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愛しき殺し屋  作者: 海華
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絵本が破れてた理由

私の中に生まれた小さな疑惑がどんどん大きくなって膨れ上がっていく。

「……ねえ、上原聞いてもいい?」

私の声は震えていた。心の中の疑惑に対しての恐怖で震えていた。

お願いだから、この疑惑は私の思い込みであって欲しい、取り越し苦労であって欲しいと願った。

私の問いに上原の表情は硬く口を閉ざしたままだった。

「そう、じゃあ父に直接聞くわ」

私の言葉に上原の表情が変わり、私の両肩を掴みながら口を開いた。

「お嬢様お願いです。それだけは止めてください!」

上原の目は私の瞳を真っ直ぐに見つめ、強い口調で私にそう言った。

わかってしまった。私のもった疑惑は確信に近いとゆう事が。上原がこんなに必死に私を止めるとゆう事は、確実にそうゆう事じゃないの、

言葉にするのが怖かった、心が震えて言葉になかなか出来ない。

「……父が母を……殺したの?」

私は震える声で言った。その一言を言葉にするのにかなりの精神力を費やしたような気がした。

「……お嬢様、その答えを私の口から申し上げる事はできません。ですが貴女の命を守る事が奥様と交わした最後の約束なのです。ですから今は我慢して下さい」

上原は一言一言、胸の奥底にしまい込んでいた思いを搾り出すように口にした。

母との約束、そうかここ最近の上原の言動の謎が解けた。

私が父の言いなりの人形から自分の意思を持った人間に変わってしまったから。上原はそれを心配してそう言ってくれてたんだ。だけど父にそれを見透かされても困るから無表情な自分を演じる。

「自分の身を守るためには演技も必要」この言葉は私に対してだけじゃなく、自分に対しても言った言葉なのかもしれない。

私は上原の後ろに母の影を見たような気がした。

母は父に殺される事を予想していたのかもしれない……あの絵本のページが破れていたのはやっぱり母からのメッセージ。私に何かを伝えるためだったのかも。


父が母を殺した……私の中にその現実は深く深く刻まれる。

心臓は激しく脈打ち、痛みさえ感じるほどだった。

私はゆっくりと立ち上がる。何も考えられない思考の中で、とにかく家に帰らなきゃ……そう思っていた。

床には祥は失神したまま転がっている。玲は何処に行ったんだろう。そんな事も頭の隅っこにはあったけれど、今は父と母の事で頭が一杯だった。

私は部屋を出る。すれ違いざまに黒服の男達が部屋に入ってきた。

「お嬢様!」

上原の声が後ろ側で聞こえる。だけどその声も遠くのほうで聞こえるような、そんな感じだった。

おかしいの。歩いていて変な感覚に襲われる。まるで雲の上を歩いているような、歩いてるはずなのに歩いていないような感覚だった。

やっとの事でエレベータまでたどり着く、上原が私の横に来ると腕を組むように体重を支えてくれる。

私達2人はエレベータに乗り1階まで下がっていく。

心臓が痛い……呼吸しづらい……苦しい……

頭も痛くなってきた。心臓がさっきにもまして激しく動いている。

エレベーターが一階に着くと私は急いでエレベータから降りた。

「ちょっとトイレに行ってくる」

気持ち悪くて、吐きそうだった。

「大丈夫ですか?」

上原の声もそっちのけで、私はトイレへと駆け込んで個室に飛び込み、全てを吐いた。

胃の中の物も、今感じてる思いも、そして父とゆう存在も、全て吐いた。

「大丈夫か?」

頭の上から声がした。聞き覚えのある声……冷たく静かな声……

私は個室の壁にもたれながら上を見る。オレンジ色のライトの光の中に玲の顔が見えた。

本当に何処にでも現れるのね。玲の出現に心が凪いでいくのを感じた。

「……スケベ」

そんな言葉を言えた事に私は苦笑する。不思議と心が穏やかになる。わかんないけど涙が頬を伝って流れる。何故だろう? 涙が止まらない。

「俺と一緒に来るか?」

玲は悲しい表情でその言葉を口にした。

私は驚いた。一瞬耳を疑う。

玲の言葉は私の涙腺を容赦なく刺激して、涙はまるでダムが決壊したように流れ出る。

喉の奥が締め付けられるように痛み言葉も出ない……胸が苦しくて心臓が悲鳴をあげている様だった。

嬉しいのに……こんなに苦しい……


私は、玲のその言葉に頷く事が出来なかった。

家に帰らなきゃ……私の心は強くそう思って揺るがなかった。私は静かに首を振る。

玲は優しく微笑んだ。今まで見たことのない顔だった。

「森下町のヤブ医者を探せ」

玲はそう言うと、一瞬にして姿を消してしまう。行っちゃった……

森下町のヤブ医者。私はうわごとのようにそう呟いた。

はぁ…私はため息とともに脱力感に襲われる。体がだるい。疲れた…

天井を見上げる私の目の前でオレンジの光がグルグルと回る、そしてスパークして破裂し、一瞬にして真っ暗になっていく。

真っ暗な暗闇の中、遠くの方で私の事を呼ぶ上原の声が聞こえたような気がした。


上原の態度を見て、沙羅は自分が持っていた疑惑が確信へと変わる。

絵本のページが破れていた…あれは母親が沙羅に残したメッセージだった…。

沙羅の心は酷く傷つき疲れていた…だが父親に対しての気持ちから家に帰らなければと強く思う。


沙羅は父松永恭次郎を前にして、どんな行動に出るのだろうか!?


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