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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録~
27/88

27話 先輩たちの冷戦

挿絵(By みてみん)

「あらあら、いい顔してるわね」


「はへ?」


 惚けた顔をしながら声を掛けられた方を向くと。


「朝生さんに樫儀さんまでいるなんて思わなかった。その顔は、かなり満足してる顔ね」


「露草先輩に森川先輩じゃないですかー」


「はぁい、露草先輩よ」


「…………」


 ご機嫌な露草先輩に、何だかばつが悪そうに……

 というか、少し顔を赤らめている森川先輩。

 赤らめている理由は、次の樫儀さんの言葉で判明する。


「先輩たちは、よくここに来るですかー?」


「私は付き添いよ。好きなのは厘さん」


「ばっ……それを言うなと」


「森川先輩、甘いもの好きなんですねー。って、また露草先輩のウ・ソ♪が始まるんじゃ」


 般若のような顔をする樫儀さん。

 それを見て、笑いながら露草先輩。


「残念だけど、ホ・ン・ト♪」


「そうですかー」


「……それをバラすなと」


 深いため息をつく森川先輩。


 何だろう。

 怖いと思っていた森川先輩が、今は何だか妙に可愛く見える。


 そして、恐らく、そう思われるのが嫌だったのだろう。

 妙に落胆しているように見える。


「露草先輩は、甘いものは好きですかー?」


「えぇ、私は何でも好きよ。だから、厘さんに付き合うついでに、私もここのケーキの味を堪能するの」


「ま、それ以外にも目的はあるんだがな」


 一瞬だけ凍る空気。

 その原因は、露草先輩の発したオーラ以外の何者でもない。

 その空気だけで、私と樫儀さんは、顔がひきつり、恐怖から来る笑顔を作るしかない。


「……厘さん?」


 笑顔で凄みを見せる露草先輩。

 それに全く動じないでいる森川先輩は、余裕の笑みというか、小悪魔のような顔を浮かべて、こう続けた。


「五十鈴はな、ここでストリートファイトしてるんだ」


「おー、それはワイルドでーす!」


「いや、それは無いでしょ」


 疑うことを知らない純朴な樫儀さん。

 私も思わず反応してしまった。

 一方の森川先輩も、予想外の反応に若干戸惑いを見せている。


「……さすが千里、そうくるとはな。まぁ、一子は分かってるだろうが、実際のところはこいつだ」


 そう言って、目の前に携帯ゲーム機が置かれる。

 画面には、格闘ゲームが映っている。


「今流行のこのゲーム。他のゲームの例に漏れず、オンライン対戦が出来るんだが……未だかつて無敗という伝説の人間がいる。まぁ、このゲームに限らず、ジャンルを問わず、全てのゲームにおいて無敗を誇ってるやつが、この喫茶店……マロンド付近のネットワークに不定期に現れる「すずっちょ」という奴だ」


 私はゲーム機にはあまり詳しくないけれど、このご時世、ネットワークを利用したオンライン対戦が出来ることくらいは分かる。

 そんな不特定多数の中で無敗なんて、どれだけ凄いことなのかは想像がつく。


「露草五十鈴という名前こそ仮の名。ゲーマー業界では知らないものがいない程の凄腕ゲーマー「すずっちょ」とはこいつのことだ」


 既に諦めの表情の露草先輩。

 してやったりという顔をする森川先輩を、恨めしい視線で突き刺すも、森川先輩の方は全く気に留めていない。


「おぉー、聞いたことあるでーす! 全戦無敗のすずっちょ。まさか露草先輩だとは思わなかったでーす!」


「ウソよ」


「残念ながら、その一言は私が阻止してやろう」


 ゲーム機を取り出した先は明らかに露草先輩の鞄。

 それを物語るように、落下防止の伸び縮みする螺旋状のゴムのチェーンが、露草先輩の鞄とゲーム機がくっついていた。

 そして、おもむろに電源ボタンを押すと、ゲーム機のトップ画面になり、プロフィールが表示されている。


 名前の欄にはやはり「すずっちょ」と記されていた。


「厘さん、人の秘密を暴露して、何がそんなに楽しいのかしら?」


「はて、先に私が甘いもの好きだと暴露したのは、どこの誰だっけか?」


 先輩2人が、笑顔を湛えている。


 ただ、頭には怒りマークを3つほど浮かべ、背景は噴火した山々という、一触即発というか、すでに絶賛大爆発中。

 私と樫儀さんは、抱き合いながら震えて、ただ災禍が過ぎるのを待つことしか出来ないでいた。 



 そんな地獄に、天使が舞い降りた。


「お待たせしました。ケーキセットでございます」


 店主さんが、全ての空気を断ち切るように、ケーキセットを持ってくる。

 白衣の天使……と言うべきなのか。

 青髭の出来た、彫りの深い顔をした中年の男性。

 それでも、私たちには、蜘蛛の糸のごとく、地獄に突如として現れた救世主にしか見えなかった。


「さ、さぁ。先輩たちも食べるでーす!」


 何とか流れをケーキに持って行くべく、樫儀さんが声高に言う。

 先輩2人は、同時に視線を逸らし、深いため息をついた。


「……ケーキを不味く食べるなど、不敬極まりないからな」


「……了解。お互い様ってことで、手打ちにしましょ」


 ハイタッチすると、背景は元に戻り、ようやく穏やかな2人に戻った。

 本当に、仲がいいのか悪いのか、分からない。


 額にかいた冷や汗をハンカチで拭うと、4人でのお茶会を開催したのだった。

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