33話 ブリーフィング
全員が英気を養い、ついにその日を迎える。
千里は、家が焼けてから3日目に学校へ通い始めた。
退魔部にも顔を出している。
そんな中で、言われていたことがある。
「樫儀さん。悪いんだけど、あなたの奥の手に頼らざるを得ないの。ぶっつけ本番になるけど、大丈夫そう?」
「自信は無いです。でも、やらないといけないことも分かってます。大丈夫、なんて無責任なことは言えないけど、自分にやれることを精一杯やるです!」
「その成功率なんだが、自分ではどう思う?」
「うーん……」
腕組みをし、考える千里。
「実は、実際に見たことが無いです。だから、イメージはとっても漠然としてるです」
「そうなのか……それは難しいな」
苦い顔をしたのは森川先輩。
それに露草先輩も続く。
「私は一度だけ、早露本家の草薙を見たことがあるから、まだ救いだけど……それはまた随分と難題をふっかけることになっちゃったわね」
「本家、ランバートのセシルさんは、教会を離れてしまってるという噂もあるです。だから、ご本人と会ったことも無いです」
「そうなのね……知らなかった。ちょっとした、っていうか結構なお家騒動ね」
「ですです。とにかく、知ってる限りのイメージで作り出します」
「分かった。それは頭に入れておこう。千里、無茶だけはするなよ」
「分かったでーす」
そんなやりとりがあった一方で、千里がいないときには、こんなことも囁かれていた。
「厘さん。樫儀さんが、お金のために私たちを裏切る、なんていうことも起こり得るんじゃないかしら」
「何を馬鹿な。千里はキーパーになったんだ。俗世の欲に駆られ、自らの使命を忘れるなど、あり得ない」
「厘さんはそうでしょう。でも、それが全ての他人に当てはまるとは限らないわ」
「万に一つもあるものか。私は千里を信頼している」
「信頼してないわけじゃないわ。でも、事が事なだけにね」
「……まぁ、一つの可能性としてだけ、受け取っておこう」
「えぇ、私は、幾重もある未来の一つを示唆したに過ぎないわ」
物騒とも言えるし、何より私は少しばかり怒りすら覚えるような内容。
でも、2人の口振りからするに、千里を信頼しているように思えた。
そうして迎えた当日。
千里の顔に、緊張した様子は見られない。
その顔色を伺うかのように、露草先輩は千里の顔をチラチラ見ているが、千里はそれに気づいている様子は無さそうだった。
「さて、決戦の時が近づいてきたわ。ユニコーンは強敵だけど、みんなの力を合わせれば、きっと勝利を掴めると信じているわよ。作戦の最終確認をするわね」
ホワイトボードにさらっと書いていく露草先輩。
右端に門。
その左に露、距離をおいて森、樫、少し離して狩2朝と書く。
「今回ほど、速さというものが求められた「バルティナの歪み」は無いわね。全てがスピード勝負よ。まず、門を閉める速さ。京さんと朝生さんのコンビ結成、初の閉門作業だけど、心の準備はいいかしら?」
「お父様、お母様、私はいっちゃんと最初の共同作業を行います」
「京さんは余裕綽々のようね」
両指を絡め、目をウルウルさせている京さん
お題目は披露宴の新婦。
さながらベテラン女優の迫真の演技。
それを華麗にスルーする露草先輩。
スルーされる側も手慣れたもので、動じることなく、輝かせた目で宙を見続けている。
「朝生さんはどう?」
「と、とにかく、練習の成果を発揮したいと思います」
「うむうむ、よろしいよろしい」
私の頭を軽くポンポンと叩く。
適度な緊張感を持っていて良いということなのだろうか。
「さて、攻撃陣の作戦よ。こっちも、とにかく素早さと、そしてタイミング。まず、迎撃戦だから、というわけじゃないけれど、普通の悪魔たちの殲滅を考えない。一番手前に張る、私の護方結界だけで対応することになるわ。これだけだと、結構な数の悪魔が通ってしまうけど、今回は素通りさせて、次の殲滅戦で考えることにします。歯痒いかもしれないけど、厘さんと樫儀さんは、護方結界を通り過ぎた悪魔を通過させる。その際は、願いを持ち帰りされないように気をつけて。とてもじゃないけど、戻ろうとする悪魔を倒す余裕は、私には無さそうだから」
「了解でーす」
「分かった」
「はい、良い返事です。そしてこれからが本番。ユニコーンが出てきたら、まずは厘さんが対峙してもらうわ。もちろん、状況次第では、すぐにでもシングメシアを撃って貰っていいんだけれど」
「そこらへんの呼吸は、千里と合わせることにする」
森川先輩と千里が、黙って目を合わせ、互いに頷き合った。
「じゃあ、そこはお願いね。ユニコーンは、全力のシングメシアを当てることで、張っているバリアが一時的に解かれる。そうしたら、次は樫儀さんよ。それで済めばそれで良し。もし、樫儀さんがダメそうなら、私が草薙を撃つ。厘さんは、2発目のシングメシアは絶対に撃たないように。下手すれば死んでしまうわ」
「そうならないようにしたいものだな」
「そうしてちょうだいね。死者は出したくないわよ」
「努力しよう」
不穏な話しだけれど、これは決して誇張ではないことを物語るように、2人は真面目な口調で話している。
思わず背筋に寒気が走る。
「あと、ゲートが閉まると、ユニコーンは当然撤退するでしょうから、そこらへんもタイミング。出来れば逃がしたくはないわね。攻撃陣は大変だけど、頑張りましょう」
露草先輩が話す中、いつもなら元気なはずの千里が、緊張した面もちでいる。
その様子をいの一番に悟った露草先輩。
「樫儀さん、そんなに緊張する必要は無いわよ。何たって、ユニコーンを最終的に倒すのは朝生さんですからね」
「えっ、そうなんですかっ?!」
「ウ・ソ♪」
途端に崩れる千里の顔。
それを見て、満足げに笑う。
「いい顔してるわね。まぁ、任せておきなさい。あなただけに責任を押しつける気は無いわ。責任はきっちり私が取る。だから、樫儀さんは、樫儀さんに出来ることを精一杯やってもらえればいいのよ」
「あ、は、はいっ! がんばるでーす!」
露草先輩が去った後には、千里の、いつも通りの笑顔が戻っていた。
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