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愛しき殺し屋  作者: 海華
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雷鳴の中での乱闘

空気が色を変え、砂埃を混ぜたような茶色に染まっていく。

空には閃光が走り、辺りを青白い光で一瞬包む。次の瞬間空気を揺らし、建物、大地を震わせるように凄まじい音が空から落ちてきた。

雷だ!

音の凄まじさに一瞬、私達も車の後ろで乱闘している男達も視線が空へと向けられる。ただ一人だけ視線を変える事なく、淡々と眼の前の現実を見ている瞳があった。

玲の銃口が如月のこめかみを狙い、引き金を引こうとしていた。如月は一瞬気を取られた音に舌打ちして、自分に向けられた銃口に気付く。

また空に閃光が光る。玲が引き金を引くよりも、一瞬速く如月が玲の足を蹴って払った。

異様な厚みの雲の向こうで雷鳴が響く。銃声の音は掻き消され、玲の体はバランスを崩してボンネットの上に転び、体が滑り落ちそうになったその瞬間、玲の手が如月の服を握り締めて車の前へと二人で落ちて行く。

私の視界から二人の姿が消えた!

私は手が白くなるくらいに力一杯に拳を握り締めて、玲が動くたびに鼓動を高鳴るのを感じていた。

空からはひょうが激しく降って来ていた。

刑事さんは車のエンジンを掛け、急いでバックするとタイヤを空回りさせるように急発進する!

玲と如月が泥の上でもみ合っている横を、車は通り過ぎる。後部座席の窓から玲の姿を私は見ていた。どんどん玲が遠ざかって行く。

「玲! 刑事さん止めて! 玲が!!」

私は喉が痛くなるくらい大きな声でそう叫んだ。だけどその声は車の中にただ響くだけで、何の効力も無く、刑事さんはもの凄いスピードで車を走らせた。

私の胸の中で鼓動はさらに激しくなり、苦しくなりそうだった。

もうすぐで繁華街を出てしまう。私はただただ玲が遠ざかっていくのを見てるしかなかった。

「うわああ!!」

突然の刑事さんの大きな叫び声に私は驚いて前を振り返る! 右横から大きな黒い影が突っ込んできて、私達の車の横に思い切りぶつかって来た。

凄まじい音と衝撃が私達を襲い、私と母は左側に勢いよく飛ばされ、車の中でどこをどうぶつけたのかよくわからないけれど、痛みがあちこちに走って、一瞬動けなくなった。

私側のドアがいきなり開いたかと思うと、私の腕を掴んで力ずくで引っ張る手があった。

私は何が何だかわからない恐怖から逃げようと必死で抵抗して、車のドアを掴んだけど男の力に私の握力は敵うはずもなく、ひょうが降り注ぐ地面を引きずられるようにして、引っ張っていかれる。

「沙羅!!」

雷が鳴る中でも鮮明に聞こえてきた玲の声……私はその声に反応するように、自然と体が動き、私の腕を掴みあげている男の手に噛み付いた。

男は、短い声をあげて私の腕から手を離す。私は男の頭目掛けて蹴りを放つ。

だがその蹴りは虚しくも空を切り、男に一撃をあたえる事ができなかった。

私の中に一瞬焦りに近い気持ちが過ぎる。男がいない。

男の姿が消えた。と思った瞬間、私の数センチ眼の前に男の顔が現れた。

その顔に私は驚き、声が出なかった……もう二度と見たくない顔。そこには祥の顔があった。

祥は私の髪の毛を鷲掴みにすると、髪の毛を後ろ側へと引っ張る。そして口の中に何か白い小さな薬!? を入れた!

そして左の腕がまるで蛇のように私の左腕を絞め上げると同時に、右手で私の口と鼻を塞いだ。そのもの凄い力に私の力は無力だった。

私はありったけの力を振り絞って、必死に悶えて祥の体から自分を離す。そして何度も何度も口の中から唾と一緒にその何かを吐き出そうとした! だがもう遅かった……

泥と化した地面を目にしている私の視界に、祥の足が見えた。

祥の鼻で笑う声が頭の上で聞こえたような気がした。

私は頭に軽い衝撃を受けた後、髪の毛を引っ張りあげられるように掴まれ、そのまま持ちあげられる様に地面から立たされた。

「……即効性の睡眠薬の味はどうかな?」

祥が私の耳元で愉快そうにそう言った時、祥の仕草の中に一瞬スキを見つけた。

私はそのスキを狙って、祥の股間を思い切り蹴り上げた! 祥は私の髪の毛から手を離し、股間を押さえながら蹲った。

私は、全速力で逃げる。……え!?……足が……足が前に進まない。思うように足が動かず絡まるようにして私の意思の邪魔をする。

私は泥と化した地面の上に思い切り転ぶ……体中が燃えるように熱かった……からだが動かない……意識が朦朧としていく……

玲が泥にまみれながら、必死に如月と格闘してる姿が、薄れる視界の中で見えた。

助けて……玲……だ……め……

意識の遠くの方で、微かに中国語と日本語は激しくぶつかりあう声が聞こえていた……

意識が消えていく事を恐れて、必死に自分の頭に気合を入れても薬の威力は強く、逆らう事ができなかった。

私に誰かが触れる感触を、意識が途切れる寸前に感じる。

玲……

お母さん……

眼の前は闇で覆われ、意識は完全に切れてしまった。



沙羅の前に、あの男が現れる。二度と顔も見たくないと思っていた祥だった。

何故祥が現れたのか?

沙羅はこれからどうなってしまうのか?


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