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※僕らは特殊な肉体を享けています。危険ですので絶対に敵にしないでください。  作者: 諏訪静雄
第1章 1年2組はRPG(ロールプレイング学級)
9/14

サッカー部も寝坊を知らない

感想と評価を初めていただきました。

アレの効力凄いですね。

気がついたら2話分書き上がってました。

ありがとうございます!

 俺が所属する珱海学園サッカー部は全国常連一歩手前くらいの強豪だ。

 暑かろうが寒かろうが、入部したての1年生だろうが関係なく朝6時20分から90分間の練習を毎日こなしている。

 そんな生活をたった2か月だろうと続けていれば、そろそろ起きる時間だと体が覚えてくれるもの。

 だから、夜更かしさえしなければ枕が変わろうが寝床が変わろうが関係なく起きられる自信があった。

 どっちかというと、勝手に目が覚める感じだけどな。


「……朝練してーな……」


 日の出とともに目を覚ましたカイトはゆっくりと体を起こすと、とりあえず日課のストレッチを始める。

 これをやらないと調子が上がらないと知って以来、寝ている間に固まってしまった筋肉をほぐしつつ眠気をスッキリさせるこの行為を一度も欠かしたことはなかった。


「んー……はぁ。……さて!」


 ストレッチも終わったことだし、着替えるか。

 にしても、このクローゼットどうなってんだろうな。靴も下着もサイズぴったしのしか入ってないとか、準備良すぎてやべぇわ。

 でも、サッカーボールが無いからなぁ……。


「クロサキのおっさんに頼んだら取り寄せてくんねーかな~」


 カイトは誰もいないのをいいことに豪快に着替えながら、七夕の短冊に書くような思いで願いをつぶやく。

 ボールは無くてもランニングと体幹を各15分づつ延ばせば、一応朝練並みの運動は確保できる。しかしそれではボールタッチの感覚が鈍ってしまうだろう。

 カイトはプロを目指しているわけではない。

 だが、サッカーを好きになったその日からボールに触らなかった日はないくらい、サッカーという球技を愛していた。


 そんな彼だったから、気づくことはもはや必然だった。

 自身の特殊すぎる肉体に仕込まれた、クロサキ提案のユニークな機能に。


「どこでもボールを射出できるベルトでもいいな。いや、いっそのこと体からボールが出てくれば……」


【 蹴球生成機能 作動 】


 突然、意味不明な漢字のイメージが湧いた気がした。

 いや、頭に機械的なアナウンスが響いたような気さえした。


「は?」


 意味不明すぎて真顔で声が出ちまった。

 え? 何、今の。絶対に俺の意志じゃない!

 ハッ!! これが「こいつ、直接脳内にッ!?」ってやつか!!


 未知の状況を楽しむ思考に切り替わった瞬間、Tシャツがお腹のあたりで膨張を始めた『何か』のせいで妊婦のように伸び始める。それに腹筋の下で激しくうごめくような感覚も連動したことで、いきなりホラーチックな状況に変化した。


「ナニナニ!? なんか生まれんのッ!? えっ!? 産むの!?」


 服の下からテンテンと転がり落ちて来たのは、白の正六角形と黒の正五角形によって形成された半正多面体。

 彼が今、最も欲していたものだ。


「……サ、サッカーボール?」


 ありのまま起きた光景に声が引きつっている。しかし、それもすぐ歓喜の雄たけびへと変わる。


「嘘だろ、おい……! この体パネェ!! えっ、まだ出せんのかな?!」


【 蹴球生成機能 11時間59分後 】


「あっちゃ~! そういう感じか~。いやでも、すげぇわコレ!! そういや機能がどうこう言ってたな。コレがその一つか!」


 てことは、もしかして魔法でサッカーボールに炎とか氷とか雷とかを纏わせて、敵に蹴りつけて攻撃できるのか!?

 うわっ、それは予想の斜め上だわ! めっちゃ楽しいじゃん!!

