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愛しき殺し屋  作者: 海華
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愛は弱みとなる

あれ……誰の声?……聞き覚えのある……上原の声?

私は慌てて身を起こした。

此処は?……冷静になって周りを見渡すと、私は車の中にいて、運転してるのは上原だった。

……思い出した。

犬に襲われたんだ。それで後ろに倒れて頭をぶつけてそのまま意識が飛んじゃった。

噛まれそうになった瞬間、銃声の音が聞こえたような気がする。きっと上原が犬を撃ったのね。

はぁ……結局振り出しに戻ってる。

「気がつかれましたか?とりあえずそのままでは家に帰られません。そこの紙袋の中に洋服と靴が入っています。それに着替えてください」

上原はミラー越しに私を見ながらそう言った。

もしかして私を庇ってくれてるの?

確かにこんなボロボロの状態で家に帰ったら父に何を言われるか、それじゃなくても絶対に何か言われる。もしかしたら何かとんでもない事になるかもしれない。

嫌な予感がする。


上原は車から下りるとドアを閉め外に立っていた。

紙袋の中には綺麗な淡いピンクのワンピースと靴が入っていた。

私はそのワンピースに急いで着替える。

「上原、着替えたわよ」

窓を開けて、私がそう言うと上原は車に乗り、家へと車を向わせる。


車は家の門を通り、玄関の前で止まった。

「お嬢様……」

いつになく上原の声が低く重みがあった。

「あの殺し屋とどんな関係なんです?」

上原からの問いに、私は息を呑む。ばれていた……父にも知られてる?

「何が聞きたいの?」

私は上原をたぶん睨んでいたと思う。

「犬達はあの殺し屋の匂いを追っていた。そしてなぜかお嬢様がいた。しかも犬を追い払おうと必死だったじゃないですか?」

「たぶん、上原が想像してる通りよ」

上原にはこれくらいの説明で十分だと思った。私から答えを聞く以前に察しが付いてるはず。

「……そうですか……いいですか? この事は私は聞かなかった事にします。もしかすると総帥は気付いているかもしれません。言葉には十分に気をつけてください」

上原のこの言葉に私は驚いた。だって今まで上原は父に対して忠実だと思っていたから。

「なぜ? なぜ私にそんな事を言うの?」

「お嬢様、ご自分の身を守りたいなら演技をする事も大事ですよ。そして時を選ぶ事です」

上原は私の方を見て、無表情のままそう言った。

どうゆう意味?……だけど上原が父に対して何か思惑があって傍にいる事はなんとなくわかったような気がした。


上原が車を下り、後部座席のドアを開く。

私は車から降りた。そこで大きく深呼吸する。

眼の前のドアを開いた時、その向こうに何があるのか。

想像すると怖くて足が前に進まなくなってしまう。だけど、今は進むしかない!

立ちはだかる大きな壁を壊さなければ、本当の意味で前には進めない。

私はゆっくりと一歩踏み出した。

ドアを開く。いた!父が私を待ってるなんて……何か言われる。

上原の「演技をする事も大事」この言葉が浮かんだけれど、やっぱり私はそこまで器用にはなれないらしい。

私は父の横を何も言わずに通り過ぎようとした。その時、父の杖が私の行く手を塞ぐ!

「今までどこにいた?」

父はしゃがれた重みのある声でそう言った。私は唇をキュッと結び真っ直ぐ前を見ていた。

「まあいい、お前にはこれから行ってもらいたい所がある」

父は口元を歪め、嫌な笑みを浮かべていた。これから先に起こり得る事を想像してなのか、その表情は楽しそうにも見えた。

「上原、沙羅を例の場所へ案内しろ」

父はそう言うと私に対して冷たい笑みを浮かべる。

「お嬢様、参りましょう」

上原がそう言って私の肩に手をかけた。

私は今からどこに連れて行かれるのか? どうなるのだろう? 何もわからない事への恐怖を感じる。私にとって喜ぶべき事ではない事が待っているのは確実だと思った。

「沙羅、愛する者を作ればお前はどんどん身動きが取れなくなるぞ、気をつけろ」

父のしゃがれた声が後ろから聞こえた。その言葉の後、父は愉快そうに笑っていた。

私と玲の事に気付いているのか? 父の言葉はそんな事を想像させるものだった。


私は車に乗る。私にとって苦痛でしかない場所へと車は向かっていく。

「ねえ上原、私を逃がしてくれない?」

私は上原の後ろ姿に向ってそう言った。さっきの上原の態度から見て、私の中にもしかしたらって気持ちがあったから……だけどその気持ちはすぐに崩れ去ってしまう。

「それはできません。私は総帥の下で働いているのです。総帥の言葉には逆らう事はできません」

上原はきっぱりとそう言った。

何なのよ。味方なのかと思ったら、やっぱり違うのね……


心の中に心細さを感じ、落ち込んでいく自分がいる。

佐々木がいない今、私の味方は誰一人としていない。淋しい……


私は流れていく景色を、ただただぼんやりと見つめていた。






沙羅は上原に助けられ、家に戻った。

沙羅の家出はたったの4時間程度で終ってしまった。

上原の言葉に、もしかしたら味方?と思う沙羅だったが、その考えは甘かった。


沙羅の向った場所はどこなのか?


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