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愛しき殺し屋  作者: 海華
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女達の中に身を隠す

あの中国語を話していた男の人達はいったい何者なのだろう?

たぶん私達を助けてくれたんだと思う……やっぱり母の知り合いなのだろうか……

私はその事が頭から離れなかった……だが今は、それを調べる術がない…いや無いわけじゃない、母に電話をして聞けばそれでいい事だけれど……だけど……

まだ心の整理が出来なかった……。


私達は意外な場所に来ていた。とゆうか女性が来るような場所ではない場所に来ていた。

女街……風俗店が軒を並べる一種独特の雰囲気を漂わせている街だった。

「悪いな……俺の信用できる人間が少なくては……ここならさっきみたいな事はないからな」

刑事さんはそう言って一軒の大きなストリップ劇場の前に車を止める。

「さあ、着いたぞ」

私はその言葉を合図に車から降りる。昼間のせいもあって目立たない光を放ちながら、ネオンが輝いていた。

刑事さんは劇場の脇の道を入って行く。私も慌てて刑事さんの後を追った。

薄暗い通路の奥に、古びれたドアが一枚。刑事さんがそのドアを軽くノックしてドアを開けた。なんとなくむせ返るような色々な香水が混ざり合ったような香りが漂っていた。

「よう!胡蝶姉さんはいるかい?」

刑事さんはそう声をかけながら、中に足を踏み入れていく。

中には女性が5人いた。みんなほとんど裸の状態でウロウロしていた。刑事さんも一応男だけど、その男が中に入っても動揺一つしなかった。

「あれ〜? だんな、今日は何だい?」

一番奥の方から紫色のシルクのガウンを着た綺麗な女性が顔を出してそう言った。

「悪いな……この娘を理由を聞かずに匿ってくれないか?」

刑事さんの言葉にその胡蝶姉さんと呼ばれた女性は、ゆっくりとしなやかに歩きながら私達に近づいてきた。

綺麗な長い黒髪に真っ赤な口紅が印象的な女性だった。

「……悪いんだけど、最近はこの辺も鬼柳のヤツがウロウロしていてね。物騒になってきてるんだよ。よっぽどの理由があれば仕方がないけど……とりあえず理由が知りたいね。」

そう胡蝶姉さんは言うと、顔で上へ!と合図して、私達を建物の2階へと案内する。細い階段を上がると意外にも下のゴチャゴチャした雰囲気とはうって変わって、2階は殺風景と言いたくなる位に物が無く広かった。

