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※僕らは特殊な肉体を享けています。危険ですので絶対に敵にしないでください。  作者: 諏訪静雄
第1章 1年2組はRPG(ロールプレイング学級)
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委員長は己の真価を知らない

前回の話の後半部分を大幅修正しました。申し訳ありません。

 寮からすぐのところにある、収容人数500人という異様な広さを誇る『大食堂』。

 当然、他の生徒たちも同じように朝食を食べに来るので、彼らの好奇の視線にさらされながら僕たちは朝食をとるハメになった。


 といっても、僕とマリン以外は誰も気に留めていない……。

 いや、むしろ我が物顔で食べてるね……。

 なんという胆力……。


 「ラギ長? 食わねーなら、そのベーコン貰うぞ?」


 相当お腹が減っていたのか、カイトのモーニングプレートは既に空っぽだった。

 にゅーっとフォークが伸びてきて、好物だからとっておいたベーコンに迫る。


 「あっ、ちょっ、食べる食べる!」


 盗られないように慌ててほおばると、絶妙な塩加減と適度に肉汁の残るカリカリとした食感が口に広がった。

 昨日もそうだったけど、こっちのイギリスはかなりご飯がおいしい。

 この世界に存在する魔法のみなもと、すなわち魔力の影響でこっちは食材そのものが良質なんだって夕飯の時に教えてもらった。

 ……魔力の主成分って、なんなんだろう。


「さて、そろそろいいかしら。食べながらでいいから聞いてね」


 シロサキさんの方に、みんなの顔がいっせいに向く。彼女がなかなかのスピードで食べていたのは早く話をするためだったようだ。


 あの後、他の4人とは無事に合流できた。

 幸いなことに誰も不審者と出会うことは無かったそうだ。


「まず、今朝の爆発なんだけど、おそらく学校外から侵入した私たちの敵による仕業よ」


 みんなの表情が引き締まる。

 さっき話を聞いていたはずのカイトや、この世界に来てからずっと余裕そうだったツトムでさえ、息を飲んだのが分かった。


「実はこれまでも何回か嫌がらせ程度に実験施設や寮への攻撃はあったのよ。だから今回も多分、同じ犯人の仕業だと思うの。……ただ、始業式くらいしか使わないとはいえ、この学校の屋外壇が完全に破壊されたことで、相手の実力が無視できないレベルだと明らかになったことで、学校関係者全員は容疑者から完全に外れた。あの中に火薬を保管していたことはこの学校の生徒でも知っていることなんだけど、厳重に保管されてるからイタズラしても火が付くはずがないのよ……」


「……だから、外部犯によるものだと? 無理やり火をつけられるほど強力な魔法を使えたから」


「その通り。しかも、使われた魔法は基本的・・・な攻撃系魔法、”フレア”と”ライトニング”だけだった……。まだ魔法についてほとんど説明してなかったけど、この意味は分かるかしら?」


「えぇ。「今のはメラゾーマではない、メラだ」ってことですね」


 ミヤビさんの喩えが的確すぎて、ツトムが紅茶を吹き出しむせた。


「ゲフゲホッ……。 まさか、ミヤビさんの口からそのセリフを聞く日が来るとはwww」


「えーっと、使い手が強すぎて弱い魔法でも強力な魔法になる、ってことでいいんだよね?」


 僕以外は分かったみたいだけど、念のためミヤビさんに確認を取る。


「そうよ。本気を出すまでもないという犯人の思惑が感じられるわね」


「えぇー……なんでそんなラスボスみたいなのに私らは敵視されてるんですかー? 魔王を倒したいわけじゃないのに」


 ユウキさんのその疑問はこの場にいる誰もが抱いていたと思う。

 狙われる理由がわからないまま攻撃されるなんて嫌すぎる。


「それはもう犯人に訊いてみないと分からない……。でも、今回の襲撃の意図が私たちに対する警告なら、なおさらそれに屈するわけにはいかないわ!」


 机をドンと叩き、シロサキさんは力強く宣言した。

 日本語で話しているため盗み聞きされる心配はないが、注目はどうしたって集めてしまう。

 だが、そんなことはお構いなしにシロサキさんは続ける。


「あなたたちの体は魔法の粋を集めて生み出された史上最強の存在、『VUH』。どこの誰だか知らないけど、あなたたちの前に立ちふさがったことを後悔させてあげるのよ!!」


 陰からコソコソと邪魔されることへの怒りと、犯人と分かり合えていないという事実への悲しみ。

 そして、相手が悪かったわねという哀れみの感情が彼女の中に渦巻いていた。

 

