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愛しき殺し屋  作者: 海華
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血だらけの帰還

玲が帰ってきたら、私の手料理食べさせてやろうと思って、目玉焼きを焼いてみた……見事に真っ黒焦げになってしまった。

きっと怪我で調子が悪かったんだと思う……なんてわけのわからない言い訳をしてみたりして。

玲に怒られそう……。

まだフライパンからモクモクと黒い煙が立ち上っている。部屋の中は焦げ臭い匂いで一杯……どうしよう……そうだ、少しの間なら扉を開けておいても大丈夫だよね?

私は思いつくまま扉に向かう。その時、外の階段を何かが落ちて扉に何かがぶつかる鈍い音が聞こえてきた……何!?私はドキドキしながら外の様子を伺い、扉を開けた……

え!?玲!?

扉の前に玲が呻き声をあげながら倒れていた……いったいどうゆう事!?

私は慌てて玲の体を持ち上げようとした。だけど重くてなかなか持ち上がらない……

するといきなり玲の体重が軽くなる!?玲が顔を歪めながら自力で立っていた。

「玲……大丈夫?」

私は玲のそのあまりにも痛々しい姿に声が小さくなる。玲は何も言わずによろめきながら部屋に入っていった。

部屋の明かりに照らされて、玲が血だらけだとゆうことにやっと気付いて私は言葉を失う。

玲は着ていた革ジャンを脱ぎ、銀色の入れ物に水を入れてお湯を沸かし始めた。そして初めて私の焼いた目玉焼きに気付き動きが止まる。

「……ごめんなさい」

私は玲の言葉が出るよりも先に謝った。玲は弱々しく鼻で笑うだけだった。

玲の肩からおびただしい血が流れている……どうしたの? 何があったの? 心の中はそんな玲に対しての質問で一杯だったけど、口に出す事が出来なかった。

玲は引き出しから黒いケースを取り出すと、蓋を開ける。中には手術に使うようなメスだとかハサミが並んでいた。それを煮だったお湯の中に入れる。

もしかして煮沸消毒!?ここで怪我の治療するの?

「……沙羅……向こうに行って耳を塞いでいろ」

玲の静かな淡々とした声が響く……

どうゆうこと? 私には玲の言葉の意図がわからなくてその場で立ち尽くしていた。

「早くしろ!」

玲の静かだけど威圧的な声が飛んできて、私は足を引きずりながら奥の部屋に行くと、ベッドの上で耳を塞いで蹲った。

台所の方で玲が動く気配を微かに感じる……

そして次の瞬間、耳を塞いでいても聞こえてくる玲の絶叫! 声をあげて痛みを逃がしている。そう思った。あまりの凄さに私は思わず耳を塞いでいた手を離し、玲の所へと走っていた。

腰の痛みなんて感じなかった。

銀色の皿の中に銃弾が転がる甲高い音が聞こえる。

玲の額は冷や汗でじっとりと濡れていて、頬を伝って汗が流れ落ちていた……

乱れた髪の毛の向こうに痛みに歪む顔が見える。

私は傍にあった脱脂綿を握り締めると、玲の肩から次から次に流れてくる血を拭いた。

そんな私を玲が見つめる。そして今までに見た事ないような深い悲しみを感じる笑顔を見せる。

「……沙羅……手が汚れる……」

玲のそんな言葉なんか耳に入らない。少しでも玲の役に立ちたかった。

私の血を拭く手に玲の手が伸びてきて、手を握る。

「これは俺がやる……」

玲はそう言うと、台所の鏡を前に消毒薬に浸した脱脂綿で傷口を綺麗に消毒して、自分で縫合し始める。驚くぐらい手際がよくて、こうゆう事に慣れている事がすぐにわかった。

縫合し終わると、はさみを手に取り自分の履いてるパンツを切り裂き始めた。あの時の傷跡が露になる。傷口は開き血が流れ出ていた。

玲は自分でまた消毒をして縫合しなおす。あっとゆう間に全てを終えてしまう。

消毒をしたり縫合したりする時だって、かなりの痛みを伴うはずなのに眉毛一つ動かさなかった。それだけ痛みに慣れているんだろうか……

玲は私の方を向き、私を見つめるといつものように冷たく鼻で笑う。

「包帯を巻いてくれるか?」

玲はほんの少しだけ優しさを含んだ声でそう言った。玲が私に何かを頼んでくれた事が嬉しかった。

私は手元にあった包帯を握ると、玲の肩と太ももに包帯を巻く。その都度玲の顔が色々な角度から見えた。年齢の割に大人びた顔、きっと沢山残酷な事をしてきたんだろう……それなのに父とは違って、自分のやってきた事に自分自身が悲しみを感じているように見える。そうならざるをえなかったような……そんな状況が玲にはあったような気がする。

包帯を巻き終えて私が立ち上がると、玲は深く深くため息をついた。全ての息が無くなるんじゃないと思うくらい……

そしてそのまま崩れるように、机の輪郭をなぞって床に倒れ込んだ!

え!? 私の心臓が痛みを伴うくらいに鼓動を打つ!

「玲!……玲!?」

私は玲の体を揺する。でも反応が無い。心臓に耳を当ててみた……よかった生きている。ちゃんと息もしている。

玲は気を失ってるだけだった……。

ふっと気付くと、私は泣いていた……なぜ涙が流れるのかわからなかった。

ただ、玲のこんな姿を見ていると胸が張り裂けそうになった。息苦しいぐらいに胸が痛かった。

私は玲の背中に額をくっつけるように床の上に横になった。

少し早いリズムで心臓の音が聞こえいた。



血だらけで帰ってきた玲を見て、沙羅は息が苦しくなるくらいの悲しみを感じる。

沙羅が玲の怪我の治療を手伝おうとした時、玲は優しくそれを拒んだ。


玲と沙羅の二人の心が近付いて行く…つかの間の安らぎか!?

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