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愛しき殺し屋  作者: 海華
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闇の中で近付く心

私は玄関のフロアーを通って奥の台所へと急ぐ。外の騒ぎで運よく台所には誰もいなかった。

庭では女性の泣き声や、男性の怒鳴っている声が混ざり合い、パニックになってるのが手に取るようにわかった。

「総帥!大丈夫ですか?」

そんな上原の声が聞こえてくる。父に何かあったのかしら?

「わしは大丈夫だ……お前はあのクソ生意気な坊主を追え!絶対に生かして返すな!」

父のしゃがれた怒鳴り声を私は息を潜めて台所で聞いていた。

「生きて返すな!」父のその言葉が私の頭の中に響いた。

私は音を立てないようにして、台所にあった包丁を手に裏口から出る。裏庭も玲を探す人たちで騒がしかった。

私は手に持っていた包丁で、ドレスの裾をザクザクを切る。ふと足元を見ると何も履いていなかった。でもそんな事どうでもいい。今は玲を探さないと……。

私は昔よく遊んでいた裏庭の繁みの中へと入って行く。

玲が逃げ込んだのが家の横側だったんだから、私は感だけを頼りに繁みの中を動く。

父の手下やボディーガードが探している中、私も見つかるわけにはいかなかった。

あった……ここだ!

玲の事だ、敷地内にいる事は考えにくい。きっともう外に出てる。

私は小さい頃、よく抜け穴として利用していた穴を見つけてそこから出た。出た所はうっそうとした森の中。

私の家は国立の森林公園に隣接していた。

ぜったいにここに逃げ込んでる。たぶん撃たれてると思うから、そう遠くへは行ってないと思うんだけど。

とにかく私は繁みから遊歩道に出た。月に雲がかかり雨が降りそうだった。

何処だろう……私は足を止めて耳を済ませる。

すると繁みの中から物音が聞こえてきた。そっと近づいてみると、そこには……

キャッ! ヤダ!

私は思わず逃げるように小走りでその場から離れる。

だって、だって、夜の公園にはよくある光景かもしれないけれど……顔が熱くなる。

私が見たものは、茂みの中に蠢く男女の姿だった。


どのくらい走っただろう……そう思いながら耳に神経を集中して歩く。

あっ! ドタッ!

私は何かに躓いて転んだ、膝をおもいきり打ち付けてしまった。いった〜い。

「……う……ん」

微かに聞こえた呻き声、私が躓いた所を良く見ると、そこには足が見えた。

私は打ちつけた方の足を引きずりながら。ゆっくりと様子を伺いながら近付く。

月が隠れているせいでよく見えない。

「玲……なの?」

私は小さな声でそう聞いた。

「何しに来た?」

微かだが、それは確かに玲の声だった。

「撃たれたの。どこ?」

私は玲の体に触ろうとした。すると玲が私のその手を振り払う。

「触るな!」

弱々しい声だったけど、威圧的で近寄りがたい感じのする言い方だった。

でも私は玲の事を放っておけない。

私は玲の拒絶にも負けずに、撃たれた所を探す。

「う!」

玲が短い呻き声を上げ、太ももを押さえた。

そっとその部分を触ると、手にベットリと血がついた。かなり出血している。

私は持っていた包丁でドレスの裾をさらに切り裂いた。そして玲の怪我をしてる部分にきつく巻き付け縛り上げる。

「クッ!……つう……」

玲の呻き声が、私の胸に突き刺さるような気がして痛かった。

遠くの方で犬の声が聞こえる。しまった! 早くしないと!

家には番犬用に飼ってる犬が5頭いる。優秀すぎて人間を噛み殺す事なんて簡単にやってのけてしまう犬達だ。

私は玲の腕を引っ張り上げるようにして立たせる。

玲は私の手を振りほどき、何も言わずに足を引きずりながら繁みの中へと消えて行こうとする。私は必死でその後を追った。

「ついてくるな!」

玲の声が響く。

「気にしないで、借りを返すだけよ。あなたが言ったのよ。来るべき時が来たらわかるって! 今がその時だって私は思うけど」

私の言葉に、玲は何も言わずに前へ進む。

何も言わないって事は、ついて行ってもいいって事よね? 私は勝手にそう判断して玲に付いて行く。

茂みはだんだん、下り坂になっていく。微かに水の流れる音。

そして急に視界が開けた。目の前に川が流れていた。

「まだ歩ける!?」

「ああ」

私は玲に肩を貸すようにして二人で歩く。

川の水の中を川下へと進む。もしも犬が追ってきたとしてもここで匂いが消える。

私達は闇の中をひたすら歩き続けた。


森林公園の中で、沙羅は玲の姿を見つけた。

玲は重傷を負い森の中に座り込んでいた。

沙羅の好意を玲は断るが、沙羅は借りを返すといって玲を助ける。

玲は何も言わずにそれを受け入れた。


沙羅と玲の心が近付き始める。

玲は沙羅の気持ちに対して、どう心が動いていくのか…

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