21話 閉門そして……
「やあぁぁぁぁ…………!!」
「オオオオオォォォォォォォォ!!!」
その勝負を悟ったのか、私の気合に対抗するように雄叫びを上げるティターン。
着々と近づいてくる足音。
この音を聞くに、ある予感が過ぎる。
間に合わない。
距離感は、後ろを見なくとも、音だけでも分かる。
そして、今までのゲートを閉めるペースから鑑みるに、私が間に合うとは到底思えない。
迫る足音。
私に死を与える、不吉極まりない音。
でも、不思議と怖くはなかった。
ゲートはあと僅かで閉め終わる。
でも、それよりはやく。
ティターンは到達する。
覚悟を決めた。
瞬間。
「一子、助けるでーすっ!」
突然、ティターンの脚に30本近くの剣が突き刺さる。
同時に、態勢を崩し転倒する。
倒れる角度も計算しつくしていたかのように、ティターンは横転し、私の立つ場所は安全を保たれていた。
鼻の差だったティターンと私のレース。
そのレースは、樫儀さんのおかげで見事逆転を果たしていた。
「閉まれぇぇぇええええ!!」
最後と言わんばかりの叫び。
その雄叫びと共に。
ハデスゲートは、巨大な音を立て、頑なに閉じられた。
「ティターン、これで京さんの願いも届けられないね」
そう言いながら後ろを振り向く。
その先の光景に、背筋が凍る。
ティターンが大きく腕を振りかぶっているのだ。
そうだ。
ティターンの本懐は怪力。
並大抵でない耐久力は、それに付随するものに過ぎない。
この一撃を私が食らったなら、それこそ致命傷。
いや、死に至る。
身体に戻ることなど、二度と叶わないことになる。
跳躍しようとするも、脚が言うことを聞かない。
何でだろう。
こういう時、不思議と身体は硬直してしまう。
でも、これでいいのかもしれない。
少なくとも、私はみんなの役に立てたのだから。
諦めると、更に身体は硬まっていった。
ゆっくりと迫るティターンの拳。
その瞬間を見たくないと、瞼を閉じる。
「朝生さん、諦めるなんてまだまだ早いわよ」
露草先輩の声が響く。
同時に、迫っていた拳が、僅かに私の立ち位置から逸れていった。
ティターンの身体は2つに割れていた。
片割れとなるティターンの脚。
その後ろに、露草先輩が七支刀を凪ぎ払った格好で立っている。
「草薙を2回も使うことになるとは思いませんでした。身体に戻った時が怖いですね」
私の方へ向けてそう言うと、今度は狩野姉妹の方を見る。
「大丈夫ですか、お二人とも」
「はい、朝生さんのおかげで何とか。京ちゃんも大丈夫そうです」
それを聞くと、私も先輩もホッとする。
胸をなで下ろしていると、思い出したように森川先輩の方を見る。
まだ終わったわけじゃないんだと、言い聞かせる。
2人は、にらみ合ったまま動いていなかった。
だが、ティターンが真っ二つにされたのを見ると、ユニコーンはニヤリと笑う。
何か仕掛けるつもりなのか……
ユニコーンは後ろを振り向く。
刹那、ゲートと反対方向へ飛んでいった。
「……終わったんですか?」
「とりあえずは、ね」
露草先輩があっさりと言う。
森川先輩は、慌てた様子でこちらに駆けつけてくれた。
「大丈夫か、一子」
「あ、はい。おかげさまで」
「五十鈴、最後は良いサポートだった。感謝する」
「当然のことをしただけだから、お礼なんていいわ。それより厘さん。悪いけど、最後の処理だけお願い出来る?」
露草先輩の視線は外れ、ティターンのほうを見る。
身体を半分にされたのは二度目だが、一度目のように復帰は出来ないように見える。
でも、油断は禁物だ。
もう出来ない、なんていうのは想像に過ぎない。
どんな起こり得ないようなことも、起こり得るのだと思わないといけないのだ。
「さて、今度こそ引導を渡してやろう。覚悟は良いな」
それに対して、ティターンは沈黙で応える。
よもや逆らう気力は無いのか、恨めしい目でこちらを睨むのみだった。
「唸れ……シングメシア!」
一瞬にして、辺りを聖なる光が包みこむ。
その光が晴れたその後には、悪魔の姿は欠片も残らなかった。