 よっしゃ! 今日の朝練のメニューは必殺シュートの練習に決定!!


 俺はまだ魔法の使い方も知らないのに、上機嫌で寮から一番近い訓練場へと突撃する。

 かなり朝早い時間にも関わらず、広い芝生の訓練場には既に先客がいた。


「おーい!!」


「おー! お前にしちゃずいぶん早いじゃねーか、カイト」


 今の俺よりも機嫌のよさそうなツトムがさっそく馬鹿にしてきた。

 俺が朝早いのがそんなに珍しいかよ!


「だーかーらー、俺は本当は教室に一番に行ってんだって! 遅刻は否定しねぇけど、寝坊だけはしたことがねぇんだよ!」


「だったら、朝飯くらいこのくらいの時間に食えるだろ。吐かない程度に食ってから部活行けよ」


「アホか。カレーを半分だけ食うとか無理だわ。食うなら一気に食いたいんだよ! 俺は!」


 弁当箱に詰めたカレーを2回に分けて食うなんてのは俺のポリシーに反する。一度手をつけたなら完食するのが筋ってもんだと俺は思う。


「お前、朝っぱらからカレー食ってたのかよ……。いや、にしては時間かかり過ぎじゃね!?」


「そりゃ、母さんがこんくらいの弁当箱に入れてくるからな」


 俺はジェスチャーを交えてその馬鹿みたいな大きさを教えてやることにした。多分、2人前くらい余裕で入ってるけど、そんくらい食わなきゃ体力つかないからな。


「はぁっ!? デカッ!? そりゃ時間かかるわッ!」


「だろ? だから、いつも遅れてくのは仕方のねぇことなんだよ。朝練のない日なんて無いからな」


「そういやこの間の大雨の日もやってたな、サッカー部……。あれは流石に鬼だと思ったわ」


「だよな! 「雷が鳴らないうちは大丈夫だ」って、その鳴った1発目がここに落ちたらどうすんだっての! 感電死するわ、ボケ!」


 ツトムは同じく強豪のバスケ部所属だから、同じ運動部としてよくコーチの愚痴を言い合う仲だ。

 俺と違うのは勉強もできるところと、マイナーだけど面白い漫画やアニメに詳しいところ。

 2組でなら多分、同じサッカー部の清水きよみず岩田いわたの次によく話してる。

  

「……で、ツトムはこんな朝っぱらから何してたんだ? お前らは朝練ないだろ?」


 その代わりにバスケ部は体育館だから絶対に毎日あるんだもんな。


「あー、それはだな……あれっ!? お前それ、どっから持って来たんだ!?」


「どこって……俺の腹の中からだけど? 産みたてほやほやのサッカーボールだぜ!」


「卵じゃねぇんだから……。で? どこにあったんだよ。いや、そこにバスケットボールもあったかどうかだけでいいや」


 あ、明らかに信じてないな……。

 よし、黙っとくか。

 そんで、目の前で本当に産むとこを見せたほうが面白そうだ。


「なかったよ。ここがイングランドじゃなくてアメリカに似てたらあったかもな。……で? なにしてたの?」


「まぁ……色々とな。身体能力の確認とか、実験してたんだよ。アニメみたいに猛スピードで動けるのかとか、2メートルくらいジャンプ出来るのかをな」


「おおっ! それで結果は!?」


「フッ……見てな」


 自信満々なツトムはクラウチングスタートの体勢を取ろうと、訓練場の端をキリッと見つめたまま屈んでゆく。

 手をついて、一呼吸。

その一瞬の静寂を振り切るようにして彼は勢い良く駆け出した。


「ッ!!」


「うぉおおおおお!!……あれ?」


 たしかに速いが、思ったより劇的ではない。

 まだボルトの方が速い気がする。ちょっとさっきのドヤ顔が恥ずかしい速さだぞ、ツトム……。


「俺も走るか……」


 俺もツトムのあとを追ってウォームアップのつもりで走り出してみると、なんのことはない。

 明らかに身体が軽かった。疲れ知らずに調子のいいときと全く同じで、いわゆるゾーンのような感覚だ。


「これは……! ハハッ、ドヤ顔になるわけだ。こんなのニヤけない方がおかしいぜ!!」


 全力で走ってるのに、この余裕!

