電話
「と、そんなことがあったんだよ」
俺は今日の一部始終を声に出して伝えた。
『あははは。それは災難だったね』
電話越しに女子の笑い声が耳に響いてきた。
俺はその返答に顔を渋らせる。
「笑い事じゃない。あの後、なんか周りの視線が俺を哀れんでいたんだぞ。何故だか、物凄く虚しい気持ちになった」
『ごめんごめん。でもさ、その女の子・・・えーと倉元さんだっけ?ホントに何も覚えてないの?』
「無い・・・はず。一時間記憶を巡らした結果では、俺には倉元と言う知り合いはいなかった・・・と思う」
はっきり言って自信がなかった。アレだけ蹴られたら俺の記憶を疑ってしまうからだ。やはり単に忘れてしまったのか?
『自信皆無なの?まあ、話を聞いた限りじゃあ、強ち嘘って言えそうも無いね』
うむ、良く分かってくれている。長年の付き合いは伊達じゃないだろう。
『それで、今後はどうするの?』
「やっぱり本人に聞いた方が早いと思う。明日にでも倉元さんに尋ねてみる」
『でもそれって今日断られたんでしょ。口には出せないような事したわけ?』
「それは断じて無い。誓って言うが俺はそんなことはしていないぞ」
事実だ。俺は腐った蜜柑なんかじゃない。それ以前に人も殴れない根性無しなのだ。
そんな俺が一体何をやらかしたと?
『ほら、自分でも気づかないうちに爆発しちゃったとか』
「何が、爆発したんだ?」
『男の欲望』
「・・・・・・」
『冗談だって。真剣に考えなくていいから』
「なんだ。冗談だったのか」
『当たり前でしょう』
「ほっとした」
全く心臓に悪い。ちょっとだけ本気にしてしまったではないか。
今までのストレスが爆発して、彼女に・・・・・・・・・・あああ駄目だーーー!!!それ以上考えてはいかん!!
俺は被りを振って思考を追い払う。
「それで、いつ帰ってくるんだ?」
俺は話題を変える。
『うーん、どうだろ?まあ今月中には帰ってこれると思うよ』
「そんなに、大変なのか?」
『そうよー。全然休みくれないんだから。まあ後ちょっとで長期休暇だけどね』
「じゃあ、その休暇のときに学校にも行くのか?」
『そのつもりだけど。何?来てほしくないの?』
「別にそんなことは無い。けど俺、目立つの嫌いだから」
『分かってるって。ちゃんと隠すから』
「頼む」
俺は少し安堵した。俺は元来、目立つことを好まない。
だから、この容姿は俺の取ってのコンプレックス。何もしていなくても人にプレッシャーを与えてしまうのだから。
「まあ、頑張れよ仕事」
『そっちこそ、きっと明日から大変だと思うけど頑張ってね』
「・・・・・・それ言うなよ」
『あはは、ごめんごめん』
「じゃあな、お休み」
『うん。おやすみ兄さん』
ガチャッ、と受話器を置いた瞬間そんな音がなった。
俺は首を横に回転させ、リビングに掛かっている時計を見た。
短い針は八と九の間に、長い針は五を指していた。
八時二十五分か。ふうう、なんだかんだで長話になってしまった。
俺は何気なしに、まだ来たままの制服のポケットに手を突っ込む。
そのさいに、くしゃっという紙が潰れるような音と感触を俺は感じた。
?何か入っていたかな?と思ってそれを取り出してみた。
二つに折りたたんだ紙であったので、それを開いてみた。
《今日の放課後体育館裏に待っています》と書かれていた。
・・・・・・ぬををおおおおおおおおおおお!!完璧に忘れていた!!




