冷ややかな真実
あれから玲は姿を現さない。1週間が経とうとしていた。
玲に頼まれた伝言は父には言っていない。だって言ったら玲が危険な目に遭うんじゃないかって、そんな気がしてならないから。
どうしても玲の事が頭から離れない。何の不自由もなく暮らしてきたお嬢様だから、危険なものに憧れる。そう言われたっていい。事実そうかもしれないんだから。
だけどこの気持ちはもうどうにもならない。
私の気持ちは無意味なのかもしれないけど、それでもいい。この気持ちは大事にしたかった。
「ねえ、聞いた? 由香里が学校に来ない理由」
「ううん、何? 何?」
クラスの女子がコソコソと話してる。こうゆう話は噂になるのが早い。
「妊娠してるんだって! 誰の子かわからないらしいわよ」
「え〜!!」
噂話ほどあてにならないものは無い。由香里の休んでる原因がまったく違う理由になっている。
由香里は順調に回復してる。
退院したら、どうなるんだろう? 一応被害者だけど。やってはいけない事をやってたわけだから。どんな事になろうと私は待ってるつもりだけどね。
「沙羅さん、由香里って援助交際してたんでしょう?お金とかせびられなかった? 大変だったんじゃない?」
クラスの女子が起爆装置にスイッチを入れるような事を聞いてきた。
「あの子の家母子家庭だったし、大変だったのよねきっと! それはわかるけど、援助交際なんてね……沙羅さんもせいせいしたんじゃない? 育ちのあまりにも違う人と付き合うのって大変でしょう?」
ついに起爆装置のスイッチをONにしてしまったな!
お前ら、何様? 人の本当の姿を見ないで見かけや育ちでしか人を判断できないなんて、人の事をとやかく言う資格のない人間達!
この時とばかり、金と権力の前にひれ伏しゴマをすってくるヤツら、最低!
私はスクッと立ち上がると、自分の座っていた椅子を持ち上げる、そして上に振りかざした。
「どけぇ〜!」
私の怒鳴り声が響き渡って、窓際にいた生徒達は蜘蛛の子をちらすみたいに左右に散らばる。私は窓に向かって椅子を投げつけた!
ガシャーン! ガラスが割れる凄まじい音が響き渡り、校庭にガラスが降り注ぐ。
私に話しかけてきた、女子はその場にしりもちを付いて、私を怯えた目で見つめていた。
「あんたの心は腐ってるよ」
私はそう言って、その女子を睨みつけ、教室から出た。
廊下で教師達とすれ違った。私の顔を一瞬見て、教室へと入って行く。
何も言えない教師ども、いいように利用したいが為だけに近付いてくる生徒達。
まるで父に対する、自分の姿を見てるようで胸くそが悪くなる。
私は心の中で何かが弾けたのを感じる。
私は家へと急いだ。昼間なら人も少ない、やれるかも!?
私は私、誰の物にもならない。
父の為だけに生きてるわけじゃない。あんな家出てやる。
私はそう決心していた。
家の裏側は監視カメラの少ないはずだから、家の裏側から家の中に入る。
裏口で靴を脱いで、自分の靴を手で持ち家に上がる。
台所を通って、大きな食卓の置いてある部屋に入る。その時、父の下で働いてる人たちの声が聞こえてきた。
あ! やばい!
私は慌てて、大きなテーブルの下にかくれて、椅子で自分の姿を隠す。
息遣いが気付かれないように、そっと息をする。
「聞いたか? お嬢様の友達の話」
「ああ、聞いた、鬼柳組の話だろう? しかし総帥らしいとゆうか、恐ろしい人だよな?」
「ああ、気付いた時にはもうヤク中になってたらしいけど、普通それでも抜けさせるだろう? だけどあの方はビジネスにはシビアだからね」
「利用できる者は全て利用する、恐いね」
「俺達も気をつけないとな、ドジを踏んだらおしまいだぜ」
男達はそんな話をしながら通り過ぎていった。
これはどうゆう意味?
私はテーブルの下で少しの間考えた。
私の友達って由香里の事よね。それから鬼柳組は暴力団。父が知っていたって、暴力団とつながりがあって、ビジネスをしてるって事なの?
由香里みたいにヤク中にしておいて逃げられなくして、仕事をさせてるって事?
全ての黒幕は、父である松永恭次郎。
私は不思議と驚かなかった。だけど胸が重く苦しくなるのを感じた。
自分でも薄々気づいていた事を再確認させられた感じ。
ただ、見たくなくて気付かないふりをしていた。
もちろん、由香里の件とつながっているとは、そこまでは思っても見なかった。
父が知っていた。なのに抜けさせる事無く利用し働かせていた。松永恭次郎……
背筋に寒気が走る。恐れと悲しみを含んだ怒りがこみ上げる。
笑えた。そんな父の娘が私、なんだかとても笑えた。
人間て怒りを通り越すと笑えるものなのかしら。
私は靴を持って、人目に注意をはらい自分の部屋に入る。
家出をするのは止めにした。
この部屋で父の帰りを待つことにする。
絶対に許さない!
次々と沙羅にとって残酷な真実が明るみになっていく。松永恭次郎とゆう男はいったいどんな男なのだろうか?
沙羅は父に対して怒りを露にする。その時父である松永は…