 うわ~、この状態でサッカーできたら心底楽しいのにな~。


「おーい、カイトー! そのままこっちに向かってジャンプしてみー!!」


 訓練場の端、すなわち校舎の前まで約200mを走り抜けたツトムが余裕の表情で手を振っている。


 アイツ、少しも息が乱れてないじゃねぇか!

 この身体の心肺機能、鬼強かよ!


「おっしゃあぁぁ! 2階まで飛んでやらァ!」


 この身体なら行ける気がする!

 あそこの窓枠に跳び乗ってやるぜ!!


「せいっ!!?……あぶねっ!!」


 と思ったけど、いつもの二割増くらいしかジャンプできなかった!!

 でも、窓枠にギリで手が届いたから、とっさに掴んでなんとか壁に激突せずに済んだ。


「おぉー! やっぱカイトでもそんなもんか。良かったー。これで宣言通り2階まで跳び上がられたらバスケ部の恥だったぜ」


「あのなぁ…。お前、俺じゃなかったら壁にべチーン! ってなってたとこだぞ!?」


 左手だけでぶら下がりながらツトムを睨む。


「いや、お前なら大丈夫って信じてたんだぜ!」


「ったくコイツ、調子のいいことを……」


 まぁ、なんとかできる自信があったから突っ込んだ俺も俺か。


「わりぃな。調子乗ったのはお互い様ってことで」


「ま、いいや。速さもジャンプ力も極端には変わんねーっぽいけど、ダンクシュートくらいなら出来そうだ、なっ! ……っと!」


 着地もいつもより軽やかだけど、多分2階から落ちたらキツいな、こりゃ。

 現実はそう甘くないってことか。結局、重量とか筋力の問題だしな〜。


「そうだな。だけど、それより疲れないって方がデカいだろ」


「たしかに。試合中ずっと全力疾走出来たら、サッカーだろうとバスケだろうと絶対に勝てるしな」


 このあと朝練と同じメニューをしてみて分かったんだが、この身体の本当に凄いところは呼吸が乱れないことと少しも疲れないことだった。

 普段は2分でもキツい体幹トレーニングを5分以上続けられたのは流石にヤバい。

 しかも、ツトムが発見した時計機能によって、かれこれ1時間以上休みなく動き続けていたことも分かった。


「てか、もうそんな時間!? あとちょっとで朝飯じゃん!!」


 流石の俺でもご飯に遅れる事だけは許せねぇし、そもそもめっちゃ腹減った。

 あーあ、必殺シュートの練習したかったな〜。

 

「カイト……。ちょっとだけそのボール貸してくれねぇか? やってみたいことがあるんだ」


「ほいよ。じゃあ先に戻るぞ?」


 何がしたいかは知らんが勝手に使ってくれ。少しも汗をかかなかったが、気分的にはシャワーを浴びておきたいんだ。


「いや、ちょっと待てよ! カイトらしくねぇな。ここは魔法の世界なんだぞ!? 炎のシュートとか蹴れるかもしれねぇじゃん! どうせ汗もかいてないし、ギリギリまで試してこうぜ?」


「……せっかく人が朝飯に遅れないようにしてたのによー……。そんな風に言われたら、やるしかねぇじゃねぇか!! あ、だけど一発勝負な。まだ魔法の使い方だって知らねえのに、何回もやるのは効率わりぃからな」