「でもそれって、どうすればいいんですか!? 正直、今、私の前に犯人が現れても倒せる自信なんてこれっぽっちもないんですけど……!?」


 不安なのが一目で分かるほど、マリンの顔は青かった。

 鏡がないので分からないが、多分僕の顔も同じくらい真っ青になっているだろう。もし、今すぐに魔法が使えるようになったとしても、基本的な魔法でとんでもない威力を出せる相手にいったいどう立ち向かえというのだ。


 僕らは『死なない』。

 でもそれは、あくまでゲームのように新しい肉体でやり直せるということ。

 だから、『死』=『負け』と考えれば、『死なない』=『負けない』であって、『勝てる』という保証にはならない。

 技術や運、戦術要素の大きいゲームだったら、何回も繰り返すうちに勝てるかもしれない。


 でも、これはゲームシステムの一部を再現しただけの現実だ。

 将棋で飛車と角を抜くハンデを背負ってプロに挑んでも勝てないように、現実にはどうしても勝てない状況がある。

 この未知の強敵に勝つことは、そのくらいのハンデをひっくり返すようなもの。


 先行きの見えない不安が僕の心に巣くい出した、その時。

 

「大丈夫よ! その辺も含めて、まずは『VUH』の機能を紹介するわ。本当はもっと人が揃ってから説明する予定だったんだけど、今回の件で悠長なこと言ってられなくなったから予定を数日前倒しさせてもらうわ」


 シロサキさんは強くて優しい笑顔で明言することで、僕たちがこれ以上不安にならないように気を遣ってくれたようだ。

 少しだけだが確実に、希望が湧いたのを感じた。


「今、あなたたちの体に組み込まれた機能は大まかに6つよ。そのうちの1つが『復活機能』だから、これは説明を省くわね。ちなみに、もう見つけたよっていう機能はあるかしら?」


「あ、はい。時計機能と紅茶セットが出せる機能を見つけました」


「オッケー。じゃあ、それから軽く説明するわね」


 なんだか教え方が先生みたいだな。

 そういえば、さっきシロサキ先生って呼ばれてたような……。


「まず、『時計機能』。時間を知りたいと思えば、いつでも頭に今の時刻が思い浮かぶわ。これがある限り、遅刻の言い訳に時計の故障は使えないからそのつもりでね? カイト君?」


「なぜバレたし」

「おいこら、バカイト」


「次に、紅茶セットが出せる機能ね。これは正確には『物質生成機能』といって、サイズに限定があるけど登録したものをなんでも1つ、体内で作り出せるわ。一度出しちゃうと体の中には戻せない上に、次に出すまで時間がかかるから使うときは注意が必要ね」


 紅茶セットが出て来た時は何事かと思ったけど、思ったよりも凄い機能だった。


「あれ? じゃあこのお湯はどうなってるんですか?」


 マリンが自分のカップに湯気の立つ熱湯を注いで見せる。


「あぁ、それはおまけ機能よ。他にもまだ隠された機能があるから、探す楽しみとして残しておくわ。遊び心って大事よね」


「それ、他にも遊びで付けた機能があるってことですよね……」


 マリンがふざけてる場合じゃないと言いたげにジト目で迫る。


「まぁね。でも、何かの役に立ちそうな機能だけにしたから安心してちょうだい」


 それはつまり、役に立たなそうなネタ機能もあったってことか……。


「さて、残るは3つ。1つはさっき、ヤスラギ君が発見した『自動翻訳機能』ね。文字だろうと声だろうと、勝手に日本語に変換してくれるわ。皆の部屋に置いてある本もこれで読めるわね!」


 本と言われて思い浮かんだのは昨晩読めずに挫折した魔法についての参考書。

 あ、もしかして……。


「ミヤビさんって、昨日一回寝てから本読んだの?」


「んー、そういえばそうね。トイレに行きたくなって夜中の2時くらいに目が覚めたあと、ずっと寝落ちするまで読んでいたわ」


「なるほど、そうだったのか。ちょっと安心した」


「あら、あの程度なら英語でも最初から読めまして……たわよ?」


「そうなの!? やっぱ凄いな~、ミヤビさんは」


「そ、そうでもないわよ! それに、今はもう誰でも読めるんだから意味ないわ!」


「そんなことないって~。……だよね?」


「「「「「そうだね~」」」」」


 ……あれ? なんか、みんなの目が不自然なくらい優しい。

 