「適当に座りな……それで? さっそく理由を聞こうか?」

胡蝶姉さんはその場に胡坐をかいて座り込んだ、ガウンの裾からその白く綺麗な足が見えていた。

私は胡蝶姉さんと向かい合うようにして座る、刑事さんは窓の横に立って外の様子を伺いながら私達の話を聞いていた。

「あんた、名前は?」

胡蝶姉さんは煙草に火をつけながら、私の奥底まで見透かすような目で私を見つめる。

「……松永沙羅です」

私が名前を言うと、胡蝶姉さんは目を見開き、刑事さんのほうを睨むように見つめた。刑事さんは胡蝶姉さんの反応を予想していたかのように鼻で笑う。

「だんな! 松永のクソヤロウの娘をうちに連れて来たのかい? どう言う事だい?」

「俺にもよくわからん。お前も知ってるだろう? 殺し屋の玲に頼まれたんだ……事情は本人から聞けよ」

刑事さんの言葉に胡蝶姉さんは、私の方に視線を移し私の顔を見る。もの凄く怖い目をしていた。

……ここにも一人、松永恭次郎に恨みを持つ人間がいる。そう思った。

私は自分の存在に対する意味の深さを思い知りながら、恐る恐る口を開いた。

「……私は父である松永恭次郎に歯向かって、あの人の存在から必死で逃げたんです。そしてどうも私の身柄に賞金が懸けられているらしくて……」

私のその言葉に、胡蝶姉さんも刑事さんも私の方を同時に見て、次の瞬間、胡蝶姉さんは刑事さんを、刑事さんは胡蝶姉さんを見て、目を合わせながら驚いた顔をしていた。

「それで? なぜあんたは玲の坊やの所に逃げ込んだんだい?」

胡蝶姉さんは不思議そうな顔をしていた。この人も玲の松永恭次郎に対しての思いを知ってる人なのだと思った。

「玲は……私の唯一の救いだったんです……玲の事を思う事だけが……」

私の言葉に胡蝶姉さんは、煙草を吸いながらため息をつく。

「それで、玲の坊やがこの娘を助けてくれって言ったんだね?」

胡蝶姉さんは、刑事さんにもう一度念を押して聞いた。刑事は鼻で笑いながら頷く。胡蝶姉さんは煙草を手に気だるそうにため息とつく。

「しょうがないね……あの坊やには借りがあるし……引き受けたよ……その代わり、あんたにも働いてもらうよ!」

胡蝶姉さんは私に向かってそう言った。

は、働くって?……私は思わず、自分の胸元をそれ以上開かないように手で掴み閉じるように握り締めた。その様子を見て胡蝶姉さんは、私の頭を撫でながら笑う。

「……うちの踊り子達の食事の世話と掃除洗濯……やる事は山ほどあるよ……」

胡蝶姉さんは優しい笑みを浮かべてそう言った。

私はその言葉に胸を撫で下ろす……そりゃそうよね? こんな私の貧弱な体を見せたところで喜ぶ客なんかいるわけ無いものね……。

でも料理か……料理は苦手なんだよな……

「あの……料理は焦げた目玉焼きしかできないんですけど」

私は照れながら小さな声でそう言った……一瞬胡蝶姉さんはキョトンと私の顔を見て、次の瞬間、大きな声を立てて笑った。

その笑い声を聞いて、少し緊張していた心が開放されて、温かさが広がっていくのを感じた。


「噂をすれば影だな……」

刑事さんが窓の外を見ながらそう呟いた……どうゆう意味だろう?

胡蝶姉さんはその言葉に何かを予想して、その場を立ち上がり窓の所まで行くとそっと外の様子を見た。

胡蝶姉さんのその綺麗な顔が冷たく変わり、窓の外のものに対して冷笑する。いったい窓の外に誰がいると言うの?

「沙羅って言ったっけね……あんたは此処から動くんじゃないよ。下から何が聞こえようと下に降りて来ちゃ行けないよ」

胡蝶姉さんはそう言いながら階段を降りていく。私は胡蝶姉さんの言葉が気になって、答えを求めようと刑事さんの方の見た。刑事さんはそんな私を見て優しく微笑んでいた。

「……ちょっと前までは此処は昔からあった鬼柳とは敵対する銀流会ってのが仕切ってたんだがな……銀流会の頭がらやれちまってな……この辺一帯に鬼柳が出入りするようになっちまった。まあ胡蝶姉さんはここら一帯ではまだ力がある人だから、下手には手出ししねえだろうけどな。」

刑事さんは私にもなんとなく理解できるように話をしてくれた。

鬼柳……あの由香里の件の時に由香里に酷いことをしていたヤツ等……私は思わず怒りが込み上げて来て階段を駆け下りてぶん殴りたい衝動にかられたけれど、そこはこれからお世話になる胡蝶姉さんに迷惑を掛けるのも悪いから、ぐっと我慢をした。


こんな所にまで松永恭次郎の力が幅を利かせている。

私はあの人の手の中から出ることは出来ないのだろうか……


此処にもまた一人、松永恭次郎に恨みを持つ人間がいた。どれだけ自分の父が陰で色々な事をやり、それによってきづ付いた人達がいるかとゆう事をもい知らされる。


玲もついに動き出す……

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