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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録~
36/88

36話 最悪の危機は……

挿絵(By みてみん)

「えっ!?」


 私と京さんの力で、閉まりかけていた巨大な扉。


 そこから、一直線に走る稲妻を見た。

 稲妻は、一瞬のうちにどこか果てへと消えていったが、露草先輩の護方結界を容易く貫いていた。


 穴を穿った場所からは、電光石火のごとく飛び出してくる何か。

 それは、ユニコーンの頭上50メートルくらいの位置で止まった。


「あははっ! 僕がティターンみたいな考え無しだと思った? 残念だけど、キーパーの願いを持てた、この千載一遇のチャンス。確実にモノにしたいんだよね。最初に援軍を呼んだ甲斐があったってものだよ!」


 現れたのは、頭が犬になった小柄な人間。

 いや、体毛が濃く、パッと見ると、むしろ二足歩行になった犬のようだ。

 だが、その赤く光る眼光は鋭く、身体の周囲には常に小さな雷が走っている。


 ケルベロス。


 雷を自在に操り、凄まじい機動力を持つという、ディアボロス。

 その姿は、死神アヌビスを彷彿させた。


「呼んだのは貴様か、小童」


「そんな怖い顔しないでよ、ケルベロス」


「その名で呼ぶな。人間に付けられた名前など、反吐が出る」


「だったら何て呼べばいいのさ。僕らに名前なんて無いのにさ」


 随分と遠い場所でのやりとり。


 それを睨みつけるのは、森川先輩。

 その表情は、至って冷静とは言い難い。


「まぁいいや。ケルベロス、手伝ってよ。僕1人じゃちょっと厳しそうなんだよね」


「少し待て。まだ来るぞ」



 まだ来る……?


 その言葉を聞いて、背筋が凍る。


 たった1体のディアボロスでもこれだけ苦戦している。

 

 それなのに、ディアボロスが3体も?


 それに、最後に残ってるディアボロスは……!


「いっちゃん、この状況でペースなんて気にしてられないっ! 一気に閉めるよ!」


「は、はいっ!」


 京さんの声に、冷静になれた。


 そうだ。

 出てくる前に閉めてしまえばいい。

 扉はあと少し。


 一気に閉めてしまえば、最強と言われる最後のディアボロスは出てこれない。

 ユニコーンの野望も潰える。すべてが解決する道だ。


「いくぜいっちゃんっ! ひたすら押せぇぇぇっ!」


「はいぃぃぃっ!」


 呼吸なんて、今はしていない。

 疲れる身体も無い。

 ただ一心不乱に、力を入れて押し続ける。


 その成果は、充分だった。

 2人の力で、扉はみるみるうちに閉じられていく。

 この調子ならば、少なくともユニコーンはゲートを通過することは出来ない。


「ケルベロス、あそこの閉める役を倒してよ!」


「指図は受けん。だが、協力はしよう」


 ユニコーンは、ゲートの方へ飛ぶ。

 そのユニコーンを、森川先輩が行く手を阻む。


 一方のケルベロスは。


「ひっ……」


 いつの間にか、私たちの目の前にいた。

 じっとこちらを凝視し、観察しているようだ。


「いっちゃん、今は扉に集中!」


「は、はい……!」


 返事はしたものの、集中なんて出来やしない。


 鋭い視線。

 鬼気迫る圧迫感。


 何より身体に纏う雷の気配。


 そんなものを肌で感じ、それこそ生命の危機を覚えるこの状況で、集中しろなんていうのは、無理難題もいいところだ。


 雑念混じりに、扉とケルベロスを交互に視線を通わせていると、ケルベロスに異変が起きる。


 おもむろに伸ばす右手。

 全身を細かに走っていた雷が、たちまち右手に集中する。


「愛ちゃんっ!」


「任せてっ!」


 いち早く危機を察知した京さん。

 それに一瞬の間も空けることなく反応する愛さん。

 後ろにいたはずの愛さんが、唐突に前に出ると、両手をケルベロスの方へ向ける。



 刹那。



 光、音の順番に襲い来る稲妻。

 思わず目を閉じるも、耳を塞ぐ手は扉に集中させた。


 鼓膜が破れそうな痛みを感じることは無い。

 それは、身体に戻った後で来ることを、今更ながらに思い出した。


「いっちゃん、いいよっ! あとちょっとだっ!」


 京さんも耳を塞がなかったようで、扉を閉め続けている。


 愛さんは、手を前に出したまま動かない。

 ただ、大丈夫であることを物語るように、こっちに少しばかり振り向いて笑顔を見せてくれた。


「ほう、出来るようになったな、小娘」


「…………」


 挑発じみた言葉に、愛さんは沈黙で応える。


 含み笑いを浮かべると、稲妻を再び叩き込む。

 再び襲い来る光と、響く雷鳴。


 それを、愛さんは両手の平で受け止めていた。


 3発目。


 4発目。


 ほとばしる稲妻を、愛さんは受け続ける。

 眉をしかめ、手を震わせつつも、私たちを守り続けていた。





 もう少しです。


 もう少しで、ゲートが閉まります。


 だからお願いです。


 もうちょっとだけ、みんな頑張って……!



「最後だ、押し込めぇぇぇぇええええ!!」


「やぁぁぁぁあああああ!!」


 真っ黒な悪魔たちが吹き出しているその扉。

 その扉に出来ていた、残されていたわずかな隙間。


 それが、今、大きな音を立てて閉ざされた。

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