「それじゃあ次ね。あとの2つは、ゲームでは基本中の基本の機能よ。その名も『スタートボタン』と『チャット機能』よ!」


「えっ、『チャット機能』はわかるけど、『スタートボタン』ってなんすかッ!?」


「お、じゃあツトム君に試してもらおうかな。左耳の後ろあたりに小さな四角いボタンみたいなのはないかい?」


「左耳?」


 思わず全員が左耳の裏側に手をまわす。

 触ってみると、たしかに押せそうな四角い突起が皮膚の下にあるのを感じ取れた。

 

「おわっ! すげぇ!! VRメガネかよ!」


 ツトムは首を振りながら嬉々とした表情ではしゃいでいる。

 僕も押してみることにした。


 カチッという小さな振動が骨を伝わってすぐ近くにある耳に届く。

 それと同時に、視界の中央に重なるようにして半透明の白い選択画面が出現した。

 枠に囲まれた4つの選択肢が縦に並ぶ。どうやらメニュー画面のようだ。


 ・ステータス

 ・スキル

 ・チャット

 ・オプション


 眼球に張り付いているかの如く、どんなに首を振っても常に視界の真ん中にあってぶれることなく文字が読めた。

 ぶっちゃけ感動はしてるけど、もうこれくらいじゃ驚かないな。

 

「シロサキさん、これってどうやって操作するんですか?」


 ツトムが手で空を切っているが、この画面に触ることは出来ないようだ。


「手のひらに十字ボタンがあるでしょ?」


「え~、なんでそこだけ古いカーナビみたいな感じなんですか……」 


「視界に表示させることはできても、本来そこには何もないの。だから、タッチパネル式にはできなかったわ。というか、私が向こうにいたときはこれが普通だったのよ! なによ、スマートフォンにVRメガネって!! 進歩しすぎよ!」


 ちょっと顔を赤くしてシロサキさんは文句言うなと吐き捨てる。大人の女性だが、その姿はけっこう可愛かった。

 

「はぁ……。まぁいいわ。とりあえず、そこからも選べる『チャット機能』から説明するわ。といっても、これは『VUH』同士、もしくは『マザー』とメッセージのやり取りが出来る、そのまんまの機能よ。チャットって5回言っても起動するわ。時計と違って面倒になってるのは、誤作動を防止するためよ」


「なるほど! さっそく使ってみてもいいですか?」


「ええ、もちろん」


 スマホ中毒の禁断症状で今朝からずっとうずうずしていたマリンは、許可を貰うとすぐに目を閉じて文字の入力に集中し始めた。


「メッセージの入力は頭の中で思い浮かべる感じだから、ちょっとコツがいると思うの。だから、何度も使って早めに慣れてね」


 シロサキさんがそう言い終わるよりも若干早く、おそらく自分にしか聞こえていないティローンと軽い音とともに視界の端に点滅するメールのアイコンが出現した。


「送ったよ~」


「お、さっそくかよ、マリン」


「あ、そうそう。メールのアイコンが出てるときは、メールを見たいって思えば見れるわよ」


「へー! それはすごく便利ですね! どれどれ……」


 メールを読みたい! とみんなが心の中で思う。

 アイコンのところからウィンドウが持ち上がるように出現した。


 〔あ~、テステス。おお、考えたことがどんどん入力されてる! え~こちら、駿河原マリン、駿河原マリン。ただいまメールのテスト中。聞こえますか~? 今、あなたの目の前や隣にいる、駿河原マリンですよ~。貴方の心に直接話しかけています。あれ? これ字数制限とかない感じですか? 凄いですね~。楽しいですね~。ていうかコレ、LINE風にできればもっと便利じゃないかな? シロサキさんに相談して、そのうち変えてもらおうよ! 絶対にその方が便利だって! あっと、それではテストを終了します。御精読ありがとうございました~!〕


「「「「「長いわっ!!!」」」」」


「ていうか、今の一瞬で!?」

「いつも以上にうるせぇな、これ」


「アハハ! これスゴーイ!! 超楽しい~!!」


 さっきまでの青い顔はどこへやら、今まで見てきた中で一番楽しそうなマリンの姿がそこにあった。


「女子高生ならきっと気に入ってくれるんだろうな~とは思ってたけど、その反応は素直に嬉しいわね」


 そりゃ携帯電話に変わる機能が体についてたら大喜びするでしょうね。


「さて、じゃあ最後に一番大事な『ステータス』と『スキル』について説明するわね」


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