角、やられちゃったのね」
黄金色の光が放たれた後、のんびりとそんなことを言っているのは、ローレライ。
相対している森川先輩は、正に満身創痍。
剣先は下を向け、口惜しげにローレライを睨みつけている。
今までに見たことのない森川先輩の姿だった。
一方、ケルベロスを相手している露草先輩も、決して楽な状況とは言えない。
常に護方符を張り、七つの枝を持つ剣は持っていないことから、防戦一方であることが窺える。
どちらも共通して言えることは、ディアボロス側は余裕の表情であること。
無理もないことだ。
私たちは、実質4人でディアボロス、ユニコーンを倒すことに成功した。
先輩2人は、1人でディアボロスを相手にしている。
それだけでも、私たちには届かない領域に達しているのだ。
とても真似の出来ることじゃない。
そのディアボロスの片方、ケルベロスが、ローレライの方へ近づく。
「あの小童、新人たちの手に落ちたようだ。まぁ、調子に乗りすぎていたようだな。今更、哀惜の念など湧かぬ」
「あら、意見が一致したわね。私もよ、犬。これだからガキは好きじゃないのよね」
同類のことなどどうでもいいのか。
まるで関心など無いように言い放つ。
「そうだな。では、それは良しとしよう。さて、残りはどうする。戦意はありそうだが、いかんせん、既に疲労困憊。このような状況で戦うのは、あまり好かぬのだが」
「相変わらずお堅いのね。ま、犬がそう言うなら、ここは退散しましょ。次のことは、また次に考えるとするわ」
「そうか。では、機会があればまた会おう」
「そうね。バイバーイ」
2人揃って、ゲートと反対方向へ飛んでいく。
「ま、待てっ!」
私が叫ぼうとするも、愛さんに肩を掴まれる。
「見逃してくれたんだよ。悔しいけど……」
「…………」
口惜しい。
愛さんの言う通りであることは分かっていた。
だからこそ、余計に悔しかった。
「みんな疲弊しきってる。露草先輩も、森川先輩も、樫木さんも、朝生さんだって、戻ったらきっと大変なことになってる」
愛さんの声は震えている。
無念の感からか、言葉数も少ない。
「今回の朝生さんも、とってもすごかったよ。今回も、朝生さんのおかげで勝てたんだよ。でも、もう無理。今は退いて、次に、また頑張ろう」
「…………はい」
泣くような声で言われ、私は頷くしかなかった。




