表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たいまぶ!  作者: 司条 圭
第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録~
39/88

39話 覚醒

挿絵(By みてみん)

「さて、残ったのは君たちだけだね。本当は騎士姉ちゃんと戦いたかったけど……まぁ、年少者たるもの、年長者には順番を譲らないとね」


 笑顔で少しずつ距離を狭めてくるユニコーン。


 対して、私たちは、じりじりと後退するしかない。

 愛さんを前にして、京さん、私、千里の順番に並んでいる。


 ユニコーンが前に来ては、私たちの集団が後ろに下がる。

 それを6回ほど繰り返す。


「ちぇっ、やっぱり残りカスはつまんないや。逃げることしか出来ないんじゃないか。騎士姉ちゃんは、あんなにすごかったのになぁ」


 好き勝手言われようと、こればかりは耐えるしかない。

 

 ユニコーンの言っていることは事実だ。


 愛さんは守りの力だし、私と京さんは閉める力。

 唯一、千里が戦闘能力に秀でているけれど、ユニコーンと戦えるだけの技量は、恐らく無い。


 結論としては、逃げるのが最善の手段だ。


「あっ、そうだ! そこの金髪新人さん。謝っておかないとね。ごめんよ、お金はちょっと工面出来そうにないよ。だって、君らがゲート閉めちゃうんだもん。でも、今度は必ず用意しておくから、もう少し待っててね!」


「勝手に言ってるがいいです」


「強がりは言わないほうがいいって。楽になりなよ。お金があれば、君の大事な教会は建て直せるんだ。建物も綺麗になるし、言うこと無いじゃない?」


「黙るといいです!」


 いつの間にか、剣を右手に突撃する。


 ユニコーンに斬りかかるも、剣は届かない。

 張られたバリアによって、数10センチ離れた場所で静止している。

 そうなることが分かっているかのように、ユニコーンは避ける動作もすることなく、直立したままでいた。


「騎士姉ちゃんよりも随分劣化してるね。バリアなんてかすり傷もついてないよ。見よう見まね?」


「……黙るです」


「あはは! 図星かな? やっぱり君の姿は、あの騎士姉ちゃんを模倣しただけなんだ!」


 ケラケラと笑うユニコーン。


 悔しさに肩を震わせ、剣に力を込める千里。

 しかし、無情にも、剣は一切ユニコーンに斬り込めていなかった。


「残念だけど、君には騎士姉ちゃんの真似なんて到底出来やしないよ! 君には力が足りなすぎる。そんな力じゃ、僕には絶対に勝てない!」


「黙るです! 黙るです!」


 涙を浮かべてバリアを叩く。


 そう、きっと千里が一番分かっている。

 この程度では、ユニコーンを倒せない。

 

 森川先輩を、無様に模しただけでは勝てない。


 握っている剣は、シングメシアに似ているようで、全くの偽物。

 誰から見ても、イミテーションにもなっていない。


 悔しさと。

 情けなさと。


 そして己の無力さを思うが故の涙。


 バリアを叩くのは、駄々っ子のように、いたずらにぶつけているに過ぎない。


 一生懸命やっているのに。

 負けないように、頑張っているのに。

 負けられない戦いだと分かっているのに。


 力が及ばない。


 その思いが、今の千里の頬を伝う涙となっている。




 気づけば私も泣いていた。


 己の無力さもそうだけど。

 それ以上に、友達がこれほど貶されているのに、何も出来ない自分が嫌だった。


 何か声を掛けられればいいのに。

 せめて、ユニコーンの言葉を否定してやれればいいのに。


 何も言い返せない自分がいる。


 友達に、何も返せない自分が、とても卑しい存在に思えた。


 千里は、こんな短い間に、私にたくさんのものを与えてくれた。

 それなのに、いざお返ししようと思っても、その力が無い。


 それがとても悔しくて。

 ただひたすらに口惜しく。


 ただただ、自然に涙が溢れていた。


「あはは、滑稽滑稽! 楽しくて仕方ないよ。どれだけやっても、無駄は無駄。所詮、君はその程度なんだよっ!」


 ついにユニコーンが攻勢に出る。

 一瞬の隙を突いて、千里の持つ剣を頭の角で弾き飛ばしたかと思うと、即座に千里の胸を狙う。


「今度こそ、さようなら、新人さん! お父さんには、しっかりお金を残してあげるから安心してよ。君の命でね!」


 このままでは、本当に千里が死んでしまう。


 結局、何も出来ないのだろうか。


 諦める?


 嫌だ。

 そんなことは絶対にしたくない。


 友達を…………

 千里を見殺しになんてしたくない。


 それなら、力を得よう。


 どんな力?


 何でもいい。


 一番、イメージしやすい力を。


 今、私の中で最も「強い」というイメージ。


 イメージ。


 イメージ。

 イメージ。


 イメージ……

 イメージ…………


 イメージ!







