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愛しき殺し屋  作者: 海華
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告白と困惑

まったく、この俺が失敗してしまった。

太もものにはピストルの弾丸が残っている。あの上原とかってやつはさすがあのクソジジイの片腕だけあって、腕も立つってことか。


もう一つの失敗はこのお嬢さんに肩を借りている事だ。

俺はお前の父親を狙ってる男だぞ、それなのになぜ俺に力を貸す?

もしかしたらこれは罠か!? 俺を安心させといて最終的には俺を陥れようとしているのか?

自分の中に色々な思惑が渦巻く。

ふと俺の横にあるお嬢さんの顔を見ると、前を真っ直ぐに見つめてその表情は必死だった。

なぜ、こんな俺のためにここまでするんだ!? 俺なんかのために。


ポツ……ポツポツ……ポツ……

こんな時に雨か。

雨は次第に激しさを増し、本降りになっていった。

体は雨に濡れ、重くなっていく。

この次期の雨は冷たく感じるな。

お嬢さんの髪の毛が濡れて、俺の頬に当たる。冷たかった。

耳元でハアハアと荒い息遣いが聞こえる。疲れてきたのか?

寒さは人の体力を奪っていく。

「少し休むか?」

そんな言葉が自然と出ていた。

「足が痛む?」

心配そうに覗き込んでくる瞳に驚いた。俺の事を心配してるのか?

「お前、おかしいんじゃないのか? 俺はお前の父親を殺そうとしたんだぞ」

俺の言葉に、このお嬢さんは微笑みやがった……どこか悲しい雰囲気を持つ微笑だった。

「そうね」

その一言だけで、後に言葉は続かなかった。この親子には何かがあるんだろうと俺は思った。

俺はそれ以上何も聞かなかった。聞く必要のない事だろうから。


俺達は川から上がって土手の窪みに腰をおろした。

満足な雨宿りの場所ではなかったが、とりあえず雨はしのげた。

怪我した部分に雨がポタポタと落ちる。

おい!? 何を!?

お嬢さんの行動に俺は衝撃を受ける。

切り裂いて短くなったドレスの裾をめくり上げ、俺の太ももの怪我に雨が当たらないように傘の様に広げる。

「やめろ……やめろ!」

なぜ自分が激しくそこまで言ったのかわからない。とにかく俺にとって鬱陶しかった。

お嬢さんは、俺の声に少し怯えていたように見えたがやめようとはしなかった。

「いいかげんにしろ!」

俺はお嬢さんの腕を掴んで、自分の方に引っ張る。

お嬢さんの体が俺の胸の中へと倒れるようにもたれかかった。雨に濡れた体が冷たかった。

こんなに体が冷たくなってる……まったく、面倒くせぇ女だ。

「お前……なぜ俺にそこまでする?何が目的だ?」

俺の問いに、お嬢さんは体を起こして俺を真っ直ぐに見つめた。

「貴方が好きだから」

は!? 俺は耳を疑った。今、確か俺の事を好きって言ったか!?

笑わせてくれる……何、冗談言ってるんだよ。俺は馬鹿馬鹿しくて鼻で笑った。

「私は本気よ。じゃなきゃ殺し屋と一緒にこんな所にいないわ」

お嬢さんはそう言いながら、微笑んだ。

俺は自分の頭に手をあて、大きくため息を付いた。

お嬢さんのそんなお気軽な恋愛に付き合う気はないんだよ!

抑えられない怒りに似た感情が、俺を暴走させる。

自分の中に訳のわからない苛立ちと、怒りがこみ上げて来るのを感じた。

俺はお嬢さんの両肩を力強く掴むと、石でゴツゴツした土手にお嬢さんの体を押し当て、着ていたドレスを無理矢理引き千切ろうとドレスに手をかける。

悲しい瞳だった……とても悲しくて……そして優しい瞳で俺をただ見つめている。

なぜ抵抗しない!? なぜだ!? 何だってんだ!?

俺の中で、自分にも把握できない感情が動いている。

なぜこんなにイライラしている……この女、俺のペースを好き勝手に乱してくれる。

俺は何がしたい!? 何をしようとしていた!?……情けない。

お嬢さんからそっと手を離し、俺は俯いてため息をついた。


フワッと俺の髪の毛を触れてきた。

驚いて顔を上げると、お嬢さんが俺を見つめていた。

その瞳は優しく温かい、今まで俺の周りには存在しなかったものだった。

「俺はやめとけ……」

こんな俺を好きになるのは止めろ。ろくな事は無い。

あんたは常に光輝いた世界で生きていく人間、俺は常に闇の中にしか身を置けない人間

違いすぎるんだよ……住む世界が……。

俺の言葉に、お嬢さんはただ微笑んだ。そして俺の肩にもたれかかって来る。

「な!?……だから」

そう言いながら肩をどけようとした。

「少しの間……このままで……少しの間だけ……」

お嬢さんはそう言って目を閉じる。俺の動きは止まる。少しの間だけ……その言葉が頭にこだました。

それを受け入れた自分自身に俺は驚いていた。

そしてそんな自分になぜか心地よさを感じていた。


雨は小降りになり、もう少しで止みそうだった。

自分でもよくわからない感情。抱いた事のない感覚に俺は戸惑っていた。


沙羅は玲に自分の気持ちを伝える。

玲はその告白を受けて自分の中の苛立ちを押さえる事ができなかった。

沙羅の悲しい瞳が玲の心に何かをもたらす…。


雨上がりの中、二人の心はさらに近付いて行く!?

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