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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録~
33/88

33話 ブリーフィング

挿絵(By みてみん)

 全員が英気を養い、ついにその日を迎える。

 千里は、家が焼けてから3日目に学校へ通い始めた。

 退魔部にも顔を出している。


 そんな中で、言われていたことがある。


「樫儀さん。悪いんだけど、あなたの奥の手に頼らざるを得ないの。ぶっつけ本番になるけど、大丈夫そう?」


「自信は無いです。でも、やらないといけないことも分かってます。大丈夫、なんて無責任なことは言えないけど、自分にやれることを精一杯やるです!」


「その成功率なんだが、自分ではどう思う?」


「うーん……」


 腕組みをし、考える千里。


「実は、実際に見たことが無いです。だから、イメージはとっても漠然としてるです」


「そうなのか……それは難しいな」


 苦い顔をしたのは森川先輩。

 それに露草先輩も続く。


「私は一度だけ、早露本家の草薙を見たことがあるから、まだ救いだけど……それはまた随分と難題をふっかけることになっちゃったわね」


「本家、ランバートのセシルさんは、教会を離れてしまってるという噂もあるです。だから、ご本人と会ったことも無いです」


「そうなのね……知らなかった。ちょっとした、っていうか結構なお家騒動ね」


「ですです。とにかく、知ってる限りのイメージで作り出します」


「分かった。それは頭に入れておこう。千里、無茶だけはするなよ」


「分かったでーす」



 そんなやりとりがあった一方で、千里がいないときには、こんなことも囁かれていた。


「厘さん。樫儀さんが、お金のために私たちを裏切る、なんていうことも起こり得るんじゃないかしら」


「何を馬鹿な。千里はキーパーになったんだ。俗世の欲に駆られ、自らの使命を忘れるなど、あり得ない」


「厘さんはそうでしょう。でも、それが全ての他人に当てはまるとは限らないわ」


「万に一つもあるものか。私は千里を信頼している」


「信頼してないわけじゃないわ。でも、事が事なだけにね」


「……まぁ、一つの可能性としてだけ、受け取っておこう」


「えぇ、私は、幾重もある未来の一つを示唆したに過ぎないわ」


 物騒とも言えるし、何より私は少しばかり怒りすら覚えるような内容。

 でも、2人の口振りからするに、千里を信頼しているように思えた。



 そうして迎えた当日。


 千里の顔に、緊張した様子は見られない。

 その顔色を伺うかのように、露草先輩は千里の顔をチラチラ見ているが、千里はそれに気づいている様子は無さそうだった。


「さて、決戦の時が近づいてきたわ。ユニコーンは強敵だけど、みんなの力を合わせれば、きっと勝利を掴めると信じているわよ。作戦の最終確認をするわね」


 ホワイトボードにさらっと書いていく露草先輩。


 右端に門。

 その左に露、距離をおいて森、樫、少し離して狩2朝と書く。


「今回ほど、速さというものが求められた「バルティナの歪み」は無いわね。全てがスピード勝負よ。まず、門を閉める速さ。京さんと朝生さんのコンビ結成、初の閉門作業だけど、心の準備はいいかしら?」


「お父様、お母様、私はいっちゃんと最初の共同作業を行います」


「京さんは余裕綽々のようね」


 両指を絡め、目をウルウルさせている京さん

 お題目は披露宴の新婦。

 さながらベテラン女優の迫真の演技。

 それを華麗にスルーする露草先輩。

 スルーされる側も手慣れたもので、動じることなく、輝かせた目で宙を見続けている。


「朝生さんはどう?」


「と、とにかく、練習の成果を発揮したいと思います」


「うむうむ、よろしいよろしい」


 私の頭を軽くポンポンと叩く。

 適度な緊張感を持っていて良いということなのだろうか。


「さて、攻撃陣の作戦よ。こっちも、とにかく素早さと、そしてタイミング。まず、迎撃戦だから、というわけじゃないけれど、普通の悪魔たちの殲滅を考えない。一番手前に張る、私の護方結界だけで対応することになるわ。これだけだと、結構な数の悪魔が通ってしまうけど、今回は素通りさせて、次の殲滅戦で考えることにします。歯痒いかもしれないけど、厘さんと樫儀さんは、護方結界を通り過ぎた悪魔を通過させる。その際は、願いを持ち帰りされないように気をつけて。とてもじゃないけど、戻ろうとする悪魔を倒す余裕は、私には無さそうだから」


「了解でーす」


「分かった」


「はい、良い返事です。そしてこれからが本番。ユニコーンが出てきたら、まずは厘さんが対峙してもらうわ。もちろん、状況次第では、すぐにでもシングメシアを撃って貰っていいんだけれど」


「そこらへんの呼吸は、千里と合わせることにする」


 森川先輩と千里が、黙って目を合わせ、互いに頷き合った。


「じゃあ、そこはお願いね。ユニコーンは、全力のシングメシアを当てることで、張っているバリアが一時的に解かれる。そうしたら、次は樫儀さんよ。それで済めばそれで良し。もし、樫儀さんがダメそうなら、私が草薙を撃つ。厘さんは、2発目のシングメシアは絶対に撃たないように。下手すれば死んでしまうわ」


「そうならないようにしたいものだな」


「そうしてちょうだいね。死者は出したくないわよ」


「努力しよう」


 不穏な話しだけれど、これは決して誇張ではないことを物語るように、2人は真面目な口調で話している。

 思わず背筋に寒気が走る。


「あと、ゲートが閉まると、ユニコーンは当然撤退するでしょうから、そこらへんもタイミング。出来れば逃がしたくはないわね。攻撃陣は大変だけど、頑張りましょう」


 露草先輩が話す中、いつもなら元気なはずの千里が、緊張した面もちでいる。

 その様子をいの一番に悟った露草先輩。


「樫儀さん、そんなに緊張する必要は無いわよ。何たって、ユニコーンを最終的に倒すのは朝生さんですからね」


「えっ、そうなんですかっ?!」


「ウ・ソ♪」


 途端に崩れる千里の顔。

 それを見て、満足げに笑う。


「いい顔してるわね。まぁ、任せておきなさい。あなただけに責任を押しつける気は無いわ。責任はきっちり私が取る。だから、樫儀さんは、樫儀さんに出来ることを精一杯やってもらえればいいのよ」


「あ、は、はいっ! がんばるでーす!」


 露草先輩が去った後には、千里の、いつも通りの笑顔が戻っていた。

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