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たいまぶ!  作者: 司条 圭
プロローグ ~退魔部入部~
2/88

2話 退魔部入部します!

挿絵(By みてみん)

 昨日の女の人は何だったのだろう。

 それを考えているうちに、もう放課後になってしまった。


 生徒会室の隣。

 そう言っていたけど、どこが生徒会室なのかも分からない。

 廊下をキョロキョロと不審人物のようにウロついていると、後ろから元気な声が私の背中にかかる。


「おんやー、どうしたのかなこんなところでっ! 1年生みたいだけど、もしかして迷子かなーっ?!」


 ドドドという音と共に後ろから迫る気配。

 そして私の背中に覆い被さってきた。


「ひゃあっ!?」


 思わず声をあげてしまう。


 でも案外軽い。

 そして、よくは見えないけど、後ろに張り付いてるのは女の子だということだけは分かった。


「あれー、この子もしかして……」


「え、えっと。その……」


「もしかして、「見える子」?」


「えっ?」


「リンリン先輩が言ってたんだ。昨日「見える子」がいたから、部室に来るように言っといたって。君のことかな?」


「あ、あの……リンリンさんがどなたか分かりませんけど、銀髪の人ですか?」


「大当たりー! そっか、君だったんだ。じゃあ部室探してたんだよね。こっちだよー!」


 背中からピョンと飛び降りると、私の手首を掴んで走り始める。

 その速度は、私が1人で走るより俄然早く、ついていくのがやっとだった。


 と、思いきや。

 5メートルも走らないうちに急ブレーキをかける女の子。


 私はそれに反応出来ず、オーバーランするところを、女の子がそれをしっかり掴んでくれた。


「あ、ありがとうございます」


「お礼なんていいよ。ほら、ここだよ!」


 目の前には引き戸。

 上のプレートには「退魔部」とあった。


 どんな部活なのだろう。

 正直、想像がつかない。

 そういえば担任の望先生が、顧問だけど全然内容は知らないって言ってたっけ。

 顧問の先生だって分からないんだから、私に分かるはずもない。


 心の準備をして、まずはノックからしよう。

 まずは深呼吸を…………


「森川せんぱ~~~いっ! 連っれてきったよ~~っ!」


 目の前の扉が勢いよく開かれた。


「はいはい、入った入った~!」


 後ろから肩をがっちり捕まれ、ズカズカと部室に入らされる私。

 訳も分からないままに、部室の真ん中へと押し入れられた。


 部屋の中は、教室の半分ほどの広さ。

 正面に大きめの窓があり、夕方の日差しをいっぱいに受けて部屋を照らしている。

 左手に本棚、右手にロッカー。

 その上には小綺麗な花瓶が置いてあり、無機質になりがちな空間に文字通り花を添えている。


 そんな部屋の真ん中に、大きめの長机がある。

 その長机の真ん中にして私の目の前。

 そこに、長い黒髪の綺麗な人が椅子に座っていた。

 赤色のカチューシャがよく似合う、上品な感じの人だ。


「あら、なかなか派手な登場ですね」


 口を手で隠しつつ小さく笑う。

 その笑い方にも気品がある。


「ようこそ、退魔部へ。私は退魔部の部長、3年の露草五十鈴つゆくさ いすずです。厘さん、この方が「見える人」ね」


 リンさんと呼ばれているのは、少し離れて隣に座っている髪の長い人だ。

 あの時出会った人と同じ人ではあるけれど、髪は赤毛だった。

 

