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愛しき殺し屋  作者: 海華
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嵐の前の優しい涙

玲と離れてから今日で3日目、一日に何回かメールするんだけど、そのうち返事がくるのは一回くらいかな……自分から電話したい時はいつでもって言ってたくせに。返事が来ないと心配になっちゃうじゃない。

昨日の夜、玲から突然メールが来たと思ったら、明日、刑事を迎えにいかせるってメールだった。文章もそれだけで理由は一切書かれていなかった。

そのメールの通りに朝早くに刑事さんが迎えに来て、何処に行くのかもわからずに私は車に乗っている。いったい何処に連れて行くつもりなんだろう?

胡蝶姉さんが出がけに言っていた言葉もちょっと気になっていた。

「今日、だんなが迎えに来るんだろう? 十分に気をつけて行って来るんだよ」

胡蝶ねえさんが長い髪の毛を掻き揚げながらそう言った。

「十分に気をつけて」この言葉にかなり力が入っていたような気がするのは、私の気のせいだろうか……

曇り空の下を車は走る。雲の色がいつもと少し違うような気がした……なんとなく嫌な予感がしていた。

女街からかなり車を走らせてきたと思う。私にはよくわからない来た事の無い小さな繁華街……それもどちらかとゆうと元繁華街と言った感じで、街並みはかなり閑散としてどの店も営業してないような感じに見えた。

「ねえ、刑事さん、ここはどこ?」

私は後部座席から刑事さんにそう聞くと。刑事さんはルームミラー越しに私を見ながら優しく微笑んでいた。

「さあ、着いた」

刑事さんは一軒の廃ビルの前に車を止める。

私はドアを開けて車から降りる。足元には幾つものコンクリートの破片が落ちていた。

こんな所に、なぜ私を?

刑事さんは車から降りて、私の横に来ると私の頭を撫でた。

「この中に、あんたを待ってる人がいるらしい……」

刑事さんはそっと背中を触ると、軽く私の体重を前に押し出した。

いったい誰が待ってるって言うの?……玲?

私はゆっくりと廃ビルの中に入って行く。コンクリートの欠片やガラスの破片なんかも落ちていて、それを踏むたびに音がなり、無機質なコンクリートの壁に音がぶつかり響いた。

ガラスの入っていない窓から薄っすらと太陽の光が差し込んでいた。

がらんとした埃っぽい空間の中に、一つの影を見つけ、私は目を細めてその正体を探る。

ほっそりとしたその影が私の存在に気付いたのか、ゆっくりとこっちの方を向いて、私の方に歩いてくる。

太陽の光を受けて、その姿が露になる……母だった。

私はその場から動けなかった。心の中で今までの生活の記憶が新しい順に過去へと遡って行く。

母は帽子もかぶらずにそこに居た。ゆっくりと私に近づいて私の顔を見つめていた。瞳は揺れ、私の頬に差し出された手は震えていた。

母の手が私の頬を触る。細いその手は私の頬をそれはそれは愛おしそうに撫でていた。

私は母の顔を間近で見た。やけどの痕が顔半面に広がり、目は見えてないようだった。私は母の長い髪の毛を掻き揚げてその火傷の痕に優しく触れる。

手が震えた…

その痕から想像もできないくらいの痛みと苦しみが伝わってくる。私はその苦しさに耐え切れなくなってその場に座り込んだ。

母は座り込んでしまった私を優しく包むように抱きしめる。

「……ごめんね……ごめん」

母の声が私を包み込み、昔の記憶へと私を導いていく。母が私の傍に居てくれてた時の思い出が鮮明に蘇ってくる。

「…お母さん」

私の胸の奥から締め付けられた細い喉を通ってその言葉が、自然と絞り出た。胸が苦しくて苦しくてうまく涙が出ない。

私は母にしがみつく様に抱きついて泣いた。

「沙羅……沙羅……沙羅……」

母はそんな私を抱きしめて、何度も何度も私の名前を呼んでいた。


その時だった。中国語で大声をあげるような声が外から聞こえた。

母はその声に反応するように私の腕を掴むと、引っ張るようして私を立たせて、外の様子を見る。

ガラスの無い窓から見える光景は、10人ぐらいの男達が睨み合ってる様だった。

「十分に気をつけて」胡蝶姉さんの言っていた言葉を思い出す。

「こっちだ!急げ!」

刑事さんが慌てた様子で建物の中に入ってきた。私達はその声に促がされるように刑事さんの方に走り、外に出ると車に乗る。

それとほぼ同時に車のエンジンを掛けた、その時だった!

凄まじい音とともに車の上に凄い衝撃があり、車の上が少しへこんだ様に見えた。黒い影がフロントガラスを転がり、ボンネットの上に止まったと思ったら、その影は膝を付いてこっちを見ていた。

口元をニヤリと歪ませて、右目には黒い眼帯をした男だった。

「……如月」

刑事さんがその名前を静かに呟いた。

男は愉快そうに笑い、その左目が狙った獲物を見つけたように私を鋭い視線で見ていた。

寒気がするほどの気色の悪さを感じる。

母がその眼帯の男を睨むように私を抱きしめていた。

玲!……玲!……玲……

私は心の中で玲の名前を何度も呼んでいた。

その時、眼帯男の横の方から素早い動きで、黒い影が走りこんでくるのが見えたかと思うと、その影は車を前にして高く跳躍しボンネットの上に飛び乗った! その影は眼帯男に銃を突き付ける。それとほぼ同時に眼帯男も私の方に銃を構え銃口を向けた。刑事さんは眼の前の眼帯男に銃を向けている。

「……遅いぞ!」

刑事さんが眼帯男に銃を突き付けてる男にそう言った。男はその言葉に口元を歪め笑っていた。

「悪かったな」

静かで冷やかな、愛おしい声だった……玲の声……

「……銃を降ろせ」

玲の冷やかな声が聞こえる。その声に如月とかってゆう男ははニヤリと嫌な笑みを浮かべるだけだった。

刑事さんもその如月の仕草一つを見逃さまいと神経を集中してるのが、後ろから見ていてもわかった。

「お前等が引き金を引けば、俺の銃弾があのお嬢さんの額にめり込むだろうな」

如月は愉快そうに笑いながら、私を見ていた。

玲も刑事さんも如月も、一瞬でも動けばどの銃口からも銃弾が放たれる事を予想して、微動だにせずにいた。3人の緊張の中では呼吸する音さえも、挑発の要因になるのではないかと思われるくらいに、空気が張り詰めていた。







沙羅と母との間に出来た溝は埋まりつつあった。

胡蝶姉さんの言葉通りに事は転がり始める。如月が現われ。玲、刑事、如月、3人の周りの空気は緊張に包まれていた!


玲達はどうなるのか?


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