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愛しき殺し屋  作者: 海華
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冷たい瞳の残像

「おい、着いたぞ……起きろ」

意識の遠くの方で声が聞こえてきた……私は重い瞼を無理矢理開ける。

もの凄く熟睡してしまった。起きるのが辛いほど深く眠ってしまうなんて。

私はそんなことを不思議に思いながら、背もたれから体を起こす。

目を擦り前を見ると、玲が私の方を向いて冷めた目で見ていた。

「着いたぞ」

その声に私は外を見ると、車の止まっている場所は私の家の少し手前だった。

どうせなら、家の前で止まってくれればいいのに。そうは思ったけど口にする事は出来ない。

私はドアを開いて外に出る。体がやけに重かった。

疲れているのかな。たしかに心も重くて、精神的にも疲れているような気がした。

玲は私が降りた事を確認すると、ニコリともせずに無言のまま車を走らせて消えて行った。


…あ…れ!? 私、自分の家が何処か話したかしら……

車が見えなくなった後にそんな疑問が私の中に生まれる。

ふに落ちない。おかしい。

私は自分のおかれてる状況を忘れ、その疑問の事ばかり一生懸命考えていた。

足はいつの間にか家の門の所まで歩いていて、顔を上げると門のところに設置してあるカメラと目が合った。

重い門が開く。わたしはため息をつきながら家の敷地の中に入って行く。一歩一歩が重く感じ、家の敷地に入る事自体が苦痛だった。


自分がしてしまった事が思い出され心に襲い掛かってくる。

もう過去には戻れない。警察に自首するしかない。

この手で人一人の命を奪ってしまったのだから……

恐かった。自首する事ではなく、人の命を奪ってしまった事が恐怖となって心を締め付ける。

手が震えた。


「お嬢様! どこに行ってらっしゃったんです? 外泊するなんて。旦那様がちょうどいなかったから良かったものの、もしもばれたら」

佐々木がその後の言葉を飲み込む。そう、その後の言葉は言うのも拒まれるくらいの言葉。

「監禁」その二文字も言葉が頭に浮かんできて脳裏にしがみ付いた。


佐々木は私の母が亡くなった後、私の身の回りの世話をするために雇われた。この家の中で唯一私の味方だった。


「そうそう、そう言えば蔵元様、怪我をされて入院したらしいですよ」

佐々木のその言葉に衝撃を受けた。

蔵元!? 私が階段から突き落とした相手の名前。

「蔵元って!?」

思わず信じられなくて聞き返した。

「もちろん許婚の蔵元祥様ですよ」

佐々木の言葉に安心するどころか、かえって恐怖が増して行く。

生きていた。祥が生きていた。

祥はもちろん私が突き落とした事を知っている。

でも佐々木がそれを知らないという事は、あえてその事を口にしていないという事。

いったい何を考えているのか。形の見えない恐怖が私を襲う。

「お見舞いはどうされますか?」

佐々木は私の様子がおかしい事に気付いたらしく、私の顔を心配そうに覗き込むようにして見つめる。

「どうかされましたか?」

「……あの人とは別れたのよ」

私は目を伏せ、力なくそう言った。

佐々木は恐怖を含んだような驚愕の表情を浮かべる。想像したとおりの表情だった。

「わかってる。何も言わないで。わかってるから」

私は佐々木から目をそらせながら、家に向って歩き出した。

佐々木が心配そうな表情で私の後をついてきてるのが、見なくても想像がついた。

佐々木が言いたかった事。祥との別れを父が許すわけがない。もしもそれでも父の言う事を聞かなかったとしたら、どうなるか。想像はつくけれど、想像したくなかった。

私は家に入り、階段を上って自分の部屋に向う。

まだ佐々木は後をついてきていた。私は自分の部屋の前で足を止め後ろを振り返る。

佐々木の表情は何かに怯えるように瞳が揺れていた。

佐々木も私同様、父の恐さを知ってる1人だった。

「あまり心配しないで。とにかく今は一人にして、お願いだから」

私の言葉に佐々木はため息を一つつく

「お嬢様、一つだけこの佐々木と約束してください。旦那様を怒らせるような真似はしないと、お願いでございます」

佐々木は揺れる瞳で、私の顔を見つめる。

私は佐々木に返事をする事なく部屋に入った。

ごめん佐々木、私には約束できない。私だって父は恐い、だけどいつもいつも父の権力を保つためだけの駒にもなりたくないのよ。

私はいったい何のために生まれてきたの?

父の役に立つためだけの存在? 違う……違うと信じたい。私は私のために生きてると信じたい。

私はベッドの上のうつ伏せに倒れ込んで泣いた。

祥が生きていた事に対しての恐怖。父に対しての恐怖。そんな恐怖に押さえつけられて言いなりになってる自分。

胸が痛くて痛くて、苦しかった。


え!? 一瞬、脳裏をかすめた、あの冷たい瞳。

私はベッドの上に慌てて起き上がった。

なんで……なんでこんな時にあの人の事を思い出すの?


玲のあの誰をも寄せ付けない冷たい雰囲気が、頭から離れなかった。

あの心に突き刺さった言葉、私の心の見透かしていた。


何も教えないのに私の家を知っていた。

そして、ずっと心に引っかかっていた、あの耐え難い眠気。

睡眠薬!?……コーヒーの中に何か入っていたのだろうか。


あの人は、いったい何者なのだろう。


私の中に強い印象として、玲の存在が残像のように心に残っていた。






沙羅が突き落としていたと思っていた蔵元は生きていた…だが沙羅の心の中には不安があった。

蔵元の性格を考えると、何かを企んでいそうな予感があったからだ…


沙羅は恐怖さえおぼえる父とはどんな人間なのだろうか?

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