「そうよ。ようこそ退魔部へ。3年の森川厘もりかわ りんよ」


 ぶっきらぼうに言い放つ。

 目つきも鋭いし、その視線も突き刺さるような感じだ。

 正直、ちょっと怖い印象を受ける。


「あれ、朝生さんです?」


「あっ、その声は……」


 数回しか聞いてないけど、聞き覚えのある声。

 普段は後ろから聞こえてくる、明るく耳に心地良い、それでいて英語なまりの声だ。


「朝生さんも退魔部の人だったですねー! 千里です、よろしくでーす!」


 後ろの席の樫儀さんだった。

 相変わらず、金髪と蒼い瞳がとても綺麗だ。

 見覚えのある顔を見れてホッとしていると、露草先輩の横にいる女の子と目が合う。

 その子は、慌てるように席を立つと、深々とお辞儀をする。


「わ、私は2年生の狩野愛かのう あいと申します。あなたの後ろにいる子の、双子の姉なんです。あの、けいちゃん、失礼なことしてないですか?」


 何だか申し訳なさそうな視線を私に送る。

 頭の上にお団子を2つ作る髪型は可愛いらしい。

 透き通るような肌に、上気した顔がその可愛らしさを引き立てている。


「えっ、嫌だなぁ、愛ちゃん。そんなことするわけないじゃん」


 後ろにいる子…………

 京ちゃんと呼ばれた子を改めて見る。


 少し色黒……

 いや、太陽の日で焼けているのだろう。

 健康的な肌で小柄な身体。

 私が言うのも何だけど、子供っぽい。

 髪型は、愛さんと同じように団子を作っているが、そこからさらに髪が少し伸びてツインテールを作っている。


「まぁ、そういうわけで、ボクが狩野京かのう けいだよ。よろしくね!」


 私の後ろからようやく離れて、京さんは愛さんの横に付いた。

 座っていた露草先輩が、机を半周して私の前に立つ。


「さて、流れで自己紹介も終わったところで、あなたのお名前を聞いてもいいかしら」


「あ、はいっ! えっと、朝生一子です」


「朝生さんね。1つ、あなたにお願いがあるの。あなたには、この退魔部に入部して欲しいの」


「は、はぁ……」


 つい反射的に生返事をしてしまった。

 何分、顧問の大橋先生ですら何をしているか分からない部活だ。

 二つ返事というわけにもいかない。


「ちなみに退魔部は、あの麻薬の大麻を栽培する部なのよ」


「えっ! ウソっ?!」


「ウ・ソ♪」


 人差し指を鼻にあて、可愛く言う。

 思わず転けてしまう私などお構いなしに、話を続ける。


「まぁ、その感じだと、あんまり気乗りしない感じかな。じゃあ、ちょっと見学して行くといいわ」


「あ、はい」


「ちょっと待て、五十鈴」


 待ったをかけたのは森川先輩だ。

 勢いよく椅子から立って露草先輩を問いつめる。


「ずいぶん甘いな。そんなことでいいのか?」


「まぁ、先輩は先輩のやり方があったからね。私は違うわ。だから強制なんてしないの」


「ちっ……」


 露草先輩を標的にしていた森川先輩は、次は私に牙を剥く。


「あなたは強制的に退魔部に入部よ。そうじゃないと危険すぎる」


「あ、あの……」


「それとも何? 入りたい部活があるの? それなら掛け持ちしても構わないわ。でも、うちには絶対入りなさい」


「厘さん」


 重厚な声を出す露草先輩。

 それに封殺され、黙って席に座る森川先輩。


「私も、厘さんの意見はもっともだと思う。あなたは「見える人」。だから、仮に退魔部に入らなかったとしても、監視くらいはつけさせてもらうことになるわ。それならいっそのこと、部に入って欲しいの」


「あの、さっきから言われてるんですが「見える人」って、何なんですか? さっぱり分かりません……」


「……そうね。ちょっと話を急ぎすぎました。まずはそこから話さないといけないですね」


 ごめんなさい、と謝罪をし、深呼吸をしてから、露草先輩の話は続いた。


「ここは退魔部。文字通り、魔を退ける者たちが集う部で、入部希望だと言って入れる部じゃないわ。あなたのように、「見える人」でなければならないの」


「見えるって、何がですか?」


「悪魔よ」


 …………悪魔。

 悪魔?

 あの悪魔?

 この前見たあの小さな生き物が悪魔?


 何だか、イメージが違う気がする。

 悪魔というと、山羊の頭に人の身体、コウモリみたいな翼が生えてるような感じだけど。

 昨日見た、あの小さいのが悪魔とは……


「そうね、あなたがイメージする悪魔とはずいぶん違うわ。一般にイメージする悪魔は、あなたの見た小さな悪魔が成長した姿なのよ」


「そ、そうなんですか」


 ついドキッとしてしまう。

 何だか、聡明な眼に見透かされてるようだ。


「そして、その悪魔が「見える人」は限られているの。ここにいる全員はもちろん「見える」んだけど、逆に言えば、それ以外の生徒……いえ、生物には「見えない」のよ。そして、悪魔たちの成長の糧にされてしまう可能性があるの」


「成長の糧……?」


「そう。悪魔はね、生物の願いを何でも叶えることで、その者の「カルマ」を汚して成長していく。例えばそう……朝生さんは、運動会の日は晴れて欲しいと思った? それとも、雨が降って欲しいと思った?」


 言われて考えてみる。

 別に運動は嫌いじゃなかったし、運動会の雰囲気は好きだから、むしろ晴れて欲しかった気がする。


「そうですね……私は晴れて欲しかったです」


「そう、実は私もよ。でもね、朝生さんが「晴れて欲しい」と願って、そして当日晴れていたなら、もしかしたら悪魔が聞き届けたのかもしれないわ」


「えっ、どういう意味ですか?」


「悪魔たちはね。人間……いえ、すべての動物たちの願いをどんなものでも叶えることが出来るの。あらゆる生物が持つ「カルマ」を代償にね。欲の深い生物という意味では、人間が特に狙われやすいの」


 なるほど、確かにそうかもしれない。


 生き物には、生きるための欲望というのはよくよくあるものだろう。

 食べ物が欲しい。

 安眠出来る時間が欲しい。

 弱肉強食の世界を切り抜けるための欲望は、様々なんだと思う。


 人間は、そういった生きるための最低限の欲望……

 食べたい。

 眠たい。

 そ、その、エッチしたいとか。

 三大欲求と呼ばれる、その延長上にある社会的な欲望もある。


 そういう面においては、事欠かない相手なんだ。


「ただ、限度はあるわ。小さい悪魔であればあるほど、叶えられる願いには限界がある。ただし、その逆も然りだけど」


「じゃあ私が見たくらいの悪魔は?」


 露草先輩が、森川先輩に視線を送る。

 それを受けて、森川先輩がこちらに視線を向けた。


「あの程度では、さっきの例のような、天気を左右する、という事象は難しい。だが、あのレベルでも「晴れにして欲しい」という願いを、複数の悪魔が持ち込めば叶えられるはずだ」