 試行錯誤っていうのは基礎が出来てからやるもんだ。魔法の出し方も分からないのにそれの応用を繰り返すのは無意味に等しい。

 一発で出来なきゃ根本から発想が違うってことだ。そんときゃもう俺には分からねぇから訊いた方が早い。


「それもそうだな、オッケー了解。じゃ、まずは俺からな。言い出しっぺの法則だ」


 そう言ってツトムはボールをPKっぽくセットした。狙うは軍隊の司令官が朝礼とか式典で立ってそうなレンガ造りの屋外舞台。

 高さと幅がちょうどゴールと同じくらいだったから、前面の壁をさっきからずっと的として使わせてもらってる。

 

「……ふぅ。いくぜっ!」


 どうやら足に意識を集中させているらしい。

 でも、そう簡単に魔法が使えるならとっくに……。


「”ライトニング”ゥゥゥゥ、ドライブッ!!」


 蹴る瞬間、明らかに静電気そっくりなバチッという音が響いた。

 うっすら電流のような細い光を纏ったボールはドライブ回転によって急降下して壁にぶつかると、バチィッと弾けるような音を立てて跳ね返る。


「「出来んのかよっ!!!」」


 え? マジで!?

 え、これ、俺にできなかったらアレじゃん……。

 サッカー部の恥じゃん!!


「……ぜってー、成功させてやる」


「お、おう。頼むわ……。まさか出来るとは……。」


 跳ね返って戻ってきたボールはほんの少しだけど焦げていた。流石に電気や炎で包まれれば燃えたりするらしい。

 気張り過ぎてあんまり強い魔法が出ると、ボールの方が先に燃え尽きちまうかもな。

 

「……いや、いっそ燃やし尽くすくらいの気持ちで蹴ればいいのか」


 だって今から11時間後には、次のボールが出せるんだしな。

 朝飯の場に持っていくのはガキっぽいし、かといって体に戻せるかもわからねぇ。

 むしろ、俺のシュートで焼き尽くせれば一石二鳥じゃねぇか。


「ツトム、『燃やすぜ!』って感じの英単語を分かるだけ教えてくれ」


 俺の知識じゃ、『ファイアドライブ』か『フレイムシュート』がいいとこだ。

 名前は大事。すっごく大事。


「おう! ファイヤー、ブレイズ、バーン、バーニング、フレイム、フレア、パイロ、ボルケーノ、プロミネンス、イフリート、シャイターン……くらいかな」


「……すげぇなお前。中二病かよ」


「いや……なんか、スラスラ出て来て……。自分でもちょっと引いてる……」


「ハハハ……。だけどまぁ、おかげで決まったぜ」


 これからもっと強い技を編み出した時のために、今は基本っぽい名前でいいな。


「……よし」


 目を閉じて精神統一。

 利き足である左足に体中の熱を溜めるように……。

 いや、それを更にボールに触る接地面だけに集中させるように……。

 よし。なんとなくだけど、意識ができた気がする。

 あとは自分を信じるだけだ。この体なら、絶対できるって……!


「行くぜッ! ”フレア”ドライブッ!」


「おいそれ、ポケモ……」


 かつてないほどの勢いで振り抜かれた左足。

 そこから放たれた猛烈に縦回転するボールは紅い炎の尾を引いて、ツトムのツッコミを掻き消すほどのバーナーみたいな燃焼音と共にまっすぐレンガの壁に突きささった。


 ……そう。突き刺さったのだ。

 というか、突き破った……。


 そして、中には花火でも爆発物でも仕舞ってあったのだろう。

 レンガで出来たその舞台は俺たちの目の前で盛大に吹き飛んだ。


 校舎に反響したことで全方位から聞こえるいくつも重なった炸裂音の中、破片を広範囲にまき散らしながら白い煙が立ち上る。


 俺とツトムは顔を見合わせると。


「……ずらかるぞ」


「……あぁ」


 何も見なかったことにして、猛ダッシュでみんなが待つ寮のロビーへ向かった。


 俺はボルト顔負けのスピードで走りながら、この体がどうして疲れないようになっているのか理解した。


 冒険とは、常に死の危険と隣り合わせ。

 だから、少しでも状況が悪くなったときに……


「全力で逃げる為だぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」

うまく にげきれた!

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