38話 対峙……ディアボロス
最初の作戦は、脆くも崩れ去ることになる。
ユニコーンを目指して跳躍した森川先輩が、ローレライに捕まっていた。
「厘ちゃんが一番強そうね。ねぇ、ちょっと遊んでよ」
「くっ……!」
斬りつける剣を、特に動作も無く受けるローレライ。
鋭く繰り出されたシングメシアの斬撃は、球体のバリアによって、完全に弾かれていた。
ユニコーンのそれと同じと思われるが、その強度は比較にならないのかもしれない。
「あらら、この程度? つまんない」
「言わせておけば……!」
そう口にしても、シングメシアを撃つ気配は無い。
しかし、例えシングメシアでなくても、あのティターンを限界まで削った、凄まじい斬撃が繰り出される。
そんな剣を、涼しい顔で見つめるローレライ。
「出し惜しみは辞めようよ。遊ぶなら全力で。そうじゃないと、何事も楽しくないよ」
「遊び、か……貴様にとってはそうなのだろうなっ!」
僅かに帯びる剣の光。
それが纏い始めた途端、ローレライのバリアが少しずつ削がれていることを物語るように、剣が弾かれるということが無くなった。
併せて、ローレライも身動き一つしなかったのに、僅かに回避の行動を見せている。
「なるほどなるほど、前に戦った時よりも強くなってるかな? あの時は、バリアすら削れなかったもんね…………よかった」
両手を前に出し、その掌から、ロープのようなものが伸びる。
それは、薔薇の枝。
ただ、その太さと棘の大きさは、私の知る薔薇のそれとは全く異なるもの。
そんな棘の鞭と言える凶器を、縦横無尽に振り回し始めた。
「本っ気で遊べるね♪」
「…………っ!」
森川先輩の攻撃は、バリアを削るに留まっている。
それに対し、ローレライの攻撃は、バリアの中から森川先輩に襲いかかっている。
四方八方から襲う攻撃を前に、森川先輩は出来うる限りの抵抗をするものの、全てを捌くことは出来ず、攻撃はいくつも当たっていた。
最終的には、距離を取ることで回避せざるを得なくなっている。
「うーん、まだまだ隠し玉があるくせに、出し渋ってるね。それとも、もっと追い込まないと、本気なんて出してくれないかな?」
森川先輩は沈黙で返す。
黙って対峙する2人の間には、温度差のある見えない火花が散っていた。
「そこの巫女、遊んでやるぞ」
「あなたと遊んでる暇なんて無いのよ。退きなさいっ!」
空を飛び、ローレライを狙ったはずが、目の前には一瞬のうちにケルベロスが立ちはだかる。
2人は、かなり近い間合いで構えたまま、睨み合っていた。
「退いてと言ってるのが分からないのかしら?」
「俺は聞く耳など持たぬ」
「ワンコのくせに耳が悪いなんてお気の毒ね。犬の聴覚は、人間の4倍から10倍って聞いたんだけど」
「生憎と、俺は聞き分ける能力が高いのだ。聞こえてないわけではないぞ」
そんな会話の最中、突然右手を翳すと稲妻が走る。
その電撃を、3枚の御札を用いて相殺した。
「なかなかやるな、巫女」
「いつまでもディアボロスと腐れ縁でいるわけにはいかないものですから」
「それは宿縁というものだ。切り離すには、どちらかが死ぬまで終わらぬな」
「じゃあ、さっさと死んでちょうだいっ!」
七支刀を取り出すと、ケルベロスに切りつける。
それを瞬間移動のように消えて避けると、露草先輩の真後ろに現れる。
背中に向ける右手には雷を纏わせている。
「もう少し面白い切り返しが欲しいな、守護する者よ」
雷は、放たれれば一瞬。
それに反応出来る者などいない。
防げるとすれば。
「護方符!」
既に、そうなることを予測している場合のみ。
露草先輩は、四角錘型のバリアを展開させ、稲妻を弾いていた。
「ほう……面白い。面白いぞ。早露……いや、露草の巫女」
「本家に適うのは、幽体離脱した時だけですけどね」
犬の顔ながら、邪悪な笑みを浮かべる。
それに対し、露草先輩も余裕の無い笑顔を向けた。
「では、巫女よ。今しばらく、この俺を楽しませよ。どの程度持つかは貴様次第だがな」
「引導を渡してあげるわよ、口の達者なワンコちゃん」
吐き捨てるように言うと、七支刀を構えて吶喊していった。




