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愛しき殺し屋  作者: 海華
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白衣を着た救世主

「よっこらしょ」

祥はギプスをしている足を庇いながらゆっくりとベッドの上に座る。

「お前の顔を見て安心もしたし、この老いぼれはロビーで待つことにしよう。沙羅は積もる話もあるだろうから、ゆっくりと話してから降りてきなさい」

父は静かだが、威圧的な言い方でそう言った。

積もる話なんてないけれど。病室に残るしかないわよね。頭を押さえつけられるような口調で、そうせざるをえない雰囲気を漂わせていた。

私は心の中でため息をつく。

「総帥、今日は本当にありがとうございました」

祥は父に頭を下げる。父はそんな祥を見て意味ありげな笑みを浮かべてた。

父は心の中でこの先に起こることを、予想していたのかもしれない。

「いやいや、可愛い娘の許婚が怪我をしたとあっては、何があっても見舞いに来なければなるまい」

父はそう言う。たいした演技力だわ。心配もしてないくせによくもまあそんな事が言えるわね。私は心の中でひっそりとそう思った。

父は意味ありげな鋭い視線で私を一瞬見つめ、視線を流すようにそらすと背を向けて病室から出て行った。


「さてっと!」

祥はそう言って、床の上にスクッと立ち上がる。え!? 何で!? 怪我はどうしたのよ!

私はひどく動揺した。最初は死んだと思っていて、そしたら怪我だったって聞いて、今度は何? 怪我もしてないって事なの?

祥の手が私の腕を掴み、そのまま思い切り引っ張られた。そしてベッドの上に体を押し当てられて、押さえつけられた。

う、動けない!

「怪我したってゆうのは嘘なの!?」

私は祥の顔を睨みながらそう言った。

「怪我はしたさ、だけど予想以上に軽く済んだ、これも普段から体を鍛えてるからかな。だけど突き落とされた時は痛かったぜ」

祥はニヤッと笑う。寒気の走る笑みだった。

「死んだって思ったんだろう?」

祥は愉快そうにそう言った。ほんの少しでもコイツのために罪の意識を感じて自ら命を落とそうとした事を心から後悔した。

「楽しいね、人の弱みを握れるってのは。お前は高校を卒業したら、俺と予定通りに結婚する」

「あの女の人はどうするのよ!?」

私の質問がよっぽと滑稽だったらしく、祥は大笑いする。

「もちろん付き合うさ、お前の父上だってやってる事だ。慣れてるだろう?」

確かにそうだけど、父も沢山の女がいる。それは利用できるから、それも許される事じゃない。だけど、貴方はあの人を愛してるじゃない!? そんな他の人を愛してるって、私の事なんかこれっぽっちも思ってないような人と結婚なんて……

もう、いやよこんなの!

「イ、イヤ、んん!?」

私は叫ぼうとしたけれど、口を祥の唇で塞がれて、声が出なかった。

ヤダ! ヤダ!! ヤダ〜!!! 心は思い切り悲鳴をあげていた。


コンコン

誰かのノックする音。

祥はその音に咄嗟に反応して一瞬私を掴んだ手の力が緩んだ。私はそのスキに祥の手をすり抜けて、ドア側に身をかわす。

ドアが開いた。立っていたのは看護師さん。あれ? 違う! 嘘!

それは看護師の白衣を着た玲だった。

「もう消灯時間になるので、面会の方はご遠慮下さい」

玲は淡々とそう言った。

何!? 玲って看護師だったの。どうゆう事!?

そんなこんなで頭の中は軽くパニックを起こしていたけれど、この機会を逃しては駄目だと思って、玲の横を通り過ぎるようにして病室から出た。

一瞬、祥の舌打ちが聞こえたような気がした。

私はエレベーターではなく階段に向う、少し頭を冷やしたかった。

踊り場の角にうずくまって手で顔を覆う。とても疲れた。

「お嬢様も大変だな……」

頭の上の方から冷たい声が降ってくる。声で誰かはすぐにわかった。

顔を上げると白衣を着た玲が立っていた。

「あなたは何者!?」

そう、今日車で送ってもらってからずっと持ち続けていた疑問。

私は玲の冷たい瞳を凝視しながら聞いた。玲はフッと鼻で笑う。

「知らない方が幸せな事もある。今日はお前を2回も助けたんだ、借りは返せよ!」

「どこの誰かもわからないのにどうやって借りを返せばいいのよ」

私はそう言って、頬を膨らました。

「いずれその時が来たらわかるさ」

玲はそう言うと、意味ありげに笑って姿を消してしまった。

今、そこにいたのに、一瞬で消えちゃった。いったい、アイツは何!?


前にもまして強い印象として、私の心の中に玲の存在が刻み込まれた。


私はゆっくりと階段を下りながら考えていた。

「いずれその時が来たらわかる」ってどうゆう事かしら?

白衣は着てたけど、全然看護師らしくないし、看護師があんな冷たい眼をしてるわけがない。

どうして私を助けてくれるのかしら。どうして……

借りって、それって弱みを握られてるって事になるのよね。それを思うと胸が痛い。

もう雲隠れしたい心境だわ。でもすぐに見つかるだろうな。結局首輪のついた飼い犬って事なのよね。私は一つため息をつく。

自分の持って生まれた人生を恨みたくなってくる。もっと普通の高校生がするような淡い恋をして、失恋して友達に泣きついてみたり。お金持ちじゃなくてもいいから自分の意思で動けるような自由が欲しかった。


あ〜あ、もう一階か、私はトボトボと歩きながらロビーへ向う。すると上原が椅子に座って待っていた。父の姿は無かった。まああたりまえよね。ここに来たお見舞いだって本当に心配して来たお見舞いじゃないだろうし。一応許婚である人への社交辞令ってところでしょう?

「父は!?」

私は一応、決まりごとのように聞いた。

「先に帰られました」

上原は表情を少しも変えずにそう言う。まあ答えはわかってたけど。

私は病院から出る。

上原は私の前に出て車のドアを開く。

「父がいない時くらい、私は自分でドアを開くわよ」

私はドアの手前で立ち止まってそう言った。

上原はその言葉に対しても何も言わず、私が車に乗るまで微動だにしなかった。

仕方がないわね。乗ってあげるわよ。

私は心の中でそう思いながら、車に乗った。ドアは閉まり車が発進する。


今日は本当に色々な事があった。

車は外灯の光の下を走って行く。


玲……不思議な雰囲気を持った人。いつのまにか感じていた恐さは消えていた。



玲のおかげで間一髪、沙羅は助かった。

沙羅は玲に対して恐さを感じていたが、その恐さもいつもまにか薄らいでいた。

これから沙羅と玲の二人はどうなっていくのか。


唯一、家から離れられる学校生活。

沙羅は友達の由香里の行動に不自然さを感じる。

由香里の後をつけて見たものは…



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