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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録~
24/88

24話 レイの車と先生のお話

挿絵(By みてみん)

「もう、お母さんが大慌てで出てきたよ!」


「あははっ! でも、寝ちゃったんですから仕方ないでーす。自暴自棄でーす」


「それを言うなら自業自得っ!」


「あっ、それでしたー」


 さすがにつっこみを入れる。

 

 翌日の教室で、私は後ろを向いてクラスメイトと話している。

 クラスメイトというのは、当然樫儀さんのこと。

 私は昨日、家に帰った時のことを話す。


「まさか乗ってる車が霊柩車だったなんて思いもよらなかったよ。例の車って、そういうことだったのね……」


「そうでーす。だからレイの車みたいですよー。レイの字が、幽霊の霊の字で、霊の車。例と霊を掛けてるですねー。日本語は本当に面白いでーす」


「それどころじゃなかったんだから。私もぐったりしてたっていうか、むしろ寝てたから、結構洒落じゃないと思ったみたいだよ」


「だからって、いきなり霊柩車は無いですよ?」


「それはそうだろうけど、霊柩車が家の前に止まったら取り乱すってば」


「あはは、そうですねー」


 あっけらかんと笑う樫儀さん。

 

 何というか、樫儀さんはいつでも明るい。

 一緒にいるだけで元気になれる。

 日本語の仕入先がちょっと怪しいけど。


「そういえば、樫儀さんはどこの国の出身なの?」


「あれ、話してなかったですか。私はイングランドでーす」


「イングランド……あぁ、イギリスかぁ」


「まぁ、正確にはイギリスも分かれてるですけどねー。イングランドは、イギリスを思い浮かべるところの、いわゆるイギリスの島ですね」


 そう言って、小さな胸を張る。

 樫儀さんは、身体は小さいほうだ。

 私も小柄なほうだろうけど、樫儀さんは更に一回り小さい。

 それを気にしているようで、身長の話はタブーみたい。


「はーい、ホームルーム始めますよー。席についてくださいねー」


 そんな雑談をしていると、望先生が教室に入ってきた。

 それに合わせるように、クラス委員長が号令をかけての挨拶を済ませる。

 出席も取り終え、報告事項を伝え終わると、こんな話を切り出す。


「みんなは、将来なりたいものってありますかー?」


 思わずみんなの顔がポカーンとする。

 無理からぬこと。

 みんな、ようやく高校生になったばかりで、それこそ、この高校に入ることが目標だった子も多い。

 そんな心中で、そんなことを言われても、と戸惑っているのだ。


 その気持ちは分かる。

 私がそう思っているから。


 でも、後ろにいる子は違った。

 望先生の質問に、大きな声で手を上げ、さも発表したげにしている。


「じゃあ樫儀さん」


「はーい!」


 わざわざ席まで立つ。

 そして声高らかと。


「私、シスターになるでーす!」


「シスター……? あっ、教会のですか」


「はーい! 家は教会ですから、その跡を継ぐでーす」


「なるほど、それは素晴らしいですね。私も応援します」


「ありがとでーす」


「他に、なりたいものが決まってる人はいますか?」


 その後に続ける者など、いようはずがない。

 仮に夢があったとしても、あんな形で発表など出来るものじゃない。


「うんうん、今はそれでもいいと思います。でも、これは先生からのお願いです。どうか、自分がなりたいものを、今のうちに明確にしてみてください。そして、それに突き進んで頑張ってください。分からないというなら、先生とお話しましょう。きっと、あなたの進みたい道を見つける手助けになります」


 少し間をおいて、なおも続ける先生。


「高校生になってすぐに、何でこんな話を、なんて思うかもしれないですけどね。私が教師を目指し始めたのも高校の1年生からなんです。それで、一生懸命頑張って、何とか教師になれました。だから、みんなにもそうして欲しいなって思うんです。自分がなりたいものになって欲しいんです。それにね、途中で違う道に進んだっていいんですよ。その過程で得たものは、みんなにとって価値の無いものであるはずは無いんですから」


 静かな教室に響きわたる望先生の声。

 その声が、私の心には深く染み渡っていた。



 自分がなりたいものになる。

 途中から変わっても構わない。

 その過程で得たものは、自分のためになる。


 将来というものがぼんやりとしていた私にとって、目から鱗の言葉だった。

 将来というものは、ただぼんやりとしているものじゃない。

 自分で形作るものだと。

 そう気づかされた言葉だった。


「あのー……大橋先生?」


 静かな教室に、申し訳なさそうな声が廊下から聞こえる。


「もう、授業始まるんですけど……」


「あらら、これは失礼しました!」


 声の主は、次の授業の先生だった。

 慌てた声を出す望先生が、教壇の上を手早く片づける。

 片づけようとして、ポロポロと物が落ちては床に散らばっていく。


「あらあら、あらあら」


 焦りが焦りを生んで、てんやわんやになっている望先生。

 その様子を、みんなが物を拾うのを手伝いつつ微笑ましげに見つめるのだった。

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