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愛しき殺し屋  作者: 海華
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闇の中に現れた影

ススキの混じった茂みが音をたて揺れたかと思うと、月の光の下に一つの影が飛び出した!

え!?何?……私の体は緊張し、張り詰めた空気に身構えていた。

影の正体が月に照らされて現れる。狸だ! 小さな目をクリクリと輝かせて、私たちの前に立ち止まっている。

たぶん餌を求めて出てきたんだろうな……それにしてもビックリした。

いきなり出てくるんだもん。もしかして賞金を目当てに私を狙ってる人達が? なんて、思ってしまった。

狸は可愛い瞳で、私達を不思議そうに見ている。

可愛いな……。

玲の手が私の手を掴み、ゆっくりと引っ張り上げる。私はその力に体を委ねながらゆっくりと立ち上がった。

もう少しでいい所だった……かもしれないのに。残念。

玲の口が私の耳に近付いてくる?耳は弱いんだけど……

「沙羅……ここの逃げ道は入ってきた場所だけか?」

玲の微かな小さな声が耳に響く。

どうゆう意味? なんでそんな事聞くんだろう? 逃げ道?

「ううん、この公園を突っ切れば、反対側にも出れるし、そうそうちょうど月に向って歩けば、小さな小川に出て、夏にはハイ…んん!?」

そこまで話した時、玲の手が私の口を押さえる。何!?苦しい……

玲の顔を上目遣いに見ると。静かに目を閉じて、よりいっそう耳を澄ましているように見えた。

「1、2、3人か……」

そう聞こえないような小さな声で呟いたかと思うと、いきなり目を開けて、私の手を力一杯、痛いくらいに握り締める。

「走れ!」

玲の声が闇を切り裂くように響き渡った。私は玲に手を思い切り引っ張られる。その勢いに引きずられるように、私の足も動き出した。

なにがなんだかさっぱりわからなかった。いったいなぜ走っているのかもわからない状態で、私は走っていた。

月に向って走っている。そっちは小川の方向……

走ってるうちにやっと音の不自然さに気付く。私達がススキを掻き分けて走る音の他にも後ろの方から同じような音が追ってくる。

その正体が何なのかはわからない。だけれど追われているのは確かだ……

私達は全速力で走った、玲は足が怪我してるってゆうのにそれを感じさせないくらい速かった。まるで人間とゆうより、動物の本能を感じる。

ススキの茂みの間から月の光が鮮やかに見え、茂みから出たところに小さな小川があった、玲と私はその小川を渡ると向こう岸にある林に入る。

こっち側の林は公園の管理ではないのか、草木が雑然と生え、自由に伸び放題伸びた雑草達はちょうど身を隠すのに最適だった。

玲と私は息を潜めて、追っ手が姿を現すのを待った……

ススキが揺れ、出てきた……私には見たことも無い人達。一人は背が私くらいしかない男で、目が零れそうな位大きくて、ちょっ不気味な感じ。もう一人は背はそこそこ大きくて、ものすごく華奢で手足がとても長く感じた。後一人はハゲでいかつい顔をしていて、体も筋肉質で見るからに強そうな感じだった。

玲の舌打ちが横から聞こえる。どうも玲はこの3人の男達に見覚えがあるらしかった。

3人の男はキョロキョロと周りを見渡して、私達の姿を探しているようだった。月に雲がかかり夜の空間に薄っすらと闇のベールがかけられる。

3人の男達は周りに神経を集中させて小川を渡る。暗闇に水を踏み鳴らす音が響いていた。男達が私たちがいる林の方へと近づいてい来る。

玲は私の手を一瞬力強く握る。その力にどんな意味が込められているのか……

玲の横顔は、その3人の動きの細部にまで神経を集中し、見逃すまいと凝視していた。

男達が小川を渡りきり、様子を伺いながら林に近付いてくる。玲は近くに落ちていた拳大くらいの石をそっと掴むと、私達から見て右側、川下側へと放り投げる。石と草とが擦りあうような音がしたと思うと、小川の岸に敷き詰められている石と投げた石がかなりの勢いでぶつかる音が響き渡った。

男達はその音につられるように、川下の方を3人揃って一斉に見る。その瞬間、玲は私の体を後ろの方に押しのける。私は後ろに転がるように倒れた。

玲は私が倒れたと同時にその3人の前に飛び出し、まず一番チビのギョロ目の頬に硬く握られた拳を放つ。拳はギョロ目の頬にヒットし、一瞬後ろに2、3歩後ずさるがその場に踏みとどまる。それを確認した玲は息をする間も惜しむように、左足を軸にして回し蹴りを繰り出す。

