18話 死線その果てに
「このっ……!」
凄まじい早さで追いついたのは森川先輩。
そのまま足の腱を斬ろうとするも。
「なにっ!?」
突然、ティターンの甲冑が全て弾け飛んだ。
突飛なことに、森川先輩も、飛んでくる鎧の破片への防御に専念するのが精一杯だった。
だが、その一瞬は、ティターンが更にハデスゲートへ近づける時間となる。
ハデスゲートはまだ閉じきっていない。
あとは、狩野姉妹のみ。
でも、あの2人には、あの巨人を止める術など無い。
ついに、ティターンの足がハデスゲートを踏む。
刹那。
「そぃやぁぁぁぁぁあああああああっ!」
京さんが、突然振り向く。
そして、巨大な手がティターンの突進を阻んだ。
ティターンも、これほど巨大な手に止められると厳しいのか。
身体を震わせて一歩も踏み出せずにいる。
「……ボクのせいなんだ。ボクのせいで、いっちゃんが危険な目に遭ってるんだ。絶対にやらせるかぁぁぁぁああああ!」
京さんの叫びが木霊する。
その気合いにも押されたのか。
ティターンは巨大な手によって、ジリジリと後退していく。
「その意気だ。いいぞ、京っ!」
その叫びに呼応するように、ティターンを縦横無尽に切り刻む森川先輩。
その連続攻撃は、それこそ文字通りの、目にも止まらぬ早業。
森川先輩の動く姿など見えず、何かが通った軌跡にティターンの傷が増えては身体が小さくなって行く。
これほどの攻撃。
さすがのティターンも効いているのか。
脚を震わせ、今にも膝が地に着こうとしている。
そのとき、樫儀さんも何かに気づき、大声を上げた。
「森川先輩っ! シングメシア、見つけたですよ!」
「なにっ、どこだっ?!」
森川先輩も、斬りつけつつも探していたのだろう。
だが、やはり見つかっていないことから、樫儀さんの言葉には疑問で応える。
「おケツです! ティターンのおケツの穴に刺さってるです!」
「なん……だと」
一瞬言葉に詰まる森川先輩。
それは無理もない。
よく目を凝らせば、確かに見える剣の柄。
ついでに、京さんの卒塔婆もはみ出ていて、場所が場所なだけに、とある何かを連想させる。
悪魔は人間ではないとはいえ、ディアボロスの見た目はやはり人間に似ている。
出来れば、あの穴に手を突っ込むようなことはしたくない。
かと言って、そのままにしておくわけにもいかず……
「……千里、あとで覚えておけ!」
「えっ、私関係無いでーすっっ!!!」
気合一閃、跳躍し、とある場所から剣を引き抜く森川先輩。
同時に、光り輝くシングメシア。
ティターンの横に位置取ると、そのまま大きく振りかぶる。
「よく耐えた、京。お前の為すべき事、この森川厘が見届けたぞ。あとは任せろ」
眩い光が一層輝き始める。
森川先輩の視線は、ティターンをピタリと捉えている。
「煌めけ、シングメシア!」
光の波がティターンを飲み込む。
しかし、その一撃は力を抑えていたのか。
いつものような光が発することなく、すぐに視界が回復する。
だが、それでも充分のようだ。
ティターンの甲冑が無くなった故か。
急場で放ったシングメシアであっても、身体は見違えるほど小さくなっていた。
これは削りだ。
京さんの負担を軽くするために撃った、弱めの攻撃。
弱めといえども、これだけ効果が出ている。
身体が小さくなったせいか、同じ力で押している様子の京さんの手は、グングン押し返し、ゲートからもずいぶんと遠ざけていた。
次を当てれば。
森川先輩の、いつものシングメシアを撃てば……
ティターンは消滅する。
それは、誰の目から見ても明らかだった。
そして、森川先輩の力は、まだたっぷりと残っている。
「覚悟しろ、ティターン。今こそ、おまえを無に帰す……!」
森川先輩が、八双の構えでティターンと対峙する。
それと同時に、剣に帯びる光。
その光は、先のものとは異なる壮絶なる光。
あまりの眩さ故に直視することの出来ない……
悪魔を討つ、聖なる光。
ティターンが、断末魔を上げるかのごとく、この時初めて叫び声を上げた。
だがそれも、この空間に響くのみだった。
「唸れ…………シングメシアァァァァアアアア!!」
振り下ろされると同時に、ティターンは強大な光に飲み込まれていった。