「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 剣を握りしめ、吶喊する。


 まず狙うのは角だ。


 千里を狙う、邪な角。

 軽く払って、千里を助けないといけない。


「何っ!?」


 余裕の表情を浮かべていたユニコーンが、驚きの声を上げ、思わず飛び退き、距離を取った。

 おかげで剣は空振りになったけど、結果として千里を助けられたんだから、良しとするべきだ。


「い、一子……?」


「え、えっと……いっちゃん、なの?」


「……朝生さん?」


 驚愕するあまり、声が出ない3人。


 それは、無理からぬこと。

 私の容姿は、一変していた。


 部分鎧という、胸から胴、肩しか無い鎧。

 手には、肘あたりまでを守る大きな小手。

 細い金属を編み込んだ、長いスカート。


 そして、銀髪。


 ただ、少しだけ自分らしさを出すために、髪はショートにしているのはご愛敬。


 私は今、森川先輩に成りきっている。


「千里……ユニコーンを倒そう。一生懸命を笑い、貶し、落としめ、嘲罵して、笑い者にする奴を……私は許せない!」


「で、でも一子。やっぱり私には、力が足りないです……」


「それを言うなら私だってそうだよ」


「一子……」


 千里の瞳を覗く。


 そこに、自信は見えなかった。

 ユニコーンに貶められ、普段は輝いている千里の瞳から光が消えていた。


 私は、千里の肩に手を置いて、ゆっくり語りかける。


「大丈夫、私たちならやれる。それに、私はまだ、森川先輩の真似しか出来ないけど、千里なら、もっと自分らしく戦えると思うよ」


「私らしく……?」


「うん。森川先輩の真似じゃなく……千里は、もっと千里らしく。その方が、きっと、もっと強くなれる気がする」


 剣を握りしめる手に力が籠もる。


 見据える先は、ヘラヘラと笑うユニコーン。


「あははっ! みんな、真似っこが好きだね。でも、本物の騎士姉ちゃんならまだしも、偽物相手に、僕は負けないよ!」


 突撃してくるユニコーン。

 そして、角の攻撃が繰り出された。

 こうして対峙すると、本当に信じられないスピードで角を突き出してくる。


 だが、それを軽く剣でいなす。


「へぇ、すごいね。太刀筋まで似てるよ。本当に、君はどこまで自分を持たずに、人真似ばかりしてるんだい?」


「そんなことに恥を知ることは無いわ。事実、その猿真似に追い込まれてるのは、あなたよ、ユニコーン」


「あはは! そんなこと言われるのは心外だなぁ。僕は、ほんの少しも追い込まれてなんていないよ!」


 その言葉を体現するように、まるでマシンガンのごとく、繰り出される突き。


 がむしゃらに放たれているように見えるそれは、一発一発の速度、重さ、共に次第に増している。


 攻撃を捌いている剣には、その力が伝わっていた。


 まるで、私の力量を試している……

 いや、遊んでいるようだった。


 それでも、繰り出される突きは、気を抜けば、それこそ一瞬の内に私の心臓を貫くだろう。


 正直に言えば、さっきの私の言葉ははったりだ。

 ユニコーンの言うとおり、追い込んでなどいない。むしろ私が追い込まれているのが笑えない。


 私では適わない。

 それは重々承知だ。


 だからこそ。


「もらったでーす!」


 油断しているユニコーンにクリーンヒットするのは、千里の剣。

 ただ、当たったのは、ユニコーンのバリアだった。


「ダメダメ、君じゃ力が足りないって言ったじゃない。それこそ、そこの偽騎士姉ちゃんよりもダメダメだよ!」


「う……」


「千里はダメじゃないっ!」


 意気消沈する千里を、励ますように剣を切りつける私。

 かく言う私の攻撃も、バリアに阻まれていた。

 それでも、何度となく叩きつける。

 同じ結果が続いても、攻撃の手を休めたりしない。


「もっと……もっと自分を信じてっ!」


「一子……」


「千里の……ううん、私たちの中には、もっと無限の可能性が眠ってる! そして、それは、自分を信じてあげないと、決して発現しないものなの! お願い千里……自分を信じて!」


「私を……信じる」


 刻みつけるように、ゆっくりと口にする千里。


 その千里に変化が表れる。


「私は、樫木・ランバ・千里。私は、大好きな教会の跡を継ぐのです。パパの時みたいに……ううん、それ以上に素敵な教会にするです。こんなところでへこたれてなんていられないです!」


 千里が手に持っている剣。


 それが、シングメシアではなくなっていた。


 見たことのない剣。

 でも、その剣の形状。

 刃の美しさ。

 そして、光の輝きは、とても神々しい。


「ありがとう、一子。私、やるですよ。だからお願いです、一子。力を貸してくださいでーす!」


「うんっ! 行こう、千里!」


 手を取り、一緒に立ち向かう。


 目の前にいる脅威を倒すために。

ここまでお読みいただき、ありがとうございますっ!


感想・評価いただけると励みになります。

是非よろしくお願い致しますっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