ギョロ目はその速さに対応しきれずに、首の辺りに思い切り玲の回し蹴りを喰らって、石の上に倒れ込み動かなくなった。

そのギョロ目の姿を見ていた華奢男が、今度はナイフの取り出して玲に向ける。リーチの長さが長く、玲と華奢男はそれなりに離れているように見えたのに、今にもナイフの刃が玲に届きそうだった。

あ! 後ろ! 玲の後ろからハゲ坊主が襲い掛かり、玲の体を羽交い絞めにする。玲はその男の額に自分の後頭部を思い切りぶつけた。もの凄い鈍い音が響き渡る。だがハゲ坊主はビクともせずに玲を羽交い絞めしていた。そこへ華奢男がナイフを振りかざして、襲ってくる。

「駄目〜!」

私は思わず大声で叫んでいた。華奢男もハゲ坊主も一斉に私の方を見る。ハゲ坊主は宝探しの宝でも見つけたような表情を浮かべていた。虫唾が走る笑顔……

「沙羅、逃げろ!」

玲の声が響き渡る……でも私は逃げなかった。玲を置いて逃げられない。

私は林の中に落ちていた棒っ切れを手に握ると、飛び出しハゲ坊主の頭目掛けて振り降ろす。

ハゲ坊主は逃げようともしなかった。鈍い音がして、棒っ切れが脆くも無残に折れてしまう。

私は咄嗟に手に握っていた棒の切れ端をハゲ坊主の肩目掛けて突き刺す。

嫌な感触と共に肩に傷がつく。

ハゲ坊主は一瞬、顔を歪めて玲から手を離す。そしてニヤリと笑うと目を見開いて、私の頬目掛けて分厚い掌を放ってくる。その速さに私はよける事ができず瞬時に体を硬くした。

「うっ!……」

男の呻き声が聞こえて静かに目を開けると、目の前ではハゲ坊主が顔を歪めていた。

ゆっくり目線を下にずらすと、玲がハゲ坊主の下腹にさっき折れて飛んだもう一方の棒の切れ端を突き刺していた!

ハゲ坊主は玲の髪の毛を鷲掴みにすると、吹っ飛ばすように自分から引き離し、その場に膝を付いた。

残るは後一人、華奢男。私は華奢男の方に目をやる……いない!? そう思った瞬間、強い衝撃に押されて私は石の上に転がる。私を押したのは玲だった。

華奢男の投げたナイフが石の上を滑るように甲高い音を響かせて飛んでいく。

玲の手が私の腕を掴みあげて、自分の方に引き寄せるとそのまま私の体を引っ張るようにして動く。華奢男が次のナイフを投げてくる。

玲に引っ張られた状態でハゲ坊主の後ろへと回り込み、ハゲ坊主の体を盾の代りにした。

ハゲ坊主の体の向こうから鈍い音が響いてくる。

寒気の走る嫌な音だった……

玲はその音がしたと同時にハゲ坊主の前に出て、ハゲ坊主の体に刺さったナイフを抜くと華奢男に向けて投げた。お互いの間を二つの光が交差する。

鈍い音が聞こえて、玲がその場に崩れ落ちて倒れ込む。まさか……玲!?

華奢男がゆっくりと玲に向って歩いてくる。月が顔を出し白々とした光に包まれる。華奢男のちょうど心臓の当たりにナイフが刺さっていた。

華奢男はそのまま全体重が落下するように、引力に吸い寄せられるように倒れ込んだ。

「……玲?……玲!?」

私はハゲ坊主の背中を掴んでいた手を離し、倒れ込んでる玲に駆け寄る。

玲は太ももを押さえながら苦痛に顔を歪めていた……華奢男が投げたナイフは玲の頬をかすめてハゲ坊主の硬い腹に刺さっていた。ハゲ坊主は青い顔をして石の上に転がっていた。

「大丈夫だ……太ももの傷がまた開いちまった……」

玲はそう言いながら、弱々しく微笑んでいた……。

月明かりに照らされる中で私は玲を抱きしめた。

生きていてよかった……心からそう思った。





闇の中に現れたのは、玲の知っている顔だった。

玲は沙羅を助けようと、その3人と戦い、なんとか倒す事が出来た。

この3人が狙っていたのは、沙羅の存在だとゆうことはハゲ坊主の表情から見てとれた。


これからの玲がとった選択とは?

そしてまた喫茶店に現れた黒ずくめの女……ローズの香りの正体とは?


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