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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第一章 狩野姉妹 ~ティターン討伐録~
20/88

20話 能力覚醒

挿絵(By みてみん)

 気付けば、走っていた。


 私のいる距離から、ハデスゲートまでは何百メートルあるかも分からない。

 それでも、私の見ている光景は、野原を駆ける馬のようだ。

 確実に、それでいて信じられない速度で、ハデスゲートまでの距離を縮めている。


「ありゃ、ついにもう1人の新人が動いたか。どれどれ」


 真正面から突っ込んでくるユニコーン。

 お互いの速度もあって、その距離はあっという間に至近距離となる。



 跳躍。

 私は跳ぼうと思った。


 でも、それを止めざるを得なかった。


 ユニコーンは、私の動作を全て見越しているかのように、角の照準を合わせている。

 その狙いは心臓。


 そして、直感する。


 この一撃から逃れることが出来ない。


 ふと諦めかけた、その瞬間。

 目の前で起きる衝突。

 見えるのは、綺麗な銀髪だった。


「勝手なことをするなっ! 死にたいのかっ!」


「ありがとうございます、森川先輩! お願いです、少しの間ユニコーンの相手をしててください!」


「なっ……」


 私は、2人を跳躍で飛び越える。


「どうするつもりだっ!……くっ」


 叫ぶ森川先輩に、ユニコーンが角を突きつける。

 剣で払うも、そこからはにらみ合いとなった。


「あんな新人1人じゃ何も出来ないね。あとは君と巫女姉ちゃんを何とかすれば、ティターンは無事ゲートを潜れそうだよ。いや、これは久しぶりに、キーパーの願いを持ったディアボロスのゲート通過かな?」


「…………っ!」


 森川先輩は、沈黙で返す他無いようだ。


 そう。

 私に出来ることなんて、たかがしれてるかもしれない。


 でも、そうであっても。

 私は今出来ることをするんだ。



 遠いなら、跳べばいい。

 無理に飛ばなくて良い。



 あそこまで、一気に跳ぶんだ……!



 思い切り一歩を踏み出す。

 すると、私のイメージ通りに跳んでいく。

 あれだけあった距離も何のその。


 風景は著しく流れていき、あっという間に止まる。

 気づけば、ゲートの目の前までの跳躍を果たしていた。


 もう少しで閉まるゲート。

 その片割れを、私は全体重を掛けて押す。


「動けぇぇぇぇええええっ!!」


 心の底から叫び、身体で押すも、ゲートはびくともしない。

 

 ある意味では当然なのかもしれない。


 高層ビルにも匹敵する巨大な扉。

 そんな鉄塊。


 人間がどれだけ押しても、動くはずもない。



 無理なの…………?

 私では……




 心が折れる。

 そう予感した時、私の目に愛さんの姿が映る。


「ありがとう、朝生さん。でもね、この扉は、京ちゃんの手じゃないと閉められないよ。だから、ここは私が……」


「京さんの手……!」


 そうか。

 そうだ。

 京さんの作り出す手が必要なんだ。

 その手は、ティターンを防ぐのに精一杯だ。


 それなら……



 私がそれを作ればいい…………!





「はぁぁぁぁっ!!」


 手をいっぱいに広げる。

 イメージだ。

 京さんの作り出す巨大な手。

 

 イメージするんだ。

 ゲートを閉める、偉大なる手を。


 イメージ。

 イメージ。

 イメージ。

 …………イメージ!



「やぁぁぁああああ!!」


 目の前に浮かぶ巨大な手。

 ゲートをがっちり掴み、そして閉める。

 私のイメージ通りに動いてくれる……

 今を、この最悪な状況を切り抜けるための、私の大事な手。


 この手は、京さんの手を模写したもの。

 今、私がやるべきことをするための、大事な手。

 この手で、ハデスゲートを閉じる。


 京さんの代わりに、今……私がやらないといけないんだ!


「はぁぁぁぁ……!」


 このゲートは重い。

 改めて、そう感じる。

 そういえば、京さんも、顔を真っ赤にして力を入れていたっけ。

 その気持ちが、ようやく本当の意味で分かった気がする。


「おー。あの新人、閉める役だったのかぁ。これは、放っておけないな!」


 ユニコーンが私の方へ飛んでくるのを、森川先輩が行く手を阻む。


「悪いが、一子に頼まれたからな。お前の相手は私だっ!」


「うるさいなぁ……倒されたいの? この前みたいにっ!」


 剣戟が響いているのを感じつつ、なおもゲートを閉めるのに集中する。


 それにしても重い。


 どれだけ押しても、本当に少しずつしか閉まらない。

 それでも。

 少しずつ、少しずつ。

 着実にゲートは閉まっていた。

 そうしていくうちに、もうゲートは閉まり掛けている。


 あと少し。

 ゲートが開いているのは僅か30センチほど。

 それなのに。


「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォッッ!!!」


 後ろから凄まじい雄叫び。

 振り返ると、ティターンが京さんの手を払いのけ、こちらに向かってきている。


 森川先輩のシングメシアで大分小さくなったとはいえ、その巨体はまだまだ健在。

 このまま直進してくると、私を押しつぶすことも可能なほどだ。

 そんな中、京さんが叫びをあげた。


「ティターン、聞けぇっ! 一子の願いの代わりに、ボクの願いを持って行け!」


 ティターンの動きが止まる。

 すぐそこにいる京さんの姿を見ると、何かを待つように動作を一切止めていた。

 でも、それは1秒ほどだった。


 京さんが特に言葉を発しないのを見ると、そっぽを向くように走ろうとする。

 それを見て、京さんは慌てたように叫ぶ。


「ボクの願いは……愛ちゃんに、自由な道を進めるようにしてくれぇええええっ!!」


「…………承知した」


 ティターンは呟くと、光の球を一つ投げ捨てた。

 あの光の球。

 あれが恐らく、私の「願い」なのだろう。

 その願いは今、見事に吐き捨てられ、代わりに更に大きな光を宿らせた。


 これが願いの強さというものなのだろうか。

 ティターンの体内にあったと思われる私の願いは、それこそ小さな物で、あの巨体から光が漏れるなんてことは無かった。


 でも、今回の京さんの願いは違う。

 あまりの輝きに、巨体から溢れんばかりに光を放っている。


「京ちゃんっ!?」


「……これで、いっちゃんだけは守れそうか、な」


 京さんは、そのまま力つきてしまった。


「へへへ、聞いちゃった聞いちゃった。僕もその願い、聞き届けてあげよう。なに、遠慮なんていらないよ!」


 気づけば、ユニコーンまでもが、京さんの願いを抱えていた。


 ゲートを閉める作業を止めてはならない。

 なおさら、止めるわけにはいかない。


 時間との勝負。

 

 このまま、ティターンが直進して私を踏みつぶし、ゲートを潜るのが先か。

 私がゲートを閉めるのが先か。


 私とティターンとの勝負だ……!

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