35話 森川先輩の逆襲劇
「キィィィィォォォォォォォ!!」
子供独特の奇声……のような不協和音。
耳をつんざく音量は、よもやまともに立っていられないほどだった。
思わず全員が耳を塞ぎ、手を止める。
耳を覆っていても、頭の中へ直接入り込んでくるかのように響き渡る奇声。
ようやく精神を蝕む声が終わり、ホッとしているのも束の間。
気づけば、目の前に、無邪気な角を生やした少年がいるのを見て、顔が青ざめる。
「さて、通してもらいにきたよ、お姉ちゃんたち!」
私たちを一瞥すると、そのままゲートを目指していく。
ターゲットになっていないことにちょっとだけ安堵を覚え、思わず気が抜ける。
「何してんの、いっちゃんっ! 早く閉めるよ!」
「あ、は、はいっ!」
京さんの喝で、ようやく自分のやるべきことを思い出す。
掛け声に合わせて、閉門に力を注ぐ。
「あははっ! 開いてる時間はやっぱり短くなったね! でも、僕には、そんなに時間はいらないよ。あっという間に通り抜けてあげるっ!」
「残念だが、そうは行かないな」
颯爽と走るユニコーンの前に、剣を向けて立ちはだかるのは森川先輩。
ユニコーンも、森川先輩の姿を見るや、苦い顔をする。
「ちぇーっ。確かに、騎士姉ちゃんがいたら簡単には行かないかなー」
「逆に言えば、私さえ何とかすれば余裕で通れるか?」
「そうだねー。まぁ、他のお姉ちゃんたちは敵じゃないかな?」
「ならば、雌雄を決する時が来たと思わないか? 私は、貴様に一騎打ちを申し込む。勝利する自信があるなら受けるが良い」
「ふーん。まあ、いいよ。僕が負けるわけないしね! 前みたいに、痛い思いをさせてあげるよ!」
「抜かせ。前の私とは違うぞ!」
言い終えると同時に、激しい剣戟が始まる。
森川先輩は、シングメシアで。
ユニコーンは、己の頭から生える角で。
それぞれの武器を用いて戦っている。
森川先輩の猛烈な攻撃を、頭を振り回して戦う様を見ていると、こっちが気持ち悪くなってくる。
「へぇ、確かにすごいね。昔の騎士姉ちゃんとは違うや」
「そうだ。私とて、お前を倒すために修練を積んできたんだ。そして、今立ち会って分かった。今のお前なら、私の剣だけで倒せる!」
「手を抜いてあげてることくらい、察して欲しいな」
「それはこちらの台詞だ。行くぞっ!」
巨大な剣を片手で構える。
右手をフリーにし、左手に持つ剣は自然体に構え、ユニコーンに向ける。
「そんな大きな剣、片手で振り回してもいいことなんて無いよ」
「お前にそんな心配をされる筋合いなど無い。いいからかかってこい」
「あっ、そう。親切で言ったつもりなんだけどね。それじゃ、遠慮なく」
一瞬。
ユニコーンが駆ける。
予備動作は一切無く、弾丸のごとく森川先輩に直進する。
角は、森川先輩の胸を狙っていた。
殺意の塊である一角。
壮絶な勢いで迫るユニコーンを、森川先輩は身動き一つせずに待ち受ける。
まさか、見えてない……?
過ぎった不安。
それを物語るように、視線はユニコーンを見ていなかった。
「あははっ! 見えてないのかなー? 死んじゃうよ、騎士姉ちゃん!」
衝撃音が響く。
私は、思わず目を反らすも、視線はすぐにも森川先輩へ戻した。
「……あれれ?」
ユニコーンの困惑。
それは無理もないことだった。
目の前にいるはずの森川先輩。
それが、霧のように消えたのだから。
「手応えは無かった……どこに消えたかな?」
キョロキョロと辺りを見回す。
それでも、周囲には森川先輩の姿はない。
「まぁいっか。じゃあ、さっさと行こうっと!」
ユニコーンが駆け出そうしたその時。
「残念ながら、通さないぞ」
突然、煙のように現れ、ユニコーンの目の前に立ちはだかる。
そして。
「ソードダンス・プレティシモ!」
縦横無尽に剣を切りつける。
いや、切りつけていたみたいだった。
剣の軌跡など、私には見えない。
この場にいる、森川先輩を除く全員が、あの巨大な剣を視認出来ていなかった。
見えたときには、先の自然体の構えに戻ったとき。
まさに一瞬の出来事。
全ての斬撃は、おそらくはユニコーンを切り刻んでいた。
「ま、まさか……」
声は驚愕を表し、身体は損傷を物語るように膝を折る。
重力に逆らうことなく、膝が地に着く。
「……なーんてね!」
直前。
跳躍し、森川先輩から距離を取るユニコーン。
安堵の表情が多少なり見えていたものの、その顔には、やはり余裕の色合いが強い。
「いやー、びっくりした。さすがに今のは、見てからじゃ避けられないね」
顎に手を当てて、何やら頷きながら独り言のように呟く。
「どうやら、一時的に力とスピードを上げて攻撃してくるみたいだね。だから、姿すら隠せた。確かにすごい技だよ。でも、僕のバリアを舐めないで欲しいな。君らの直接攻撃くらいなら防げるんだからさ」
「ならば掛かってこい。その余裕、すぐにでも消し去ってやる」
「それが簡単に出来れば、苦労は無いかなー。悔しいけど、少しは認めてあげるよ、騎士姉ちゃん。君は確かに強いや。でも、僕の守りを突破出来るだけの力は、残念だけど無いね。精々、時間稼ぎがいいところ!」
「ならば、それだけでも充分だ。貴様は、ゲートを通れまい」
「そうだね。僕だけじゃ、無理かもしれない」
「…………っ!?」
その瞬間、森川先輩が叫んだ。
「五十鈴、すぐにそこから離れろぉ!!」
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