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〜ランダム〜  作者: 志貴
7/10

そうでなくちゃ

なんだ?なんなのだ一体。

昼休み。ちょっと昨日のことで、俺を殴った犯人こと倉元亜紀さんに話があったので、隣のCクラスに来たのだ。

俺が入ったとたんに、騒がしかった教室が一気に静かになった。

なぜだか心拍数が上がる。

しかも、お目当ての人物を中心に有象無象が集まっているではないか。

それにみんなこっち見てるし。

中には睨みつけている奴や哀れんだ視線を送ってくる奴が居る。

・・・・・・逃げ出したい。

緊張しているせいか、無意識に下唇を噛んでいた。

ココまで来といてなんだが、この視線を回避できるなら後日に後回しでもしようかと考えてしまう。

だって仕方が無いではないか。

中学校卒業式前日に、卒業証書を貰う時に恥をかかないようにと、一人でこっそり練習していたこの俺が、こんな一人を集中攻撃しているような視線を耐えれるはずが無い。

やっぱり今度にしようかな。

・・・いや、駄目だ駄目だ。何とか今日中に話をつけなければ!!

俺は最大限の勇気を振り絞って、静まり返った教室にこう言った。


「・・・倉元、亜紀・・・さん居ますか?」


・・・小声になってしまった。

仕方ないしゃないか。これが俺の最大限の勇気なんだ!!


「・・・いるわ」


俺が内心で悶えていると、凛とした綺麗な声が静まった教室に響いた。

倉元亜紀が椅子から腰を上げてこっちに歩いてくる。

昨日見ただけでは解らなかったが、結構整った顔立ちをしている。美人の部類に入る。

スタイルもなかなかだ。昨日の蹴りといい、何か武術でもやっているのだろうか?

歩き方も綺麗だ。まるでモデ・・・・・・って、何を考えているんだ俺は!?今はそんな時ではないだろうに!!


「で、何か御用かしら?」

「ッ!?」


俺が妙なことを考えている間に、彼女は俺の目の前にいた。

意識が思考の中にいた俺は、気づくのに数秒遅れてしまった。


「用があるんでしょ。早く言いなさいよ」

「ああ、昨日のことで、話しがある・・・」


俺は彼女の眼を見ながら言う。

相手も俺の目を直視していた。

思えば、人と眼を合わせたまま会話をするなんて何年ぶりだろうか。みんな俺の眼を見ただけで狼狽するのだから、会話なんてする暇が無かった。

だからなのだろう。自分を真っ直ぐに見てくれた彼女に、少し感動してしまったのだ。


「話っていうのはココじゃ駄目な内容?なら外に出る?いい場所があるわ」


彼女は俺の返事など待たずにスタスタと歩いていく。

そして俺もそれに付いていく様な形となってしまったので、どっちが呼び出したのか解らない。

まあとりあえず、彼女に付いていく事にした。





「ここよ」


倉元亜紀が俺に向いて振り返る。

いや、ココって言われても。


「・・・・・・昨日と同じじゃん」


そう、昨日と同じ体育館裏。全てといっていいほど俺には不愉快な思い出しかない。


「ココの体育館裏って結構いいわね。あまり人の目の少ないわよ、ここ」


では何故、俺の無様な姿が目撃されたのでしょうかね?


「そんなの偶然なんじゃない?たまたまそこに居合わせただけよ」


彼女は今度こそは誰にも邪魔されずに、二人だけで話しが出来ると思っているみたいだ。


「で、本題に入るけど。話って何?」


来た。

俺は昨日の事で思う所があり、わざわざあの視線の中彼女を呼び出したのだ。


「君に、これだけは言っておく」


そう、これだけは言っておかなければならない。

今後の俺のためにも!!

俺は意を決して言ってやる。





「申し訳ありませんでした!!!」




全身全霊で謝罪した。もちろん頭を下げている。


「アレからいくら考えても君のことが思い出せなかったんだ。しかし、君が嘘を付いているとは思えなかったし。何より、昨日の蹴りには殺気が篭っていた。明らかに俺を殺すつもりでの手加減の無い一撃だった。それから考えられるのは俺が本当に君のことを忘れてしまったとしか思えない。真に申し訳ない。思い出すよう全力で記憶を探るつもりだ。だからどうか許してほしい」


これが俺の正直な気持ちだった。俺は今まで悪事なんて働いたつもりはないが、他人によってはそう受け取ってもらえない場合がある。

きっと彼女もそういう場合なのだろう。

俺は上目遣いに彼女を見た。


「え、は、へ?」


むむ、誠意が伝わらなかったか。仕方が無い、最終手段だ。

俺はその場に座り込み、襟を正す。俗に言う正座だ。


「すみませんでした。全身全霊を持って思い出させて頂きますので、どうか許してください」


俺は手を地面につけて、額も地面に擦りつける。

俺だってれっきとした男だ。プライドだってある。本当はこんな事はしたくはないが背に腹は変えられないのだ。


「ちょっと、もう良いわよ。許してあげるから顔を上げてってば」


俺の誠意が通じたのか、彼女から許しのお言葉を頂戴した。

しかし、その言葉に何処か笑い声のような物が含まれているのは、俺の気のせいなのだろうか?

俺は脚に力を入れ、制服に付いた砂を払いながら立ち上がる。

・・・・・・彼女は、笑みを浮かべていた。


「やっぱりあんたは、そうでなくちゃ」

「は?」

「何でもないわ。何でも」


彼女は笑顔だ。

昨日のような鬼気迫る雰囲気はない。まるで別人のようだ。

今なら聞けるかもしれない。


「あの・・・・・・俺は一体、君に何をしたのか聞いてもいいか?」


ずっと気になっていた事だ。

俺が何かを彼女にしてしまったことは確実かもしれないが、その、具体的に何をしたかを聞けば思い出すかもしれない。

俺の問いに対して、彼女はこう答えた。


「え、そんなの私の口から言わす気?」


・・・・・・ま、まさか。俺は人には言えない様な事をしてしまったのか!?

俺は今まで外見がこれだった為、人々から恐がられ続けてきた。

だから、だからこそ内面は誰よりも誠実になろうと心に決め、今まで努力してきたつもりだった。

そ、それが。


「そういうのは自分で思い出してこそ、誠意を見せるって事でしょ。頑張って思い出してよね」


彼女の言葉は、今の俺には届いていなかった。



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