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たいまぶ!  作者: 司条 圭
第一章 狩野姉妹 ~ティターン討伐録~
19/88

19話 私に出来ること

挿絵(By みてみん)

 光の波がこの空間を覆い、まだ視力は世界を認識することが出来ない。


 それでも、僅かながらに見えるようになってきた。

 ぼんやりと浮かぶ、先ほどから見ていた景色。

 まだ不確かな視界の中。

 にわかに見えた影。



 気のせいであって欲しい影が見えた気がした。




 光という闇の中、朧気に見えてくる巨大な陽炎。

 それは。



 明らかにダメージを与えられた形跡の無いティターンの姿だった。



「何故だ……シングメシアは確実に当たっていたはずっ!」


 森川先輩が吼える。


 それを嘲笑するように、周囲に笑い声が響く。

 その笑いは、決してティターンのものではない。


 まして、私たちの誰かのものではない。

 少年のような、無邪気な声だった。


「この声は、まさか……」


 森川先輩が震えた声を出す。

 それは、恐怖に駆られているかのような声。

 森川先輩からそんな声が出ると思わず、私も身震いしてしまう。


 周囲を見渡している最中、ティターンの真上に、その声の正体を見た。


「助けを呼ばれて僕が来ましたーっ! おっ、憎きキーパーに新参がいるねー。じゃあ自己紹介もしとこっか!」


 声と同じく、体躯も少年そのもの。

 黒い包帯に身を包み、一部露出している肌……手と足、そして顔も僅かに黒ずんでいるように見える。

 赤い瞳が怪しく光り、口はイタズラ小僧のように笑みを湛える。

 そして何よりも特徴的なのが、額から生える鋭く長い角。


 この角からして、誰なのかが想像出来ないはずもない。

 

 この少年のような悪魔の名は。


「僕はユニコーン……って君らから呼ばれているよ。まぁ、本当の名前なんて無いんだけどね! 君らがそう呼んでるから、使わせてもらってるんだ。結構気に入ってるよ! えへへ」


 鼻の下を、人差し指で掻きながら言う。


 ユニコーンは、鉄壁の守りを誇ると言っていた。

 となると、さっきのシングメシアは……


 ティターンが自ら攻撃を防いだのではない。


 間違いなくユニコーンの仕業。


 シングメシアを食らう寸前の叫び。


 あれは助けを呼ぶ声だったのだ。

 そしてユニコーンがその呼び出しに応じた。


 ティターンは、最初と比べて明らかに消耗している。

 シングメシアが当たれば、もしかしたら倒せるかもしれない。


 あと一歩というところで、この状況。


 そして、状況はよりまずい方向に進みつつある。


「も、もう限界……」


 扉の近くから聞こえる、悲鳴にも似た呟き。

 京さんが、立つのもやっとの様子だった。


 そう。

 今、ティターンの進行を阻んでいるのは、京さんだ。


 本来ならばゲートを閉める役割の京さん。

 その手は今、ハデスゲートを離れ、ティターンを押さえている。


 それはつまり…………



 「バルティナの歪み」が終わらないことを意味している。



「おのれ、邪魔でーす!」


 樫儀さんが無数の矢を放つ。

 雨の如く降り注ぐ矢は、ユニコーンへ襲いかかる。


 だが、その攻撃は弾かれている。

 しかも、ユニコーンのほうは、特に何か動作をしているわけでもない。


 立っているだけ。


 それにも関わらず、何か硬い球体にでも覆われているかのように、全ての矢を弾いている。


「ざーんねん。君が邪魔だよ、新人君!」


 ユニコーンは、未だ放たれる矢の群れに自ら突っ込んでいく。


「なっ……!」


 息を飲む樫儀さん。


 無理もない。

 小さな悪魔ならば、全て一撃の元に消し去る樫儀さんの矢。

 決して攻撃力の面で劣るはずもない。


 その矢の波状攻撃の真ん中を。

 全くスピードを落とすことないどころか、更に加速して突進してくるではないか。


 樫儀さんも次々に矢を放つが、全て同じ結果となっている。


「あははっ! 早速新人潰しだぁ!」


 思わず目を閉じる。


 その瞬間を見ないために。


 見えないながらに、予測出来る衝突する時間。

 それが訪れた、刹那。


 何かがぶつかる音がした。

 金属と金属のぶつかる音に似ている。


 何かがユニコーンの突撃を阻んだのだろうか。

 

 ゆっくりと目を開けると、露草先輩が持っていた七支刀が、樫儀さんの目の前に突き刺さっていた。

 おかげで、ユニコーンの角の軌道は逸れている。


 逸れてはいるけれど。


「ありゃ、外しちゃったかぁ」


「……後が怖いことをしてくれるですね」


 ユニコーンの角は、樫儀さんの左肩を貫いていた。


 そのまま睨み合う2人。


 それを中断させたのは露草先輩だった。


 突然、音もなく七支刀の目の前に降りてくると、刀を引き抜きユニコーンの胴体を斬りつける。


 だが、それも空振りに終わる。


 一瞬にして樫儀さんの肩から角を引き抜き、距離を取っていた。

 そして、ティターンに寄り添う。


 そのユニコーンを、樫儀さんが弓で狙いをつけようとする。

 すると露草先輩は、手で樫儀さんの行動を制止させた。


「やめなさい。今は痛みが無いから動かせるだけよ。その傷だし、下手に動けば腕一本失うわ」


「…………い、いつものウソですよね?」


「本当よ」


 こちらの重苦しい雰囲気に対し、ニヤニヤと笑いを浮かべるユニコーン。

 ティターンも、あと少しだと悟ったのか。

 先ほどよりも脚に力が入り、京さんの手を押し返しているように見える。


「……仕方ないですね」


 愛さんの、ため息に似た呟き。


 露草先輩が言っていた最終手段だろうか。

 そんな愛さんの様子を見た森川先輩が叫ぶ。


「やめろ、愛!」


 必死に制止する声。

 それに、愛さんは首を横に振る。


「でも、そうでもしないと、ティターンはゲートを越えてしまいます。京ちゃんも、もう持ちません。ここは、私が何とかします」


「そんなことはさせない。いや、するな! 私が何とかする! 早まるなっ!」


 懸命な森川先輩の命令にも似た懇願。

 それでも、愛さんは首を横に振る。


「……ありがとう、森川先輩。でも、大丈夫。必ず死ぬと決まったわけじゃありませんから」


「ダメだ、やめろ! 愛!」


 森川先輩の必死さ。

 愛さんから出た「死」という言葉。


 私の中で、その事実が錯綜する。


 そして、こうも思う。


 私は何でここにいるのだろうかと。


 みんな頑張っている。

 すでに疲労困憊。

 満身創痍。


 私は何をしただろう。


 森川先輩と樫儀さんに守られて。

 何をしているんだろう。


 私がすべきことは何だろう。

 したいことは何だろう。


 ティターンを倒す?


 ユニコーンを倒す?

 

 それも解決の道。


 でも、それよりはもう少しだけ可能性のある…………

 私に出来ることがきっとあるはず。


 森川先輩みたいに。

 露草先輩みたいに。

 樫儀さんみたいに。


 戦う力は無いけれど。


 京さんみたいにしっかりは出来ないけれど。

 

 きっと、あの扉を閉めることが出来る……!

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