「あっ、そうか。願うのは1人だけとは限らないですし、悪魔だって1匹ではないですよね」


「そういうことだ。それに、悪魔たちは厄介でな。独り言のように呟いた願いでも、それを願いとして聞き届けることが出来る。さっきの五十鈴が言っていたことは、つまりはそういうことだ。お前が、いつぞや呟いたかもしれない「運動会は晴れになって欲しい」という願いを、悪魔が勝手に聞き届けた可能性はゼロじゃないということだ」


「な、なるほど。確かにお節介というか何というか……」


「全くだ。そして、その人間は勝手にカルマを汚されてしまう」


 カルマ。

 よく聞く言葉だけど、いまいち意味は知らない。

 頭のはてなマークを察してくれたのか、愛さんがフォローしてくれる。


「あっ、えっと。カルマっていうのは、最近は曲解されているイメージなんですけど、悪い意味は無いんですよ。私の家は仏教の家系なのでよくお話するんですけど、カルマは「行為」という意味なのです。そして、引いては「因果応報」という言葉に繋がります。自分の行いは返ってくる、ということですね。この因果応報っていう言葉も最近は「悪いことをすると悪いことが返ってくる」というイメージなんですけど、本来は「良い意味でも悪い意味でも」なのです。それで、あう、えっと、つまり~……」

なんだかちょっと慌てている。顔を真っ赤にして、とても可愛い。

「簡単に言うと、例えそれが故意でなくとも、悪魔の手によって自分勝手に願いを叶えるというのは、「行為」としては「マイナス」になるということなんです!」


「まぁ、そういうことだよね」


 真っ赤になる愛さんの前に、京さんが横から現れる。


「そんで、カルマの汚染の影響っていうのは、これから生きていく上での、いわゆる「運」と言われるものが低下する。まぁ、そりゃ無理な願いを叶えたあとに、更に運がついてまわる、何てウマい話は無いよね。そして、類は友を呼ぶ、なんて言うけど、カルマが汚れているものには、汚れているものが吸い寄せられるってものなのさ。カルマが汚れてる連中っていうのは……まぁ想像つくだろうけど、決していいもんじゃないよ。イメージしやすいところだと、マフィアとかヤクザなんて呼ばれる人たち。あの人たちの素行を、良いものだとはとても言えないよね? そういう人間のカルマはそれこそ真っ黒に汚れてるのさ。良い人だけど不幸が付きまとう人とか、そういう筋の人から離れられない人っているよね。もしかしたらその人は、知らず知らずのうちにカルマを汚されてる可能性が高いんだ。カルマが汚染されるというのは、それほどにリスクを伴うものなのさね」


「そんなっ! じゃあ、一体どうすれば……」


「そこで退魔部の出番でーすっ!」


 樫儀さんが抜刀する仕草をしながら言う。


「こいつら悪魔は、必ず「ハデスゲート」を使って行き来しているです。ハデスゲートっていうのは、すんごーーく大きい扉のことで、この世界と、悪魔の住む「魔界」とを繋いでいる扉なのでーす。悪魔たちは成長するために、まずこのハデスゲートからこの世界に出てくるです。そして、この世界から願いを持ちながら、ハデスゲートを通り抜けた悪魔のみが、生物のカルマを代償に願いを叶えるです」


「じゃあ、そのハデスゲートを潜らせなければ……」


「イェスっ! その願いは無効に出来るでーす!」


 いつの間にか露草先輩が席に座り、私の目を見据える。


「ハデスゲートが開くのは6日に1度。それを「バルティナの歪み(ひずみ)」と呼んでいるわ。開く時刻はいつも一緒の、夕方4時44分。そして、ハデスゲートは、誰かが閉じなければ開きっぱなしになってしまうの」


「そんな……それじゃあ、やりたい放題じゃないですか!」


「そう。だから、私たちが閉めるのよ」


 一斉に首を縦に振る5人。


「私たちが、たくさんの人たちのカルマを守るの。そして、あなたにも是非、それを手伝って欲しいのよ」




 ドクンと。


 心臓が大きく鳴る。

 鼓動が高鳴る。

 震えが止まらない。


 人の役に立ちたい。

 そう思っていた。


 そして、私は役に立っていたのかもしれない。

 でも、今までは、人に決められたことをやって。

 自分が決めた振りをして。

 人に決めてもらって。

 役立っていると。

 そう思っていた。

 そう思いこんでいた。

 そうすると、自分が楽だったから。

 その方が、認められた気になるから。


 でも、今は。

 今回は、違う。

 私は、心の底から。

 自分の意思で。

 退魔部に入ろうと、


 自分で決めた。

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