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愛しき殺し屋  作者: 海華
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同じ色を持つ男達

あのクソジジイをしとめそこなってから、何日たった?

誰かの依頼で動いてるわけではない……俺の過去に対しての報復のために、自分の気持ちを整理するためにあのクソジジイを生かしておけないと、そう思っていた。

だが、沙羅と出会い、初めて人に対して大切だと守りたいと思う気持ちが生まれてから、少し考えが変わってきたような気がする。

今は、自分の過去への報復とゆうよりは、沙羅をあのクソジジイから守りたい。そう思っている俺がいる……人間てのは不思議なものだな……


また一から準備を始めないとな……今度は失敗は許されない。綿密に計画を立ててしとめそこなわないように……

とりあえず、あのクソジジイの行動を監視して予想を立てなきゃ行けない。今度は確実にしとめないと、たぶんその次はもうないだろう……

今日はこのホテルにクソジジイが現れる……また国のお偉いさん達を悪巧みの相談でもする気らしい……

俺はトイレに誰もいない事を確認して個室に入る。ビニール袋から紺地に薄いグレーのストライプのスーツを出し、それに着替える。

脱いだ服は革ジャンだけをビニール袋に入れ、あとの服はコンパクトにたたんでアタッシュケースに詰め込む。そしてフレームが黒でレンズが長方形の眼鏡をかけ、髪の毛は後ろで束ね乱れ髪が一本も出ないようにする。

俺はその革ジャンの入った袋を、トイレの掃除用具をしまう場所にしまい込むとトイレから出た。大きな鮮やかな色の花をあしらった絨毯が敷き詰めてあるロビーを歩いていると、ちょうどホテルの前に黒塗りの車が止まり、中から上原、あともう一人の手下とクソジジイが出てくる。

俺は何食わぬ顔で、ロビーを横切り、窓際にある椅子に腰をかける。そしてコーヒーを頼んだ……

クソジジイがロビーに入ってくるのが見えた。俺は携帯電話を取り出して、合わせ鏡のようにして黒い画面に映るクソジジイを見ていた。

ロビーの中でクソジジイを待っていたのか、黒服の男達数人がクソジジイに駆け寄っていく……どうも議員達が雇ったボディーガードらしい。俺はその後をつけようと立ち上がろうとした瞬間、上原だけがこっちの方に歩いてきて、近付いてくる。

まさか?気付かれたか……

俺はいつでも行動に出れるように身構えながら、上原の様子を伺う。

上原は俺の席を通り過ぎ、俺の隣の席を一つ開けた席に座る。どうやら気付いてはいないようだった。ここであのクソジジイを待っているのか……

しかし、あの上原って男、いったい何を考えているんだ?

クソジジイの忠実な片腕かと思いきや、あのクソジジイに逆らう事までして沙羅の母親を助けた……そこまでする理由は何だ? もしもばれたらただじゃ済まない。命の保障だって無い。それなのにそこまでするってゆう理由は何なんだ?

考えられる事は二つ……上原が沙羅の母親に対して特別な感情を抱いている事。そしてもう一つは母親が話していた、他に愛する人がいた。それが上原か……

だが後者は考えにくいな……いつもクソジジイに忠実に動き回っている上原だ、とうぜん汚い事だってやってる。そんなヤツをあの沙羅の母親が好きになるだろうか……。

じゃあ……上原の方が……

俺はそんな事を上原の背中を見ながら考えていた。すると上原が携帯に出ながら立ち上がり俺の方に歩いてくる。俺は伏せ目がちに視線を外し、コーヒを一口飲んだ。

上原が俺の横を通り過ぎる……と思った瞬間、立ち止まる……ばれたか? 一瞬そう思った。

ピーンと張り詰めた雰囲気が流れ、空気が緊張し止まっているようだった。

すると空気が動き、俺の向かい側の椅子に上原がどっかりと腰をおろす。そして何も言わずに窓の外を見る。さあこれから何が始まる……俺の中の闇がそれをほんの少し楽しんでいるようだった。

俺は度の入っていない眼鏡越しに上原を睨みならが様子を伺う。

俺と上原の周りだけが時が止まり、空気が冷え切ったように感じた。

「……もうすぐ冬だな」

上原は外を見ながらそう言った。その表情はもの淋しげで、遠い記憶を辿るようなそんな感じに見えた。

「お嬢様はお前の所か?」

上原は俺の方を一つも見ずに、窓の外を見ながら淡々とそう聞いてくる……

「……なんの事だ?」

上原に何を言おうとそう思われているのは確かだろう、だからあえて俺はそう言った。

俺のその言葉に、上原は鼻で笑いながら目を伏せる。その仕草に少しだけ悲しみのような雰囲気を感じた。

自分の過去を噛み締め、自分の歩んできた道に対して馬鹿にしてるようにも感じた。

「お嬢様を一度受け入れたなら、最後まで責任を持てよ」

上原は俺の事を鋭い目で睨む。その視線は殺気とは少し違う雰囲気を持っていた。

「さあな……」

俺は言葉を短めに冷たく言う。その言葉に上原はため息混じりに軽く笑うと席を立ち、俺の横を何もせずに通り過ぎようとする。

「……あんたは誰の見方だ?」

俺はそう聞いていた。上原は俺の横で立ち止まる、俺の横の視界ギリギリの所でポケットに手を入れているのがわかった。

まるでそれは誰にも本性を見せまいと、自分の心に蓋をしてるようなそんな感じに見えた。

「……さあな」

上原は少しの間の後、そう一言だけ呟くように言って、俺の背中越しに姿を消していった。

俺の太ももを撃った時の上原と少し雰囲気が違って見えた。

冷たい淡々とした雰囲気はそのままだったが、あの時よりも優しい風を感じた……

俺は思わず上原の後を追うように後ろを振り返り、その雰囲気の残り香を肌で感じていた。

似ているな……上原に俺は自分と同じ色を感じた。

自分ではどうにもならない運命……それに流され、それでいいと思い生きてきた……

だが……本当は違う……

自分の求めてるものはもっと他にある事を……俺はそんな事を思いながらコーヒーを飲み干した。


俺の携帯の画面に一人の黒服の男が映る。さっきクソジジイの傍にいた男だ。

男はキョロキョロとしながら携帯を手にして、トイレへと入って行く。俺は席から立ち上がりその後を追うように、トイレへと向う。

トイレの中から声が響いてくる……俺はトイレの外で男から死角になる所からそれを聞いていた。

「……ああ……そうだ……港で……5日の午前3時に」

電話を切り、水の流す音が聞こえてきた。俺は足早にその場所から離れる。男がトイレから出てくるのを確認してから、もう一度トイレに入り、掃除用具の中から革ジャンの入った袋を取ると、ゆっくりとホテルから出る。


何かが起こる……

俺にとっていい事なのか? 悪い事なのか?……それはわからない

自分の中の闇がゆっくりと動き始めるのを感じていた……

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